第2話
「ねえ、ブランシェット」
「ん?」
「あんたが私のところに道具を買いに来るとき、確かに、確かに私は安くしてやってたわよ。でも、それはさ、何も夕方だったからってわけじゃないのよ。お判り?」
「?」
なんのこと? と言わんばかりに笑うユウに、その綺麗な女の人は盛大なため息をついた。
「であんた、その子、だれよ?」
指をさされて、私もユウに習い、「?」という顔をしてみせる。
ユウに連れられて訪れたのは、ある雑居ビルの地下だった。
エレベーターで降りて、入口に立っていたスーツの人に何やら合言葉を言って入ると、大人の集まるバーの奥に、隠し部屋のような空間が広がっていた。その倉庫のような部屋の中には、綺麗な真紅のドレスを纏った細身の女の人が立っていて、彼女は訝しげな顔で、やってきたユウに声をかけたのだった。
「これ? 養女」
「幼女っていうにはちょっと大人すぎない? 制服着てるし、中学生じゃないの?」
「そっちじゃないよ。養子縁組の養。ま、手続きはしてないけどさ」
ユウにもしゃもしゃと頭を撫でられ、私は思わずくしゃみをした。
「え、なんでそこでくしゃみ」
「アレルギー……?」
「ちょっとやめて、地味に傷つくんだけどそれ……」
そんなやりとりを、女の人はじろじろと不快そうに見ていたものの、やがて「ま、いいわ」とユウに近づき、コートの上から胸をなぞった。
「割引分は、あとでくれればいいから。このガキンチョがいないところで、ね」
「え、僕、いつも何かあげてたっけ?」
「仕事明けってわけじゃなさそうだし、どうせ今日はお風呂使っていかないんでしょう?」
「うん、まあ」
女の人は、色気たっぷりにふぅとため息をつき、今度は私の方を見た。
「で、お嬢さん、お名前は?」
「あ……市ノ瀬リアです」
「本名よね、それ。別に本名は聞いてないんだけど、まあいいわ。私はエレオノーラ。エレンで通ってるわ。よろしく」
握手を求められて応じると、数秒で離され、ユウを連れて奥の方へ行ってしまった。
「さ、それで、今日は何をお求め?」
「それがね、少し、大変かもなんだけど……」
「……」
一人で残されて、手持ち無沙汰になってしまったので、壁一面に設置された棚を眺めていた。ものは箱に入っていて、表面にラベルが貼ってあるのだけれど、外国語で書かれていて何が入っているのやらわからない。
少しくらい読めるものはないかと、ラベルを一つ一つ指でさしながら壁伝いに歩いていると、不意にその手を後ろから掴まれた。
「おやおや、今日は可愛いお嬢さんが来てるなあ」
振り向くと、そこにはフォーマルスーツのよく似合う、体格のいい男の人が立っていた。
「俺はウィル。エレンの今彼。なあ、さっきの話こっそり聞いちゃったよ。エレンは女の子には冷たいけど、本当は優しい子だからさ、気を悪くしないでくれよ」
「……」
「ん? どうした……」
「くしゅんっ」
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