第4話 魔導書

  

「ちなみに、リョウタは今本を持ってないんだよな?」


 ジャスティンは確認するように聞いてきた。


 持ってないさ、本って持ち歩くものなのか? って聞きたくなる衝動を抑えて、


「……俺が気付いた時にはなかったと思うぞ。俺が目を覚ます前の事はジャスの方がよく知っているんじゃないか?」


 ジャスティンはうなずきながら、


「そうだ、持ってなかった。だからこそ、俺はお前に危惧きぐしたんだ。わかるか?」


「え? どういう意味だ?」


 俺はびっくりしてジャスティンをうかがった。何を心配することがあるというのだろうか?


「お前を魔法使いだと思ったからな。召喚の魔法を扱う大魔法使いとしてだ」


「ああ、そうなのか」


 俺は手で手をポンと叩いて納得した。


「俺にビビったんだな。」


「誰がだーー!! お前にビビるか。誰かが俺を召喚しようとしていたので、ムカついて魔法抵抗レジストして、逆に引き抜いてやったぐらいさ。そしたら、お前というアホが釣れたんだ」


「……よくわからんが、お前ってやっぱ凄いのか?」


 ジャスティンは何を今さらという顔をしながら、テーブルのコップをもてあそんんだ。


「いいか、お前は監禁された部屋に捕らわれたのに魔法を使わなかった。これはお前が魔法を使えないと言っているようなものだ。 どっちみち、魔法を使おうにもあの部屋は、アンチマジックバリアで覆っていたがな」


「お、なんかスゲーな。それはなんなんだ?」


 めんどくさそうにジャスティンは髪をかきあげ、俺に告げる。


「魔法を使えなくするための結界だ」


「え、そうなんだ、あの部屋そんな風になっていたのか。確かに扉とかなんか変だった気がするな。で、俺が魔法を持ってないと判断したんだな?」


「まだだな、使える事を見越して隠しているだけかもと思ったからな。最後は魔法でなく薬で確認させて貰ったよ。 自白魔法など魔法抵抗レジストされてはかなわんからな」


「あー、あの水かー。なるほど俺は色々試されてたんだな」


 ジャスティンは高慢な笑い声を立てながら


「そう言うことだ、しかし、余計にお前の謎が深まったし、興味が出た訳だ」


 そういって楽しそうに亮太の顔を覗き込んだ。


「謎って、魔法を使った事だろ? だから話した通り、本に喋らされたというかなんというか……」


「喋らされたという事は、何かの力がリョウタに働いたってことだろ?俺も確かにその本が喋らせたと思うぞ、というかその本は魔力を帯びていたんだ」


 眼を輝かせながらジャスティンが話しに熱中している。


 こうして見てると普通の純朴な子供に見えるのになぁ。


「本の表紙にはこんな幾何学模様の絵が書いてなかったか?」


 ジャスティンはコップの液体をテーブルにこぼすと、人差し指で何やら絵を描き始めた。


 見る見るうちに、見覚えのある絵が描かれる。


「あ、見た! 見た!! 見たぞ!!! 間違いなくあの本に書かれていた絵だ」


 俺はびっくりしてその絵を凝視していた。

 しかし上手く書くものだ。


「やはりそうか、もはや確信したぞ。お前が見た書はドルフ=カルヴィネンが記した古の禁断の魔導書だ!」


「ドルフ=カルヴィネンって誰だ? 禁断の魔導書とは?」


「1500年前に世界を席捲した大魔法使いが記した魔導書だ。現世では残っていない古代神の神々や魔神の魔術などの禁術が記述されている。もう伝説と化した最強かつ最悪の魔導書だな。この世に存在するかどうか怪しかったが、俺も探していたんだ」


 ヨダレがでそうな顔でジャスティンははしゃいでいた。でも、ここに本はないんだよな。


 俺の世界に帰ればあるって事なのか?


 あっちの世界は俺がいなくなってどうなっているんだろう?


 頭をクシャクシャにしながら考え込んだ。


 そんな様子を見ていたジャスティンが、何か気付いたのか、ずかずかと俺の側にきて急に右腕をつかんで引っ張り上げる。


「あ、なにするんだ?」


 そう言っている間に右腕の道着の裾をまくり上げた。


 俺の右の上腕をじっと見る。


 なんだ? 俺の右腕に何があるんだというんだ、ふと腕を見ると俺もあるものに目が留まった。


 右腕に何やらヘンテコな刺青タトゥが刻み込まれている。


 なんだこれは? なんで俺の右腕に刺青が?


「やっぱしな」


 何がやっぱしなのか、全然納得がいかない。


 ジャスティンはこの刺青の意味がわかるのか?


「これは封印の印だな」


「封印の印?」


「そうだ、どうやら魔導書はお前に封印されたようだな、お前魔導書をどっちの手で持った?」


「え、確か右手だけど?」


 本が俺に封印?一体どういう意味なんだ。更にジャスティンに説明を求める。


「まてまて、考えさせろ!!」


 ジャスティンは腕を組みながら食堂の中を歩きながら考えた。


「あれがそうだとすると、これはどういうつながりだ……」


 俺は一人不安気に自分の腕を見た。


 本と関係づけると言えば、この刺青、あの幾何学模様に似てるな。光ってはいないが色とかも同じ薄青色かも。


 左腕も見てみたがそちらは別に何も書かれていなさそうだ。


「ん……、そうだな、今までの推論をいうぞ」


「お、おう」


「元々この書はリョウタが詠唱し、『俺様』を召喚しようとした訳だ」


「その通りだな」


「この書はおそらく、この書を用いる事のできる主人を探していたのではないかと思う。そして、『俺様』を主人と選んで召喚しようとした」


「……2つ疑問があるのだが?」


 なんか、なんか納得いかないぞ。ここははっきりしないとな。


「1つ目はなんでジャスを主人と選んだんだ? 魔導書を用いたのは俺なんだが?」


 フフンと笑いながらジャスティンは傲慢に言い放った。


「簡単な事だ、俺がこの世に類をみない天才魔法使いだからさ!! 覇気もないリョウタを魔導書が選ぶとは思えんな。 もし選んだとしたら、お前には凄い『覇気』があることになる」


 はぁ、そうかー。


 俺はガックシとうなだれながら次の質問をしてみた。


「俺のこの刺青の意味は?」


「それだ、その右腕の刺青は紛れもなく封印の印だ。右腕に封印の印が発現したのは、右手で書を持った為だろう。しかしだ、そんな事はどうでもいい! もっと重要な事はこっちだ。わからないなら教えてやる。魔導書の知識がお前の頭の中に封印されている。本書はどうなったかわからんが、間違いなく魔導書の知識はお前のおつむの中にあるのだ。その印が証拠だな」


 指でビシっと刺青を指差し、ジャスティンがうんうんと頷いている。


「お前は魔導書の入れ物として選ばれた訳だな。つまり媒体だ」


 そうなのか、それって魔導書の中身を俺が覚えているって事なのか?


 魔法の言葉など何も浮かんでこないのだか?


 どうなるんだ俺はこの先?

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