第5話
どうやら、ここでの朝食というのは戦争らしい。長いテーブルに寄り添う長椅子にひしめき合いながら座る
長蛇の列をクリアして給餌を受け取ると自由に座って食べるのだが朝だけはおかわりができるようで全員が殺気立ちながら早食いする
「おい兄ちゃん!まだご飯粒残ってるだろ!まだ立つなよ!」
「うるさいっ子供!そんなもん並びながらたべるわ!」
ぐぐぐっと両者服を掴み合う
「離せよ子供!」
「おれはレイヤだぁぁ!子供子供言うなぁ!ぐぁぁ」
「ちょ!やめっそこは引っ張らない!」
「いいぞ!やれやれ!」
「レイヤがんばれ!そんなオヤジやっちまえ!」
「ええぃ!うるさいぞ子供達おれはまだ16だぞ!」
「おやじじゃねぇか!みんなかかれ!!」
レイヤの一言に大勢がのしかかってくる
たまらず膝をついたが最後すっかり子供達の下敷きにされる
「ギブ!ギブ!」
高い笑い声をあげる子供達
「なんだあいつ意外に馴染んでるじゃない?ねぇリード」
「……。」
給餌をするパールが横で渋い顔をしながらも手を動かし続ける
「ねぇあいつ、今日も水汲みさせるの?」
「それ以外に何が出来るんだ?……」
「まぁ、ねぇ……でもあれってリードがやればすぐに終わるんだし、壁の補修とかでもいいんじゃない?」
まだ並ぶ子供達の食器に手早く食事を乗せていく
「……悪いな。お前で食事は終わりだ……」
「えぇ!!今日はおかわりできたと思ってたのになぁ~」
後に並ぶ子供達もがっかりした様子で配膳を片付け始める
「やつの仕事を決めるのはマザーだ……」
「まぁね~じゃマザーに聞いてみようかな」
「マザーの面倒ごとを増やすなよ。」
「はいはい、わかってるって!」
にんまりと笑うパールは食堂の片隅で静かに食事するマザーに駆け寄っていく
「ライラ、これも食べな」
「ぼく、もう食べれない……」
「そんなこと言って、列にも並ばず昨日からろくに食べてないのは知ってるよ」
下を向いたまま涙を裾でぬぐうライラは細い肩を震わせている
「ライラ」
「マザー……姉ちゃんはいつ帰ってくる?」
「……ライラは強い子だと知っているから正直に話すよ、姉さんは帰ってこれないかもしれない。」
「!!」
ぶわりと大きな瞳から涙が溢れ出す
「でもライラは一人ではない、ここにいる全員が家族だ」
「……」
優しく頭を撫でるマザーに無言で頷くライラは目の前の食事を食べ始める
「パール、どうかしたかい?」
その様子を一部始終見ていたパールに問いかける パールはうっすらと顔色を悪くしている
「あ、あのマザー、新顔の仕事の件でお話が……」
「なるほど。じゃぁわたしは行くねライラ、しっかり食べるんだよ」
席をたつとそれを待っていたかのように他の子供達がライラを囲んで騒ぎ出す
廊下に出た二人は向かいあう
「パール?遠慮なく言っていいんだよ」
「はい……新顔の仕事を水汲みじゃないものにしてもいいんじゃないかと思って」
「ふむ、実は私もそう思っていたからそうしよう」
「ほんとですか!」
「うん。もともとあれは一人でやるには無理があるからね、いわゆる根性試しみたいなもんだったのさ」
ほっと胸をおろしたパールにマザーの目がきらりと光る
「それと、ライラの件は気に病む必要はないよ。例え施設破壊の指示が君の独断だったとしてもね」
「……マザー!……」
顔色を変えたパールが小刻みに震える
「何かを判断し実行に移すときは覚悟が必要なんだよ。わたしが死んだら次のマザーは君だと思っている、だけど……まだまだのようだね
今回の件はわたしが責任を負うことにした。」
「─────申し訳ありません……マザー……」
パールの肩を叩いてマザーはその場を後にする
「あぁ!そうだパール新人の名前を聞いといてくれるかい?」
「は、はいっマザー!」
いつもの仕事場に向かうマザーを追いかけてるリードが呼び掛ける
「マザーは?」
「もう行ったよ────この間の作戦の事知ってたんだね……釘を刺されたよ」
すでに見えなくなった姿を見つめるパールに
「お前にはまだ荷が重そうだな。」
「とうてい無理な話をしないでよね
あの人は特別なんだからさ」
双子の兄を人にらみすると食堂に戻っていく
子供達にもみくちゃにされて、朝からへとへとになっている側へパールが近寄ってくる
「よぉ、パール」
「朝から大変だねぇ」
「そうなんだよ……今からまた水汲みがあるってんのに、おいこら離れろ子供!」
小さな頭達を鷲づかみにして引き離そうとする
「もうちょっとここで待ってなよ、リードが新しい仕事を用意してくるからさ」
「そうなのか?」
「それと、いい加減新顔とかめんどくさいからあんたの名前教えてよ」
「あぁ、そういや言ってなかったな
おれはザイル、姓はわからない」
「いい名前じゃないか!」
「そうか?」
目をキラキラとさせたパールの意味がわからない
「知らないの?ザイルったら大昔の物語に出てくる主人公の名前で────」
「大昔っていう時点でなんかなぁ」
「これだから男ってのは!」
腰に両手を当てて顔をしかめたパールに呆れられる
「まぁ、いいや!ほら、あんた達も仕事に行きなさい!」
パンパンと手を叩かれ、時計を見た子供達があわてて走り出す
「明日も勝負だぞ!」
「かんべんしてくれよ……」
「ほらっ!レイヤ早く行きな!」
舌を出して憎たらしい顔をしたレイヤは反撃を食らう前に食堂を走り出ていく
廊下からレイヤが誰かに謝る声が響くと代わりにリードが入ってくる、どうやらリードにぶつかったらしい
「リードには謝るのかよ」
「恐怖の大魔王だからねぇ、アハハ!」
「誰がだ……。」
さほど整えられてもいないがさらにぼさぼさにされた赤髪を見下ろしながら
「お前には新しい仕事を宛がう。ついてこい。」
「あ、リード新人の名前はザイルっていうんだってさ、これからは名前で呼んでやったら?」
「…………。」
思い切りリードの顔がひきつる。
おれの顔もひきつっているだろう。
「「いや。いつもどうりで。」」
かぶった!!
両者ひどい形相で目が合う
「ぷっ!!おもしろーい!!あっはは!」
ビ────!!
ビ────!!
けたたましい警報音が鳴り響く
「な、なんだ??」
「……まさか……」
「リード!」
二人の顔が険しくなる
『こちらマザー異常発生、戦闘員はすみやかに所定の位置につきなさい』
館内放送がかかると一斉に二人が駆け出す
「お、おい!?」
「お前はここにいろ。邪魔になる。」
「はあ!?何があったか教えろよ!」
リードの後を追いかける
まさか、ここまで追ってきたのか……!?
だとしたらおれが処理しなければならない
疼きはじめた右腕に力が入るのを感じた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます