16

 何ひとつ音がたたずに、白火の脚に人型の影が落ちる。その不気味さに思わず身がすくんでしまう。


「…………?」


 その影におびえながら、白火は恐る恐る影の主を見上げる。


(だ、誰……?)


 そこには、白火が今まで見たことのない、闇を纏った神狼族ではない青年が立っていた。彼はただ鋭い目つきで彼女を見下ろしている。

 漆黒しっこくの短髪に、突き刺さるように鋭く血のようにあかい眼、それを引き立てる真珠のように白い肌、薄く紅を引いた薄い唇。顔の各パーツはバランスよく配置されている。

 髪と同じ漆黒の外套がいとうを纏い、凛とした青年。決して神狼族のように神々しくはない。しかし、白火にとってはどこか魅力的な殿方とのがたに見えた。


「………」

「………?」


 白火は青年と視線が合い、そのまま2人はじぃっと見つめ合う。

 そして流れる沈黙。しばらくのことなのに、何故か永遠とわのように感じられた。

 青年は白火より先に視線を逸らした。そして、彼女の脛を見たあと若干眉をしかめた。その直後。


 ―――――スッ。


「っ!!?」


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