第12話 玲歌の1日

 「おい、起きろ。遅刻するよ。今日は誰だ?」

「玲歌」

いつもの朝だ。でも今日の父はいつもと違った。

「れ~い~かぁ~久しぶりー!最近出てこないからどうしたのかと思ってたとこだよ。」

父はそう言って抱きついてきた。確かに最近玲歌ではなかったな、と思い返す。

「あれ?お父さん、なんか焦げっぽい匂いしない?焦げてる?」

「わー!」

朝ごはんはいつも父が作る。作ると言ってもたいしたものではないが。今日は焦げてしまったトーストとベーコンと卵を炒めたものだ。

「じゃあ、行ってきまーす。」

父は9時に家を出るから私の方が先に家を出る。

学校に着くとクラスメイトがよってくる。

「おはよー。待って、しゃべんないで。当てたい。」

「笑ってるから満と純花じゃないし、ポニーテールだからみるくでもないね。」

「うーん、私は玲歌か玲斗だと思うな。」

いろいろ意見を出しあって考えてるみんなを見ながら席に着く。

「あ、わかった!靴下の長さが揃ってるから玲歌じゃない?どう?あってる?」

「せいかーい!」

見事当てた香恋かれんちゃんに私は笑いかけた。すると今日も斗馬とうまが黒板の隅に『玲歌』と書いた。その後も次々とクラスメイトが教室に入って来て黒板をみる。そうすることで今日は私だと理解する。すると、クラスで一番仲のいいつむぎちゃんが登校してきた。

「やったー!今日玲歌じゃん。昨日は満だったから少し大変だったよ。その前は純花で、またその前は陽一だったし…」

「ごめんね、私がいつ出てくるかは私が決められることじゃないから……あれ?私今謝る必要あった?」

私とつむぎちゃんは2人で笑いあった。

「そういえばさ玲歌、前回出てきたときにまた次話すって言ってたじゃん。あれ、教えてよ。」

「あれ、何だっけ?」

つむぎちゃんに言われて私は思い出した。それは私がこうなったいきさつ。多重人格になったいきさつ。つまり、解離性同一性障害かいりせいどういつせいしょうがいになったいきさつ。

「結構長くなるよ、いい?」

「いいよ!」

この事を人に話すのは初めてだ。でもこのクラスのみんなは信頼できるし話してもいいだろうと思った。

「私が3才の時、お母さんと双子のお兄ちゃんの玲斗と3人で出掛けたの。」

「ちょっと待って!玲斗って実在するの!?だったら他の人格も?」

「そこは後で話すね。その時の出掛け先でお母さんと玲斗は事故に巻き込まれて死んじゃったの…。事故から2ヶ月間はショックで一言も発しないし、ほとんど動かなかったそう。それが突然ある日、」

キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン

チャイムがなって私は話すのをやめた。

「じゃあつむぎちゃん、続きはまた後でね。」

先生が入ってくると朝の会が始まる。内容はいたって普通。ただ出席確認は少し違う。最初は普通に出席番号順に名字を読んでいく。そして私の番になると先生は黒板をみて斗馬の書いたわたしの名前を確認してから「玲歌さん」と呼ぶ。教科ごとの出席確認も同じだ。

ー1~4時間目終了ー

昼休み。つむぎちゃんが来て朝の続きを催促してきた。

「ふたりともが目の前で死んじゃって、相当ショックでしばらくほとんど動いてなかった私がある日突然家でお父さんに『パパ、久しぶりだね。』って言ったらしい。そのときお父さんは、1ヶ月ぶりに話したことに感動して私が言った言葉の意味は気にしてなかったんだって。でも数分後、あれ?って思って『玲歌、さっき久しぶりって言ったよね?どういうこと?毎日会ってたよね?』って聞いたんだって。そしたら私は『玲歌じゃないよ。玲斗だよ』って言ったんだって。」

「それが玲斗…。」

つむぎちゃんは呟いた。私は頷いて続けた。

「うん。おかしいと思ったお父さんは事故のショックでもしかしたら何か病気とかになってしまったのかもしれないって心配になって病院につれていったの。そこで二重人格です。って言われたんだ。」

