第5話 脚光を浴びる

わたしが主役のパーティーといっても、何かをすることはない。要は顔を見せればいいので、婚約者が決まるまではダンスもする必要もない。というか、婚約者以外の人とダンスをしてはいけないらしい。もちろん、どちらの世界の王族とも挨拶や話はするだろうけど、貴族程度ではこの場ではあなたへは話しかけにこない。と、ガリオンは言っていた。


…でも、ただひとつ、例年と今年は違うことがあるとも言っていた。今までは、門番の家も2つの世界の王族も、みな性別がバラバラだったと。でも今の世代は、今回だけは、


「兄弟姉妹もおらず、こちらはあなただけ。そして女性です。両世界の王族は、兄弟含めあなたと同じ、もしくは近しい年齢のお子様が、数人おり、みな男性です」


「…す、すごい偶然ね」


「これは、老いぼれの行き過ぎた心配かもしれませぬ。ですがお嬢様、決して忘れてはなりません。言葉を選ばずに失礼を承知で申し上げますが、お嬢様はとても御しやすそうに見えるのです」


御しやすい?チョロインってことか…。







でも、この世界に来て嫌なことばかりではなかった。ここはやっぱりファンタジーの世界。おそろしいモンスターもいれば妖精もいる。彼らは無害で、イタズラ好きな子はふらりと現れわたしの髪で遊んではクスクスと笑い消えていく。優しい子は寝ているわたしの枕元に花びらを撒いて飾っていたり、歌が好きな子はわたしの鼻歌に合わせて歌う。


慣れない憂鬱なパーティー会場に向かうわたしを見送るのは、すっかりわたしの目を見て微笑んでくれるようになったたくさんの従者たちと、たくさんの妖精たち。


(ユーリ、ドレスきれいよ!)

(くしゃみする時は口に手を当てろよ!)

(ドレスを踏んではだめよ!)

(軽く蹴るように踏み出すってメイドがいってたわ!)


妖精たちはとてもおしゃべりで、いつも笑いながらわたしの周りをくるくる回る。でもこの子達の姿は見える人にしか見えず、声も聞こえないらしい。どんな違いがあるのか今はわからないが、メイドや執事はほとんどの者が見えていないという。

…まあ、パーティー会場でもきっと見える人は少ないだろう。それに、見えたところで何も問題はない。それよりもわたしの緊張がほぐれるから、居てくれる方が安心するかも。


扉の前で立ち止まり、執事にこくりと頷く。執事もまた、こくりと頷いて扉を開けた。眩い光で、たくさんの視線は感じるが顔は見えない。両手を胸に合わせ、深くお辞儀をして足早にわたしの椅子へ腰掛けた。

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