第7話

砂塵や瓦礫で辺りの視界は悪いが、安否確認出来ていない二人がいた地点を目前に

ゆらりと姿を表した人間に銃口を向ける


「ピアーズ。────わたしがわかるかい?」

「……」


ゆっくりと距離を縮めるピアーズにマザーはためらいもなく銃を撃った


細腕に似合わない銃から


ドォォォン

ドォォォン

ドォォォン


規則正しい轟音が響く


左肩、太腿、右腕を撃ち抜いたがピアーズはふらふらと立ち上がる


「やはり、心臓でないとだめか……」


改めて照準を合わせて指が引き金を引く


「!?」


ガチリと鈍い音がするだけで弾は発射さらない


「こんなときに……!」


玉詰まりを起こした銃の引き金を何度も引く

ガチガチとなるだけで肝心の弾はでてこない

目前に迫ったピアーズは白目を空に向け身体を痙攣させている、力をコントロールする腕が使い物にならなくなっているためか、パチパチと静電気の様なものを発生させるだけにとどめている


「仕方ない……」


銃を砂地に放り投げ、ジャケットからナイフを取り出すとピアーズの心臓めがけて降り下ろす


「お姉ちゃん!!!」

「!!」


避難しているはずのライラの声でマザーは一瞬躊躇する


「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」


駆け寄るライラを見てマザーは


「来るな!!──────」


ライラを振り返ったマザーの後で青白い閃光が走った直後に広いポープ全てが光に包まれる

身体を内側から震わすそれにマザーが倒れる辛うじて視界にはいるライラもその場に倒れている


「ライラ……!」


痺れがある手を伸ばし腰の無線機をとる


「リード、パール……聞こえるか……!?

っ!どの班でもいい、戦える者はいないか!」


『─────────』

「……っ!」


自身の身体から煙をあげるピアーズが背中にのしかかる、やけに熱い身体に抵抗しようともがくが痺れる体は思うように動かない


「わたしに……力があれば……!!」




ザザッ

『はいはーい、こちら新顔。』

「!?────新顔なぜお前が……」


「今そこで拾ったからですねぇ~」


倒れているマザーの目の前にザイルのブーツが現れる


「何やってんだ?」

「……は?」

「おれって新顔だからここの事情ってよくわかんねぇんだけど。お宅等死に急いでるわけ?」

「わけのわからない事を……」


背中でパチッパチッと力を溜めはじめたピアーズにマザーの顔色が変わる


「新顔!今すぐにライラを中へ……!」

「それって、あんたはここで死ぬって事?────勇ましいのは結構だがあんたが死んだら子供等もって考えたことあんのかねぇ」


そう言うと、ふいに背中が軽くなる

ピアーズは勢いよく吹き飛ばされ砂を巻き上げながら転がっていく

ザイルが殴った右手のオートマターを滑らかに動かしながら


「久しぶりに使ったら調整きかねぇなぁ……まぁ仕方ねぇか」

「き、君は……」

「水汲み以外にも使えるっしょ?」


ひらひらと腕をふりながら答えるとマザーを見下ろしながらちゃかす


「ふざけている場合か!」

「……あんた達こそな。黙ってたって死に行く人間が競って殺し合うとかふざけてんのか。」

「知った事を……っ」

「おれが今戦うのは地下で怯えてる子供達のためだ、あいつらは未来そのものだからな」

「!」



跳躍したザイルはピアーズの額めがけて右手を打ち込む、スパークを走らせるピアーズの頭はひどく変形したが依然としてスパークは酷くなる


「心臓を狙え!」

「……まったくひどい話しだぜ……!」


ちらりと気絶しているライラを一瞥する


「悪いな子供……」


ガッっとピアーズの頬を鷲づかみにし、天を仰いだままの目を覗き混む

白濁した目はすでに生気を無くしている


「ピアーズ、お前は確かにここに帰ってきたぜ、弟の事は心配すんなしっかりと旅立てよ」


右腕が甲高い音をたてると思い切り心臓目掛けて打ち込む、肉が潰れて破裂する。義腕にでも感触を感じるほどの衝撃に顔がひきつる。

身体を貫通した右腕からは小さくなっていく悲鳴のような音は次第に消えていった


砂地に横たわらせたピアーズの亡骸はやがてパラパラと崩れ砂と見分けがつかなくなってしまった

よろよろと立ち上がったマザーはそれを確認するとすぐさま踵を返す


「これで終わりか?」

「……安否を確認しにいかないといけないんでね。生きている人間の方が重要だろう?」

「そうかい────」


右腕からしたたる血さえさらさらと砂と還っていくのをみながら溜め息を吐く


「ままならないものだな……やはり長居は無用だな」




─────────────


瓦礫の下になっていた双子は救助され、連絡のつかなくなってしまった班も無事が確認されると、破壊された壁の修復に追われる事となった


「ふぅ、まいったね……」

「マザー、一時的ですが破壊された壁の一部を使った修繕をしていこうと思います」

「そうだね、あとはルリカが戻ってから頼むとしようか、東部遠征からもうすぐ戻る頃だしね。」

「了解しました。」


ボードにのせた紙にペンを走らせると指示を書き込んでいくリードの頭部には包帯が巻かれている


「パールの様子はどうだい?」

「マザーの心配には及びませんあいつは頑丈ですから。」

「そう?大切な次期マザーだからね大事にするように伝えておいてくれるかな」

「……ありがとうございます。」


『そう言われ頬を染めたリードであった。』


ゴッ!!


「貴様……どこからわいてでた。」

「……お前銃で殴るのやめろって、まじで。」

「貴様が好き勝手に発言するからだろう!この軽石頭が!」


額を押さえてうずくまるザイルを般若のように見下す


「相変わらずだね、まぁわたしとしては仲良くしてくれているなら安心だ───ではあとは任せたよリード。」

「はっ!」


後ろの喧噪を背にしてホープの不備を点検してまわる、先日の襲撃でホープは相当にダメージを受けてしまっているようで修復には時間がかかりそうだった

一番の問題は子供達である。今回のそれは今までの中で最もダメージが大きかった

心身ともに弱り切ってしまった者もいる。こんなときにはパールの存在があればと思う、彼女の明るさは私には備わっていないものだきっとパールなら弱り切った子供達を慰めてやれるだろう、だが怪我を負ってしまって今でも寝込む彼女を動かすわけにはいかない。

父はホープを作った時には多くの成人や子供、果てには赤子や老人までいたと聞く

それらを上手く統率し度重なる襲撃と戦い守ってきた、結局わたしは父の類まれなるカリスマ性を受け継ぐことは出来なかったようだ

 

二階にある自室に戻ると椅子に深く腰掛ける。この部屋には簡素なベッドに父が使っていた机に椅子があるだけで壁も床もむき出しのコンクリートで出来ている

形見と呼べるようなものは一切残っていない。

生前父に聞いたことがあった、ほしいものはないのかと

父は薄く笑って


「死んでも持っていけるものならほしいんだけどね」


幼いわたしにはよく理解できずにいた、父が死ぬその日までは

その日は唐突に訪れた。そしてわたしには自分が生きる意味をそしてどう死ぬべきなのかを知った


「お前もわたしも生まれてきてはいけなかった。それは────」



涙は出なかった。あまりにも荒唐無稽な出来事に、ただ酷薄な笑みが湧いて出ただけだった


「覚悟はきまっている───後は時期だけ。」




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