09

吸血鬼のことよ。と書くの」


(血を吸う鬼――)


「姿はね、ヒナや白姉や朧姉、神狼の人型とあまり違いがないんだよ。口の鋭い牙を他の生き物の首に突き刺して、そこから血を全部吸いだして飲み干して、殺しちゃうの」


(首から血を奪い、殺す――)


 ――なんて残酷な生き物なんだろう。


「…で、でもねっ、大丈夫だよっ!?おとうさん、に見つかってないし、何もされていないから」


 陽葵は白火の不安を察したのか、幼いながら何とかそれを和らげようとしてくれる。しかし、無理につくったぎこちない笑顔は陽葵の中にも不安が残っていることを表していた。


「それにしても、なぜこんな所に現れるようになったのかしら、ね…」


 吸血鬼たちは本来、神狼族の住んでいるところから遠く離れた、永久とわに雲が晴れることのない小さな村に住んでいる。

 しかし、近年―2・3年前くらいから神狼族の住む集落付近の森に出没するようになってしまっている。原因は不明、異世界からの干渉なのか、他種族が故意的に送り込んでいるのか、吸血鬼達自らの意思で来ているのか―――。


(こんなんだから、おとうさまは集落の外へ出ることを許してくださらないのかしら)


 神狼族の安寧と、自らの悲願のために、一刻でも早く住処に戻って欲しいものである。


 今日の話題は吸血鬼たちの不穏な動きで持ち切りだった。

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