第8話 馬上槍試合 2
騎士たちはアリュメト王の御前にて整列する
私も騎士のふりをして並ぶわけだ
少し遅れて
カイガンも並んできた
鎧を着なおすのに手間取っていたようだ
アリュメト王は大会の宣誓を始める
諸君ら
ここに集う騎手達はみな精鋭揃いだ
皆雷光のように馬を走らせ鋭い一閃を見せてくれるだろう
必ずや目を見張るものとなる
この大会では騎手それぞれに金銭を賭ける事を許している
皆好きなように賭けるがいい
試合の公平さは私アリュメト王と主催のカルーラ王国が約束する
ちなみに私はアリュメトの騎手カーターに賭けておるでな
今日は声いっぱいに声援を送るつもりだ
皆も私に遠慮する事なく好きに声援を送りたまえ
それでは!
皆盛り上がってくれ
今より
馬上槍試合の開催をここに宣言する!
観衆は皆声を上げ
アリュメト王に拍手を送った
観客の人数はこの場だけでも数千人はいる
一斉に声を上げまるで地鳴りのような歓声だ
騎手達は王と観衆それぞれに礼をすると
一旦は控室に戻り
試合の組み合わせ表を確認する
私の初戦は
ガンプ家のサー・カイガンだ
先ほど話したばかりで
陽気な人間であると認識しているが
あの巨躯は脅威だ
彼の槍で突かれて落馬したら死ぬかもしれないな
いよいよ
覚悟を決めないとな
もう他の騎手達も覚悟を済ませている
自らの家と自らの名を上げるために来ているのだ
私にはそんな大義名分はないな
精々死んでも構わない気持ちで挑んでみるかな
カーター殿
豪華な甲冑を着た男が話しかけてきた
彼は先ほどのカルーラ国の騎手だ
カータ殿
先ほどはどうも
しかし不運ですね初戦からカイガン殿とは
どうやら私の気持ちを理解しているようだ
多分とりあえず言ってるだけであろうが
正直的を得ている
いやはや
そうですね
まさか初戦でカイガン殿と当たるとは・・・
私は本心を漏らしていた
弱気になってはなりませんカーター殿
あなたはアリュメトの騎手
自信をもって頂かぬと
なんと
カルーラの騎手に励まされてしまった
よいですか?
カーター殿
我々はあなたのような者と
悔い無く存分に戦えるよう
血の滲むような鍛錬を積み
戦場でも生き残ってまいりました
今日この晴れ舞台では
私と同じ気持ちの騎手達が大勢いるはずだ
そしてその夢叶わず代表となれなかった者もしかり
一年に一度この戦いを心待ちにしていた者達
そして我々に憧れる子供達
沢山の思いを担っておるのです
あなたを目標にしている者も大勢いるのですよカーター殿
随分と熱く語られてしまった
冷静なようで熱を持った人間らしい
これに対し尚更
何故カーターは落馬してしまったのか
そんな思いを抱いてしまったが
もうそんなことを考えても仕方がないな
今はこの気持ちを高める為
彼の熱意に乗っかってみよう
失礼いたしました
私も気を改めます
本戦ではよろしくお願いしますね
彼は嬉しそうに
私の肩を叩いてきた
どうやら喜んでくれたようだ
そして
いよいよ時が来た
どうやら出番が回ってきたようだ
私とカイガンは自らの馬の元へ行き
準備を整えた
王がこれから試合をする騎手の名を呼ぶ
ガンプ家代表騎手
サー・カイガン!
馬に乗りカイガンは王の御前に向かう
次は私だ
アリュメト国代表騎手
サー・カーター!
私は馬の鞍に跨り
試合場へと足を進ませる
馬を歩ませ王の御前に向かうと
それはそれは大歓声だった
王の御前にはカイガンが先に待っている
大歓声を受けながら誇らしげに胸を張っている
私はカイガン殿の隣に馬をつけ
王に礼をした
王は騎手二人の礼を確認した後指で合図を出す
カイガン殿と私はそれを確認した後
お互いに対角線
およそ百メートル程の間を空け
馬を向い合せ
私とカイガンは従者から盾と槍を受け取る
いよいよだ
王の始まりの合図と共に
我々は馬を走らせ一気に激突する
観客達は歓声を一旦止め
固唾を飲んで見守る
そして王は立ち上がり
言った
始め!
