第7話 馬上槍試合 1


今日は朝から慌ただしかった


厨房からは

料理長の檄が聞こえ

包丁の音が小気味よく外まで漏れている


中庭には朝早くから

城の兵士達が

整列し

兵長が彼らに詳細な指示を伝えたりと


臣下達はいつもより豪華な服を纏い

身を着飾る事に忙しいようだ


今日は朝から慌ただしかった


それもそのはず

今日は

一年に一度の馬上槍試合が開催される


主催は大陸で一番の大国カルーラ王国だ


大陸中から諸侯達を集め

それぞれの代表者に日ごろの研鑽の程を競わせるという

いわば親睦会のようなもの


その大会で見事優勝するとカルーラ王国から莫大な賞金が与えられる


それゆえに

みな大盛り上がりなわけだ


そしてその開催国はアリュメトとなる


城下町では既にいくつもの

露店商が立ち並んでいる


城の外も中も慌ただしい中


私は退屈だった


多くの人間が集まるので表に出るなと

ウイジールに言われてしまったからだ


それ故自室に籠っているわけだが

やはり退屈である


こんな事なら

書斎からいくつか本を持ってくればよかった

昨日の内にでも



そう考えていたら

アルメンドロス王子がやってきた


まだ部屋には入ってきていないが

外からかすかに聞こえる足音でわかる




ガランサス!!!!!



王子が入ってきた

なんの要件だろう



どうされましたアル様?


私は要件を聞いた



馬上槍試合の騎手をお前に任命したい!



参ったぞ・・

どう断ろうか


その前に何故私か聞いてみよう



アル様何故私なのですか?

今回の代表騎手はサー・カーターの筈では?



カーターは昨日落馬してしまったのだ!



アリュメトの代表騎手がですか?


私のこの問いは騎士王国に対しての疑問である



そうだ!

騎士王国アリュメトであってはならない事だ



そこで申し訳ないがカーターの顔を立ててやってくれないか?

彼は本来ならばこの国でも随一の槍使いだ


落馬が理由でこの大会を辞退は彼の家に傷がついてしまうのだ


お前なら!


立派に代理が務まる筈だ

実力は申し分ないし



兜を被れば誰かなどわからん!




これは参った…

そもそも私はつい最近馬に乗ったばかりなのに


しかし


王子の命令を無下にはできない





やってくれるな!?




はい…





ウイジールの命令もあるが

まぁ兜を被っていれば問題ないだろう



私は支度をし王子と共に大会控室へと向かった



控室につくと

王子は健闘を祈ると言って

控室から出て行った






とりあえず私は

カーターから借りた甲冑を身に着けて

準備をしていると


屈強で力強そうな選手達が入ってきた




私も背は高いがさすがに

一流の騎士達と比べると貧相だ



すると

選手の一人が私に話しかけてきた


厳密に言うと

『騎士カーター』としての私にだが




カーター殿!

お噂はかねがね

アリュメトの名騎手と立ち会えて光栄ですぞ!




とても大きな男だった

軍団長ガンダールと同じくらいにデカい

胸の鎧には熊の紋章


熊の紋章は確か


ガンプ家の者だ


とするとこの男は

サー・カイガンだな




私はカイガン殿に挨拶を返した

兜を着けたままの私は無礼ではあるが

この男は気にしないようだ




今回の優勝候補はやはり!


なんと言ってもカーター殿であると

皆口を揃えて言ってますぞ


しかし!



このカイガン!


ガンプ家の力強さを今大会で示す為


カーター殿に勝って見せましょう!



カイガンは私に宣戦布告をしてきた


堂々と言ってくるあたり自信家のようだ


ちょっと暑苦しいので手短に済ませようとしたが

引き止められてしまった





ガンプ家では成人の男は

熊と立ち会うのです!


しかし立ち会うと言っても

所詮は飼いならされ牙も爪も抜かれた熊です


しかし!



私だけは古き先祖達と同じように!


森へ出向き野生の熊を投げ飛ばして見せました!





どうですか!!!!





どうですかと尋ねられてしまった

凄いですねと私は返したが

これが良くなかった

さらに調子を上げてしまった




見てください!!!



この胸の傷を!

これがその時の傷です!



カイガンは

来ていた甲冑を外し始め私に

誉れ傷を見せてきた


もうすぐ試合だというのに

甲冑を脱いでまで見せたいらしい


私はなんとか彼を落ち着かせて

この場を去りたかったがどうにも汲み取ってくれない


カイガン殿の対応をしていると


一人の男が会話に入ってきた




やぁ


お二方盛り上がっていますな

まもなく試合ですよ

サー・カイガン殿も鎧を着た方がいい



話しかけてきた男は見事な鎧を着ていた


丁寧に装飾が施され

家の格式高さを表しているようだ


この男の紋章は大きく翼を広げた大鷲



カルーラ王国だ



顔は兜を着けているため

分からないが

語気には余裕を感じられ

彼からも自信を感じる



おぉ!

カルーラ王国の騎手様でしたか!

今回はこの馬上槍大会を開いてくれた事

ガンプ家を代表して私サー・カイガンが感謝を示します!



いえいえ


今大会の

主催は我々の国ですが

開催に協力してくれたアリュメト王国あっての催しです


さぁ


始まりのファンファーレが鳴り始めました


準備を済ませ

皆で行進いたしましょう



彼の言う通り

外からは大会の始まりを告げる演奏が聴こえ始めている


控えていた騎手たちは

外に出て大勢の歓声を受けている


我々も準備を済ませ外に出る


私はなんとなく


奴隷時代に闘技場に駆り出されていた時のことを

思い出していた


あの時もこんな風に歓声をうけてはいたが

今回のは少し違うな


子供の喜ぶ声も聴こえてくる

なんだか本当に騎士になった気分だった

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