いい天気の日に
瑚ノ葉
いい天気の日に
「今日はいい天気だ!」
外を見るとバケツをひっくり返したような大雨
ぼくは嬉しくてお父さんに言った
お父さんは頷いた
「気を付けてな。川岸にいくんじゃないぞ」
「分かってるよ!んじゃいってくる」
ぼくは草をかき分け外へでた。
いつもよりとても速く動ける。
そのことにぼくはとても興奮した。ふと上が気になって、ちょっとした好奇心で、地面を蹴り上を覗いた。
ざぁーっと雨粒が頭に当たった。少しくすぐったかった。
てててて、と沢山音が鳴った。
ぼくは愉快でたまらなくなって
少しだけなら、と岸に上がってしまったんだ。
ここには、ぼくらを祀っているという小さな祠がある。そこに、なんとキュウリがあった。これはとても嬉しい。
ぼくはキュウリをかじった
「はっ……」
ん?誰の声だ?
振り返ると、黄色くて小さい奴が、目をまんまるにしてこちらをみていた。頭に、ペラペラの耳がついてる。
こいつはなんなんだろう?
まさか人間……じゃないよな。だって耳がついてるし、黄色い。人間はこんな格好しない。でも、その黄色い肌は雨を弾くみたいだった。なら、ぼくと同じ雨が好きなやつなのかな。
「……あ、あの」
そいつが喋った。
ぼくが持っているキュウリを指で差した。
「そ、それ」
キュウリがどうかしたのかな?あ、もしかして食べたいのか?でもこれはぼくが先に見つけたんだ。あげたくない。
「ダメだよ、これはぼくが食べるんだ」
そう言うとそいつは黄色い耳をぱたぱたさせて頷いた。
「うん、食べてね。おうちにいっぱいあるから」 そしてぼくはやっと、そいつがキュウリを祠に置いたんだと理解した。
「そっか。お前いいやつだな。なんて妖怪なんだ?」
そいつは首を傾げた。
「よおかい?」
「名前だよ。なんて名前の妖怪?」
そいつはパッと顔を輝かせていった。
「みっちゃんっていうの」
「ミッチャン?」
聞いたことない妖怪だ。新入りみたいな?
生まれたばかりの妖怪なのかな。うん、そうに違いない。だってこんなチビだもの。
せっかくだから、一緒に遊びたいな。
「なぁ、ミッチャン。泳げる?一緒に石拾いをしようよ」
ミッチャンはびっくりしたように川を眺めた。そして首を振った。
「みっちゃんは泳げないよ」
ぼくはびっくりして言った。
「泳げないの?変なの。本当に、何の妖怪?」 ミッチャンは困ったような顔をして首を右に左に傾げた。
「あとね、もうお家帰らなきゃ。キュウリ置いたら帰る約束なの」
ぼくはそれを聞いて、すこし残念に思った。
せっかく面白いやつと会えたのにな。
「そっか、約束ならちゃんと守らなきゃな。また遊ぼうな。もっと大きくなったら、相撲を教えてやるからさ。またこいよ」
そいつは大きく頷いた。
またね、といって手を振った。
ぼくは手を振り返した。
その手に水掻きがついてないのをちょっと不思議に思いながら。
そいつは黄色い耳をぱたぱたさせて、どこかへ歩き去っていった。
ぼくはキュウリをかじった。
ざぁーっと雨が降り注いでいる。
「……変なやつだったな」
キュウリを食べ終えると、ぼくは川に戻った。
川底にいき、ぼくは上を見上げた。水面にはいくつもの丸が浮かんでいた。水滴がいたるところで弾けている。
「キュウリ、分けてやっても良かったかも。まぁ、いっか。また、会えるよな、ミッチャン」
ぼくはちょっと寂しい気持ちを抱えて、また泳いでいった。
いい天気の日に 瑚ノ葉 @kono8
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます