17

 目にも留まらぬ速さで青年は白火の足元にひざまずく。その僅かな音が2人の沈黙を破る合図となった。


「…目を閉じろ。傷を見るな」


 低くうなるような声。白火には少々苛立いらだっているようかのように感じられた。


「は、はい…」


 白火は青年の言葉通り、目を閉じて傷から顔をらす。


 ―――――っ。


「ひゃ………」


 生暖かく湿った何かが白火の傷に染みることなく滑る。そして柔らかな何かがそこに巻かれた。


「もう……っ、いいですか………っ?」


 白火の言葉に返答はない。森の静寂静寂に溶け込むようにむなしく消えた。


(あれ……?)


 目を開けるとそこに青年の姿はなかった。

 脚に巻かれていたのは純白のハンカチ。血流を悪くしないように、けれども動いた時の衝撃でずれないよう、程よいきつさで巻かれている。


(と、とりあえず!)


 彼のことを考えている場合ではない。

 白火は大急ぎでもと来た道を引き返した。


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