06

陽葵ひなちゃんが来たよ!白火に早く会いたいってさ!」

「はーい!」


(今日はどんなお話をしてくれるのかな!?)


 白火は勢いよく立ち上がり、部屋の外へ、家の外へ向かう。

 それは彼女の知らないを知る数少ない機会。楽しみで楽しみで、たまらない。この退屈な生活における数少ない楽しみのひとつである。


 白火は勢いよく部屋のドアを開け放った。



 ――ゴツンっ!!!


 硬質でどこか鈍い音。勢いよく開かれたドアは白火を待つ朧の額に直撃したのだ。


「ぃたぁーーーーっい!」

「あっ………。ごめん、朧」


 朧は額をおさえている。幾度いくどとなくドアを額にぶつけられてきたこともあり多少痛みには慣れていた。しかし、今回のはいつもより勢いよく当たってしまったようだった。いくら慣れさせられてきたとはいえ、相当痛かったらしく、目が少し涙でうるんでいた。


「いつも、いつも、の話が聴けるとなると、こうなんだから…」


 朧は心底呆あきれ返っている。不知火の一族ではない誰かが白火をたずねてくるたびに、こうして何度も何度も額にドアをぶつけられているのだから、たまったものではなかった。


「…でも、退屈そうにしているより、こうして元気そうな方が白火に似合っているからいいのだけど。それにしても、もうちょっと手加減してほしいわぁ……」

「んー?何がー?」


 朧の呟きは残念ながら白火の耳に届いていなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る