第3話



 昨日怪しげな店で放置プレイを決めてきた埋め合わせなのか、次の日の朝、ユウがリアを再度外出に誘ってきたが、あいにく表に出ていたのはの方だった。

「え、なんだよー可愛くない方か」

「露骨に嫌そうな顔してんじゃねえよ……」

 髪の毛をセットしていた俺は、鏡に向かって舌打ちをした。鏡の奥で、壁から半分顔を出したユウがげんなりした表情になる。

「せっかくリアちゃんをロールアイス屋さんに誘おうと思ってたのに。ま、いいか君でも」

「なんだよ。俺が食ったってどうしようもねえだろ」

「いいじゃん。男がアイス食べたって、バチ当たるわけでもなし。ていうか、僕が食べたいし」

「……お前が食べたいのかよ」

 準備して待ってるからー。

 そう勝手に言い残した殺し屋がいなくなった鏡に向かって、顔を近づける。顔色は、前に比べるとだいぶよくなった。まだ生気はないに等しいが、これなら人混みに出かけても体調を崩すこともないだろう。

 それにしても、だ。

 まだ私服を買えていないので、仕方なく制服に着替えながら俺は思う。

 あいつくらいのものだ、俺を「男」扱いするのは。


 中心街はそこそこの賑わいだった。平日の昼間なせいだろう。しかし人気店というだけあって、客は普通に多かった。少し並んだあと、目当てのアイスを手にすると、ユウは文字通り飛び跳ねて喜んだ。

「すっごー! ロールアイスとか初めて来るよー。ほんと、最初はアイス丸めただけじゃん味変わるわけでもなし、とか侮ってたけど綺麗なもんだね。芸術だよ、これはもはや!」

「確かに、綺麗だな」

 季節は秋だが、店内は暖房が効いていて、アイスを食べるのに最適の温度だった。テーブルにかけて、向かい合わせに座る。

「ね、一口交換しようよ」

「仕方ねえな。ほら」

「ありがと。へへ、チョコミントも美味しい」

 ユウがあまりに幸せそうにへらへら笑うもので、一瞬こいつが殺し屋なのだということを忘れそうになる。ふと気になって、聞いてみる。

「なあ、なんでお前は殺し屋になったんだ?」

「ん? さあ、なんでかな。でも僕にはこれが天職なことは確かだし……そもそも、僕らって普通の人じゃないじゃん? 普通の仕事に就くのは、諦めたんだ」

「諦めた……」

 その言葉で物思いに沈む俺のカップに、「ほら苺味も食べなよ」と一口ぶんのアイスが乗せられる。

「俺も、リアも、諦めたほうがいいのかな」

「そうだねえ」

 なんでもないことのように言い、ユウはまたアイスをまた一口食べる。

「とりあえず結社に入ったからには、普通の生活は期待しないほうがいいね。ま、君の場合、今までだって決して普通の生活をしてきたわけではないだろうけど」

「じゃあ俺も、いつかは……殺し屋にならなきゃいけないのかな」

「まさか。裏稼業は何も、殺し屋ばかりじゃないし。向いてないと思うなら、別のことをしたらいい。考えた上で僕みたいになりたいって言うなら、その時は師匠にでもなってあげるさ」

「リアは殺し屋に向いてるかな」

「さあ。ちょっと危機管理能力に欠けるし、ぼーっとしてるから、どちらかと言うと不向きなんじゃない?」

 アイス食べないと溶けるよ?

 そう言われても、なかなかアイスに手をつけることができずにいる俺に、ユウは困ったように笑って、頭を撫でた。

「でも僕、君みたいな子、結構好きだよ」

「嬉しくないし」

「手厳しいなあ」

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