第6話
熱風が砂を巻き上げる砂漠を屋上から睨むマザーに
「全員配置につきました。」
「────こちらに入ってくると思うかい?」
マザーの視線を追うリードが眉を顰める
砂埃の向こう側にある人影に見覚えがあった
「なぜここにもどってきたのでしょう‥‥‥」
「指示した通り置いてきたんだろうね?」
「はい。指定の場所へ放置してきました。ここへ来るよりはるかに近いコロニーもあります」
「だとしたら、やはりおかしいね、彼は────」
『マザー!!』
無線からパールの声が響く
「なにか動きがあったかい?」
『フィルの後方に人間を確認、数は5!』
「‥‥‥詳細を確認次第報告」
『了解!』
無線を切ったマザーが前方を睨む
「リード、フィルの動きがおかしいと思わないかい?」
「───確かに‥‥‥ですが記憶を消したのになぜここに戻ってこれたのでしょう」
ゆらりゆらりと体を左右に大きく振りながらもゆっくりと近づいてくるフィルに違和感を覚えるリードにマザーが指示を飛ばす
「嫌な予感がする。リードパールと合流し事態に備えろ」
「はっ!」
『マザー後方確認できました───そ、それが』
「この間ここから出た人間が戻ってきたか」
『‥‥‥はい』
無線越しにパールの動揺が伝わってくる
「すぐにリードが合流するはずだ、やることは決まっている。すみやかに排除しなさい」
『ど、どうにか出来ないのでしょうか───彼らを元に戻す方法が──』
「やつらに傀儡にされた人間は元には戻らないわかっているはずだね、
わたしの命令を実行しなさい!」
『了解───』
下を見下ろせば、あわただしく右往左往する子供達が目に入る、その中で一際目立つ赤髪を見つけるとマザーがもう一度無線を傾ける
『リード、その付近に新顔がいるはずだ』
猛走を止めて広場を見渡す、動揺した子供等の叫び声や鳴き声で殺伐としたそこにザイルを見つける
「いました。」
『無線をかわってくれ』
「おい!!新顔!!」
「この騒ぎは何なんだよ!何が起こって───」
どんっと胸に押し付けられた無線をあわてて受け取る
「何だ?」
「いいから聞け。」
『新顔、お前に新しい仕事をやる。いますぐその広場にいる子供達を建物奥へ誘導しろ、地下だ
わかるな?あそこなら安全だ』
「地下って、あの───」
ぶつりと無線が一夫的に切れる
「あぁ!もうわけがわかんねぇ!リード!お前が教えなきゃおれは一歩も動かないぞ!?」
混乱の中で砂地にどっかりと腰を据えてリードを見上げる
「ちっ。この忙しい時に‥‥‥
いいかよく聞け施設でモルモットにされた奴らがここを襲撃しに来ているこの壁 を突破されたら皆殺しだ。いまから俺たちはそれを阻止する。
わかったら役に立って見せろ!!」
「いやいや……全然意味わかんねぇわ!」
恐るべき早口でまくしたてたリードは走り去る
あぐらをかいたまましばし考えてみたものの、いまはマザーの言うとおりにした方がよさそうだ 勢いよく立ち上がると錯綜する子供達に声をかけながら誘導していく
───────────────
「パール!」
「リード!」
壁の上で合流を果たした二人はすでに壁際までせまっていたフィル等を見下ろす
胡乱な目は曇ったガラスの様だ
「この中でわたしたちに対抗できる力を持ったやつはいるかな?」
「‥‥‥どんなものになり果てたかにもよるだろうな。」
ザザザっと無線がうなる
『目標到達前に攻撃開始』
屋上にいるだろうあの人の影は砂埃で見えないがきっと今もこちらを伺っている
「やるぞ。」
「わかってる!」
意を決して手を振り上げるパールを確認したリードが両手を掲げると遠方から水柱が立つ それはうねりをあげてフィル達めがけて突進していく
パールの頭上付近を通り過ぎるころにはそれは氷へと変貌していく
凶器と化したそれらは下にいた人間を串刺しにしていく
砂地へどす黒い血飛沫が跡を残していく
大量の砂をまき散らしたそこは静まり返る
「────────マザー、終わりました」
無線で連絡を入れるパールの声はかすれている
それを労わるように肩に手をかけようとした瞬間
ドォォォオオオォン
地響きとともに周囲が青白く光る
「な、なに!?」
ぐらぐらと壁が揺れる
「くっ!」
『何が起きた!報告しろ!』
マザーの声が足元に落ちた無線機から聞こえるがまだ鳴り響く轟音に耳を塞ぐのが精一杯だ
リードが再び水を操り砂煙を空中から払っていく
下に転がる死体の中でもぞもぞと動く人影を見つける、それは大量の血を流しながらも表情一つ変えずに立ち上がる
リードが降らした雨の中でパチッとスパークさせるその人間を見た二人が目を疑う
「ピアーズ────────!」
チカチカと青白く光ったかと思うとまたもや轟音とともに爆発が起こる
もくもくとあがる煙に交じって空中へ飛ばされた壁の一部が落下している
「パール、リード、応答しなさい!」
無線は雑音を拾うだけで何も反応しない、マザーは踵を返して走り出した
一方、地下に避難していた子供達も大きな振動や音に怯えている
「ただごとじゃぁないな……レイヤ」
小さな子供を甲斐甲斐しく面倒を見ているレイヤが振り返る
「こんな事は初めてじゃないんだろ?
なんでこんな事になってる?」
「それは……」
言いよどむレイヤを覗きこむ
「おれ等が……施設を破壊してるからだ」
「はっ?」
「あいつら人をさらっては訳のわからない実験してんだ!だから、だから……」
「だから、対抗してるっつうわけか、ちいせえ子供もいるってのに」
強く唇を噛んだレイヤが殴りかかってくる
「うるせぇ!!余所者のお前に何がわかるってんだよ!
ここには家族を殺された子供ばっかなんだぞ!!」
「きゃあ!やめてレイヤっ!」
ぼこぼことザイルの胸を殴ってくるレイヤの手が震えている
「そうだな、やられたらやり返せばいいさ。」
「!?」
「それでお互い最後の一人になるまでやったらいいさ、そりゃぁせいせいするだろな」
にやりと笑ったザイルの言葉に全員が黙りこむ、遥か上空から雷鳴が鳴り響く
「おれは……」
「────悪い。お前を責めてるわけじゃねぇんだ」
「ねぇ!!ライラはどこ?!」
小さな集団から声が上がる
はっとしたレイヤが
「ライラ!居るか!?────誰かライラを見なかったか?!」
探して回るがどこのグループにもライラは居ないらしい
「どんな子供だ?」
「どんなって……背はこんくらいでいつも両親の形見の水筒を大事にかかえてんだ」
ん?水筒────
ふと水を入れてやった子供の顔が浮かぶ
どのみちここにいないってことは、まだ上に残されているはず
「ここのことはお前に任せたぞ、ライラを探して戻るからまってろ!」
「お、おいっ─────」
何が起きてるにしろ汚染まみれの崖っぷち世界で生きてるやつを巻き込んだ戦いにヘドが出る
「お仕置き確定だな……!」
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