決心

「・・・、とりあえず宿に戻ろうかな・・・。

 これから一人か・・・。」


 !?

 後ろを見ると、そこには女の子がいた。

 女の子も僕と同じように体が光らずに現実世界へ帰れなかったのだろうか。


「一緒に来る?」


 僕が女の子にそう言うと、女の子はちょこんとうなずいた。


 僕はまさかこんなことになるとは思っていなかった。

 また今日から現実世界のいつもの日常が始まると思っていた。

 でも、天使様がそう言ったなら近いうちに帰れるに違いない。


 だって、天使はどこの世界でも良い種族だから・・・。


 そんなことを思っていると、現状が楽しくなってきた。

 帰れるのが今日かもしれないし、明日かもしれない。

 どれだけお金を払ってもけして来れない所、とりあえず自分が現実世界で想像していた異世界でやりたいことをしてみようと思った。


 異世界の美味しそうな料理を食べたり、近くの場所を冒険したり、僕は初めて海外旅行に行く人の様に異世界の世界観を二人で楽しんだ。


 まあ、まだ一度も海外に行ったことはないんだけどね。


 そんなある日、突如とつじょ僕達の前に天使様がりてきた。


「おまたせ~。」


 町で食事をしていた時にいきなり現れたため、僕は口に入れたばかりの大きな肉を丸呑まるのみしてしまった。


「あら、お食事中だったの?

 それはしっけい。」


 天使はそう言うと、しれっと目の前にある野菜をホークで食いだした。


「天使様!

 お久しぶりです。」


 僕はおどろきながらも冷静れいせいに対応した。


「おひさ~。」


 やけに軽い対応・・・、相変わらずあの時から天使様の性格が崩れている気がする。


「それでどうだったんですか!?

 結局僕達はいつ現実世界に帰れるんですか?」


 僕は帰りたいという考えしか頭になかったせいか、天使様に自分の欲求を強引に押し付けた。


「ん~、それがね。

 結論けつろんから言うと、あなた達は元の世界に帰れないかもしれないわ。」


 僕はその言葉を聞いた瞬間しゅんかん、頭が真っ白になった。

 そして、口に含んでいた大きな肉をまたもや丸呑みしてしまった。


「ゲッホ、ゲッホ。」


 僕が辛そうにむと、天使様が呪文を唱えた。


「コルン♪」


 すると、自然と楽になった。


「元の世界に帰れないってどういうことなんですか!?」


「うん、それがね。

 君達をこの世界に呼んだの私じゃなかったの。」


「え!?

 どういうことなんですか!?」


 僕は突然のことに、両手を机について思いっきり立った。


 頭が真っ白になった。


「まあまあ落ち着いて。」


 天使様は優しく僕に声を掛けた。

 すると、自然と心が和らいだ。


「天使様、何か策でもあるんですか?」


「ないわよ。」


 僕はあきれて倒れるかのように頭を机の上に打ち付けた。


「落ち着いて、落ち着いて!

 そんなことしてても何もならないわよ!」


 自然と気持ちがやわらいだ。


「天使様、僕これからどうすればいいですか?

 元居もといた世界にも帰れず、この誰も知らない世界で一人っきり、一生ここで過ごさなければならないんですか?」


 この問題に対して全く関係のない相手だと理解したが、今は誰かにこれからの自分の行動を決めてほしかったた。

 現実世界にいた頃には思わなかった発想だ。


 すると、天使様はある方を指さした。


 僕はその方向を見ると、女の子がいた。

 一人じゃなかった。

 僕は無性むじょうに自分がはずかずかしくなった。

 僕は男だ。

 もう小学五年生にもなったのに自分の事だけ気にして、ずっと一緒にいた女の子のことを忘れてしまっていた。

高学年なのに恥ずかしい。


 女の子はそこら辺を歩き回って、この店に無造作むぞうさに置いてあったチラシを楽しそうに見ていた。


「とりあえず今やるべきこと決まりました!

 天使様ありがとうございます!」


「そう。

 こっちもこれから出来る限りのことをするわ。

 忘れちゃ駄目よ♪

 また情報が入ったら連絡するわね。

 頑張る子にはこれあげちゃう。

 サピル。」


 天使様はそう言うと、呪文で僕のズボンの腰に茶色の小さなかばんを召喚して取り付けた。

 少し重量感があった。


「あとこれも♪

 サピル。」


 かばんを見ると、外側の所に天使様の小さな人形が取り付いた。


「お守りよ♪」


 気分がとてもスッキリした気がした。


 「ありがとうございます!」


 いつ帰れるとか、帰れないかは今は考えないでおこう。

 僕は、この一体何があるのか分からない世界で生きていかなければならない以上、この子と帰れる日まで絶対にこの世界で生き抜くことを決心した。


「それじゃあ、行きます!

 ありがとうございました!」


 すると、天使様はにこやかに笑いながら手を振ってくれた。


 近くで遊んでいた女の子を呼び、店の出口へと向かって外に出た。


「さて、私も行くかな・・・。」


天使が立ち上がって帰ろうとすると、お店の男の人がそっとあるものを渡してきた。


「2000ランになります。

お会計は、こちらでお願いします。」


「えー!!!」


天使は半泣きしながら、お金を支払った。

財布の中身を確認すると、45ランしか残って無かった・・・。

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