私とカイガンは一気に馬を走らせた
槍の穂先を相手に向け一直線に駆ける
馬の呼吸に合わせ目標の迎撃に備える
私とカイガンの距離はどんどん近づいていく
その距離約50メートル
30メートル
私は槍をカイガンの胸当てにぶつける用照準を定め
盾を自らの胸当てに置く
カイガンも同じくだ
20メートル
馬の腹を足で叩き
加速させる
馬は声をあげその勢いを更に増す
私は自分が風になったかのような錯覚を覚えた
カイガンもまた同じように馬を加速させ
お互いの距離は一気に縮まった
0メートル
それは刹那の出来事であった
猛スピードで二人が交差する瞬間
私はカイガンより先に槍をぶつけてみせた
しかしカイガンは私の槍をいとも簡単に防いで見せると
返しの槍を私に向けた
私はそれをしっかりと盾で防ぐ
だが防げなかった
カイガンの猛突は私の盾を砕き
尚も槍の勢いは止まらず
私の胸に向かってきた
私になすすべはなかった
なんとか身をよじり当たり所を胸から少しズラし
肩元にそらしてみせたが
カイガンの槍はしっかりと私の身を砕いていった
刹那の攻防の末
二人は交差し馬はすれ違ってゆく
この間二人の戦果の差は歴然
カイガンは自身の盾に少しヒビが入った程度
私の戦果は無いに等しい
盾は砕かれ
突きを喰らった私の左肩は外れてしまい
左腕はだらんと力なくぶら下がっている
目にも止まらぬ一瞬の攻防であったが悠然と馬の体制を整え
改めて敵に照準を定める騎手の姿と
力なく
何とか馬を向き直させる騎手の対立は
観客達に誰が勝者かを一目でわからせ
大歓声が起こった
誰が見てもカイガンの勝利は一目瞭然である
しかし
勝負はまだついていない
この馬上槍試合は先に落馬
もしくは自ら馬を降りた者の負けである
私は戦える状態ではなかったが
馬を降りる気はない
盾を失ったまま
再度カイガンに向けて馬を走らせた
その様子を見てカイガンも馬を走らせ
対角線上一直線に向かってくる
カイガンは盾をしっかりと構え
穂先を私に向けて追撃しに来る
まるで強固な要塞が猛スピードで向かってくる様は圧巻だった
それに引き換え私は脆弱である
片腕をぶら下げ槍を構えるので精一杯である
強固な要塞と片腕を失った騎手は再び
勢いをもって交差する
先に槍をぶつけにきたのはカイガンだった
私にそれを防ぐ手段はない
二人の騎手がぶつかり合う刹那
観客達は皆カイガンの勝利を確信した
私がカイガンの槍によって盛大に吹っ飛ぶ光景を期待した
そしてそれはその通りになった
盾を失い防御する手段のない私は
カイガンの正確無比な一撃を対処する事叶わず
その一撃はしっかりと私の中心を捉え
気付けば私は宙に舞っていた
だが衝突する際
私は槍を捨てていた
その様子にカイガンは一瞬面喰らっていたが
構うことなく私の胸を槍で撃ち抜いた
撃ち抜かれ
私の体が馬から離れる寸前
私は槍を捨て空いた腕で
カイガンの兜に手をかけていた
カイガンの兜は私の腕に引っ張られ
私と同じくして体ごと馬から落ち
そのままカイガンと私は地面に
激突した
先に地面に触れていたのは
カイガンだった
二人馬から離れた瞬間私はカイガンの上に被さり
彼を下敷きにして落ちたのである
観衆は騒然としていた
いまいち事態が呑み込めないでいる
正直私もただの悪あがきであったので
この後の事はなにも考えていない
下敷きになっていたカイガンはスクッと立ち上がり
倒れた私を見下ろしている
私はカイガンの猛烈な槍をまともに受けたので
まったく身動きがとれない
左腕のみならず全身の指先も動かせない
これは激昂したカイガンに殺されてしまうだろうか
そう思っていた
カイガンは私に近づいてきた
そして一言
生きているか?
私はその問いに
かろうじて
そう答えると
カイガンは兜を脱ぎ
試合を見守るアリュメト王に近づいた
この勝負
私の負けです
アリュメト王は驚いたような顔をし
カイガンに聞き返した
良いのか?
どう見ても貴殿の方が健在なようだが?
アリュメト王の問いにカイガンは胸を張って言った
私の一撃を真正面から受けにきて
彼は死んでいません
こんな屈辱は生まれて初めてです陛下
この勝負私の完敗です
王は笑っていた
ひとしきり笑っていた
そして王は宣言した
勝者
アリュメト国のガランサス!!
ん?
今になって気づいたが
さっきの衝撃で私の兜は脱げていた
どうりで観衆が騒然としていたわけだ
私はアリュメトの騎士カーターではないと
しかしその観衆達はもはや
そんな事気にせず大盛り上がりだ
声高々にガランサス ガランサスと繰り返している
これは後が大変だ…
そんな杞憂を背に私は気を失った
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