第3話 食卓

 はぐはぐ、もぐもぐ、ごっくん。


 ぱくぱく、ぐびぐび、もしゃもしゃ、ぐびぐび、ごっくん。


 ぐびぐび、ぷはーーー。


「あー、食ったーーー」


 さすがに満腹だ。腹が減っていたのでどんな料理も美味い。

 しかもドリンクは格別美味かった。

 でも、珍しい料理だったな。この子が作ったのか? まさかね。


 テーブルの正面で料理をかっ込んでいるジャスティンを見る。


 ジャスティンは料理を口に頬張りつつ、話かけてきた。


「……よく食う奴だな、もぐもぐ、ほれの方がペースが遅いとは気にひらないぞ。もぐもぐ」


「ほれより、ごっくん。お前が使った魔法に覚えがないんだったな。 あれがどういう効果のある魔法かお前にちゃんと理解できているのか?」


 それについては食べ始める前にジャスティンからレクチャーを受けていたが、自信なさげに答える。


「だから、あれだろ。うん、瞬間移動ってやつ。ジャスを俺の所に呼んだのだろ?」


 ドリンクを飲み干した後、ジャスティンは指を差して答えた。


「……召喚の魔法だ。しかもこの世界からの召喚ではないのがポイントなのだ。リョウタは異世界からやってきたんだろう?」


「そ、そうなのか、この世界がどういう世界かまだよく知らないが、やっぱり異世界なのか?」


 ジャスティンはジト目で俺を見下しながら、髪をかきむしった。


「あんな高度な召喚魔法は、そこらの魔法使いで扱える代物でないんだよ。俺までとはいかないまでも、かなり高位な魔導士レベルでないと扱えないのだがな」


「俺までってお前まだ子供だろう? 何言ってるんだ?」


 俺はあきれて言い返す。


 するとジャスティンは俺を見て、人差し指をクルクル回しながら、


「人は見たものしか信じねーよな」


と言って、指先にゴーーと音を立てる激しい火柱が立ち昇った。


 な、なんだ今のは。手品か??

 そういえば何かつぶやいた気がしたが。

 ライターか何か持っていたか?


「フハハハハっ、ビビったか、ビビっていいぞ、これからは俺の事をジャス様と呼んでもいいぞ」


「いやいや、なんかの手品だろ?」


 ジャスティンはニヤッと悪戯っぽく笑みをこぼした。


「今ここでお前を八つ裂きにも火あぶりにでもできると言っておこうか。見たいか?」


 ここで、「はい」と言ってはいけない気がした。

 俺は勘がいいからな。ここは「いいえ」だろう。


「わかった、お前は魔法使いだ。また、今度見せてくれよ」


 返事を聞いたジャスティンはつまらなそうにうそぶいた。


「ちぇ、つまらん奴だ、これからが面白いのにな」


 しかし、こんなことがあったので俺は魔法に少し興味を持った。

 もうちょっと詳しく知りたい。


「なぁ、魔法って誰にでも使えるのか? 例えば……俺はどうだ?」


 ジャスティンは値踏みする様に亮太をつま先から頭のてっぺんまで眺めて、ちょっと腕を組んで考えこんだ。


「……今使えるかっていうか? お前はすでに魔法を使っているんだぞ? まぁ、それは置いといたとしても資質だけなら、確かにあるかもな」


「本当か? 俺って本当はすごい奴なのか? いや、実はこの世界では誰でも魔法が使えるとか?」


 俺の顔を見ていたジャスティンは少しため息をついた後、俺の顔をじっと見て、


「魔法を使える奴は人類からいえばごくごく少数だろうな」


 めんどくさいなって顔をしながらジャスティンは言葉を続ける。


「人が魔法を使う為には『覇気はき』がいるんだよ」


「覇気?」


「そう覇気だ、わかるか?」


 俺は頭をブンブンと横に振った。


「わからん、なんだ?気合みたいなやつの事か?」


「まあ、お前程度ではわからんでいいが、個人の中に秘めたる力とでも覚えておけ」


「ふぅん、『覇気』ねぇ。それが俺にもあるって事か?」


 俺は自分の手の指を見て、さっきジャスティンがやったように指先を立てて火柱が立つように念じてみた。


 何も変化はない。当たり前か。


「資質があるといっただろう、お前の覇気は小魔法を使うぐらいはありそうだというのが、俺の見立てだ」


 それからと続けて、


「覇気だけでは魔法は使えないぞ、魔法を使う為には『スペル』が必要なのだからな」


「式?」


「そうだ、『式』だ。めんどくさくなってきたので簡単にいうが、要はこの世界で魔法を使うには当たり前の自然界の法則という奴を、捻じ曲げてやる必要があるんだ。

ようは自然の法則を『式』により書き換えるんだ。そうすると魔法は発現する。わかったか!!」


 俺はポカンと口が空いて塞がらなかった。


 わからん、難しすぎる。魔法って難しいんだな。

 俺はここはスルーでいい気がしてきた。


 別の気になっていた事を質問する。


「君って何歳なんだ、若いのに物知りだよな?」

 ジャスティンはちょっとびっくりしたような顔をしたが、髪をかきあげて睨んできた。


「お前、俺を年下だと思って見下してるだろう!!」


 何故ジャスティンが怒っているのかわからないが、その通りだから肯定こうていしておく。


「見下してはいないさ、でも俺より年下だろ?」


 フンと息巻いて、


「俺はお前より年上だ。わかったか。わかったらこれからは敬語を使えよ。ジャスティン様と呼んでいいぞ」


「え? 年上!」


 どうみても年下に見える。

 そりゃ、俺も童顔らしいが、それでもジャスティンよりは年長だろう。

 俺より4,5歳若く見えるのだが。


「その話はどうでもいい。俺が知りたいのは歳なんかじゃなく、お前がいた世界で召喚の魔法を使った『本』の事が知りたいんだ」


 ああ、あの本か。

 俺も気になっていたんだ。あの本はいったい何だったのだろうか?

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