第13話 めぐみのひと

思わずフリーズしたわたしに、クオードは複雑そうな笑顔を浮かべる。


「…素直なんだな。凄く嫌そうだ」


「あ、えと、そういうわけじゃ」


「いいんだ、気にしなくていい。君は門番であって、きっと女神ではないさ」


ふう、と息を吐いて真っ青な空を見上げるクオード。

その視線も、いつか戻ってくるという女神様とやらを探しているのか、それとも叶わぬ希望を抱えているという国民を憂いているのか分からないけど、少し疲れているような声色に、王子様もいろいろ大変なことがあるんだなぁと思った。


……まあ、でも。

女神様の話はさておき。


クオードの助力を得て中々なチート的な強化ができたのではないかと思う。

外に出るには強さが必要、ということは、きっと何か危険があると思うから。それが、モンスターなのか、それとも他のものかわからないけど、戦わないといけないこともあるのだろう。

でもこれで、屋敷の外に行ける。何か攻撃されても無効化できる加護スキルに、剣。あとはなんか帰って庭で素振りでもしながら、剣に魔力を纏うっていうのも試行錯誤して練習してみよう。


──この世界のどこにでもいける。そう思うと、胸がドキドキするしワクワクする。まるでこれからゲームがはじまるとような高揚感だ。腰にかけた剣に手を添えるとほんのりあたたかく、わたしに応えているようだった。


「ほんとうに、ありがとう。クオードのおかげで、これからの心配はないです」


「いいんだ。礼はしてもらうから」


「あなたと友人になれてよか、……え?」


あれ?何か聞こえたような?


そんなわたしの疑問は、に、と悪い顔で笑ったクオードの表情でかき消される。あ、やっぱり「礼はしてもらうから」って仰いましたよね、この王子様。すごく悪い顔で笑ってますけど…思わず、わたしがジト目になるのも仕方のないことだよ。


「…友人って言ったのに」


「友人さ。友人ならば、わたしの願いも聞いてくれ」


強制はしないからさ。と肩を下げてわざとらしく、恭しく話す姿はまるで、自己紹介の時のクオードとは別人だ。わたしが魔界からの婚約を受けると疑っての頑なな表情だったのは理解できるけれど、本当は気さくな性格なのだと感じた。


「…お礼って、なにすればいいんですか友人様」


「⋯門番の家には、神話が書かれた本があるという」


「神話?」


「そうだ。この世界創造に関する物語だ」


貸してくれとはいわない。

本を読み、僕に教えてくれ。

クォードはよどみのない瞳で、そう言った。

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