1章 - 出会い

退屈な日常と迫る不穏

03

 明るくきらびやかな都会から離れたところにしげる森を抜けた先のひらかれた土地。点々と位置する平屋の家々や井戸や畑、人間界で言う会館のような大きな建物、そのそばには一際大きな平屋が存在する。

 都会とは違い一昔前のようでどこかなつかしい風景が広がっており、面積は村ほど広くなく、少数民族の集落と称するのが相応しいだろう。


 そこは、ヒトの姿と邪気を寄せ付けない毛並をもつ狼の姿とを併せもつ種族―神狼しんろうのような白い毛並みと空に輝く太陽をそのまま埋め込んだような金色の瞳をもつ神狼―不知火しらぬい一族の集落。今日も煌めく太陽の下、これといった争いや喧嘩けんかもなく、穏やかな川の流れのように時間が流れていく。


 ここは集落の会館の横にある、一際大きな平屋にある一室。

 北側には所狭しと本の詰められた本棚、その隣には1人で衣服を埋めるには少し大きいような六段の引き出しがある箪笥たんす。東側にはきちんと書類の整理がされていて何ひとつ余計なものがない机と、その上には部屋に居ながら唯一外を見ることができる大きな窓がある。南側にはたたまれた布団、寝具一式が積まれている。

 必要最低限の家具が配置されているだけではあるが、生活するにあたり不自由はなく、むしろちょうどいいと感じられる者もいるだろう。


 しかし、そこで営まれているのは、一族のおさである父に長の何たるかを叩き込まれ、彼の許しがない限り集落外へ一切の外出を禁じられ、集落に見えざる鎖で繋げられ続けている生活だった。父の後を、一族の長を継ぐために安全が保証された生活、それはそれでいいのだろう。しかし、新しい知識が増えることはあっても、何かが減ることもなく、危機感を持つこともない。外からの全く新しい刺激というものがなく、どこか物足らない。正直に言えば退屈といったところである。そんな日々を送る神狼がそこにはいた。


「…なんかおもしろくて、ワクワクドキドキするような、愉快ゆかいなことはないのかしら?」


 机に頬杖ほおづえをつきながら、部屋から空を見上げては、そう呟く。


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