「玲歌と玲斗の二重人格ってこと?」

話を聞いてた斗馬が聞いた。

「そう。それから少しして、休んでた幼稚園に行くようになったの。でも私は玲斗以外の人とあんまり関わってなかったから友達できなくてね。しかも幼稚園児はあんまりよくわかってなかったとは思うけど二重人格だったからなのかさらに友達は避けていくし、先生もなかなか話してくれなくて…。まぁ幼稚園の時はまだ良かったんだけど小学校に入学してからは少しいじめみたいになっちゃって…。で、ある日の朝にお父さんが『今日はどっちなの?』って聞いたんだ。いつもは玲歌か、玲斗か答えるんだけど、その日は『どっちでもねぇーよ。』って言ったらしい。」

「らしいって、覚えてないの?」

「うん。全部お父さんに聞いたの。まぁ、そこでねまた病院行って調べたら多重人格です。ってなった。それからは1~2ヶ月ごとくらいに増えていって、小1の終わりには今の人格が全部そろったの。」

「玲斗はいいとして他の人格の名前ってどうしたの?」

「お父さんが名前つけたんだよ。最初に満が『どっちでもねぇーよって』って言ったときに『じゃあ誰?』って聞いたんだって。で、『誰でもない。ただの人格でしかない。』って言われてお父さんがじゃあ名前つけてやる!ってなったらしいよ。それで満ってつけて、そのあとも叶多、みるく、純花、カリーナ、椿、一花、陽一って名付けたらしいんだけど、全員すでに小1まで成長してるからお父さん的にはその人格それぞれの性格とかをみて名前つけたらしいんだ。」

「そういうことだったんだね。」

「今までで一番大変だった出来事ってなに?」

斗馬が聞いた。私はいろいろ考えてあの2つの出来事を思い出した。

「あれは小4のとき。満と男子5人くらいで遊んでたの。でも他の人から見たら男子のなかに女子が一人でしょ?満は一応男の子としての人格だけどね。それで、他校の子がからかってきて満、ケンカっぱやいでしょ。だから殴りあいのケンカになっちゃって、次の日校長に呼び出されたんだよ。でもその日は満じゃなくて椿だったの。今もそうだけど椿ってメガネとマスクして縮こまってるじゃん。だから明らかに昨日の人とは違うってケンカの相手がおこっちゃって、『お前誰?』って。だから椿は正直に『元橋椿です。』って答えたの。でもケンカの相手はみんなに満って呼ばれてたの覚えててこいつ違うから満をつれてこいって言い出しちゃって、いろいろ説明して…って大変だった。」

「椿かわいそうだな。てか、前から思ってたけどなんで椿だけメガネとマスクなの?」

椿と一番仲のいい斗馬はいつも不思議に思っていたらしいことを聞いてきた。

「私、いつもはコンタクトなんだよ。ただ、椿は顔が隠れるのが安心するみたい。多分ね。今度本人に聞いてみてよ。 あと、まだ大変だったことがあってね。あれは純花が他学年とケンカして次の日私だったの。で、先生になんでやったのか聞かれてもわかりませんしか言えなくて…ホントに問題起こすのやめてほしい。」

「大変だね。やっぱりその2人が問題児か。逆によかったことは?」

「うーん…テストの日に一花とか、英語のテストのときにカリーナだといいよ。あとは体育のときに満か純花だといいかな。あの2人は運動神経いいからなぁ。」

カリーナは一応帰国子女みたいな感じで英語が得意。

「あれ、名前出てこなかったけど玲斗と陽一とみるくと叶多と椿は?」

「うーん。玲斗は結構自由奔放だからよくわかんないな。それに玲斗は副人格だから少し自我が強いんだよね。まぁ問題起こさないし特には困ってることもないかな。叶多は結構いい子であんまり特徴ないけど、私の中では叶多が精神面で結構楽にしてくれるな。椿はあんまりなにしたいのかもわかんないんだよね。陽一とみるくはねめんどくさい。」

めんどくさいと言ったとたんに頭の中で陽一とみるくが反抗してきた。ガンガンする。

「ごめんって、痛いやめてよ。」

私は私のなかにいる陽一とみるくにそう言って頭を少し叩いた。

ちなみに、多重人格の中には主人格と副人格とその他の人格がある。主人格は玲歌で、副人格は玲斗。この2人が中心の人格であるという意味である。

その日はこれだけで終わった。

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