第35話 話し合い

 「……大林さん、僕が嫌いだからって言っていいことと悪いことがあって」


 千里は怒らないように振る舞う。しかし、栞奈の境遇を知って小夜がそんなことを言ったのだとすれば、聞き逃すことはできなかった。


 しかし、小夜は言い直すことなく言葉を続けた。


 「これだけで信じろなんて言わない。話すことはたくさんある。だから最初は信じられないと思っても我慢して聞いて」


 「……分かった」


 小夜には納得を得る自信があるらしい。栞奈の名前が出た以上、千里としてもその話を聞く必要があった。


 「私が最初に逆瀬川栞奈から連絡を受けたのは、千里君と出会う数日前だった。去年の春休みのこと」


 「待て。そんなわけないだろ」


 静かに聞くつもりだったものの、千里は早速指摘してしまう。脅迫は四月末だった。そのため、栞奈と知り合うのはどんなに早くてもその後になるはずなのだ。


 「ちゃんと話を聞いて。全部説明するって言ったでしょ?」


 「………」


 「私も初めはよく分からなかった。SNSにいきなり連絡があったの。その時から逆瀬川栞奈って名乗ってて、私に一つのことを要求してきた。新学期に北山千里って男子生徒が転入してくるから、その人の近況を報告してほしいって」


 小夜は言葉を選んで説明している。しかし、千里は吹き出してしまった。あまりにも下手な嘘だと感じたのだ。


 「意味不明だ」


 「そうね。その名前が本名なのか分からないし、目的も分からない。そもそも、そんな人が転入してくるのかさえ怪しかったから。だから最初は無視してた。すると、栞奈からの接触もなくなった。だけど、事情が変わったのは新学期が始まった時で……」


 「僕が転入してきた」


 小夜は一つ頷いて、栞奈から送られてきたというダイレクトメールを見せる。メールでは確かに逆瀬川栞奈という名前が使われていた。


 「でも、それだけで信じたわけじゃないだろ?栞奈が実在の人物だという証拠さえなかったはずだ」


 「その通り。でも、新学期が始まって二日後、同じ相手からこんなメールが届いたの」


 小夜からその後のやり取りを見せられる。驚いたことに、そこには栞奈の学生証の写真が添付されていた。続く文章では栞奈の実際の経歴が書かれている。


 「この学生証、前の学校のものなんでしょ?」


 「……ああ、確かにそうだ」


 千里はその写真から目が離せなくなる。たった一枚の画像が突拍子もない仮説を裏付けようとしていたのだ。ただ、送り主が栞奈とは限らない。写真を入手した第三者が勝手に送り付けた可能性も考えられる。小夜もその可能性について口にした。


 「まだ信じられなかったよ。これが栞奈である確証もなかったし。でも、この高校のホームページを探してイベントの写真を漁ってみたの。そうしたら同じ顔を見つけた。千里君と一緒の写真も」


 小夜は再び携帯を操作して、今度は画像フォルダの数枚の写真を見せる。それは確かに、以前通っていた高校での写真に間違いなかった。田舎の高校であるため、行事の写真が掲載されるとほぼ間違いなく全校生徒が映るのだ。


 「これだけじゃ、このアカウントが栞奈だとは証明されないかもしれない。でも、確かに逆瀬川栞奈という人が実在して、千里君の知り合いだということも分かった。だから、ここで返信することにしたの」


 再びSNSでのやり取りに戻る。そこではどうして千里の近況が知りたいのかと質問されていた。それに対する栞奈の返答は再度千里を驚かせるものだった。


 「驚いたよ。でも、本当のことなんでしょ?」


 「……ああ。栞奈は以前、同じ高校の生徒に強姦された。それを僕が遅れて助けたんだ」


 栞奈は小夜への返答に事件のことを絡ませていた。


 「私を助けてくれた千里はその時に相手に怪我を負わせてしまった。私はそのおかげで救われたけど、千里はその男たちと合わせて非難の対象になった。人殺しだとか、仲間割れしたんじゃないかとか。私を助けてくれただけなのに」


 小夜が一部を朗読する。それを聞いて千里は当時のことを思い出した。時間が経っても忌々しいと思わざるを得ない。


 「そうして千里は引っ越すことになった。私のせいで故郷を捨てることになったの。千里に合わせる顔なんてもうない。昔から好きだったから、なおさら連絡を取れなくなった。きっととても恨んでいると思う。家族も離れ離れになったって聞いた。……これも本当の話?」


 続けて栞奈の長文を呼んだ小夜が確認を取ってくる。千里は小さく頷いた。


 「僕には妹がいる。両親が妹の将来を考えて引っ越しを決めたんだ。一緒だと噂を立てられて生活しにくいからって。だから僕は下手良、他の家族は近畿の都市部に引っ越した。……でも、栞奈がそんなことを考えなくたって」


 千里は歯を食いしばる。事件で最も傷を負ったのは栞奈で、千里の現状は自分が招いた結果でしかないのだ。小夜はそれを聞いて複雑な表情をした。


 「そういうわけで千里君には連絡が取れない。でも、新しい土地でどうなってるか気になる。だからこっそりと教えてほしい。そういう内容だったわけ」


 「……それで、その話からどうして脅迫の犯人が栞奈になるんだ?」


 「焦らないで。調べてみたら、名前こそ載ってなかったけどその事件のことが地方紙に載ってた。だから私は信じることにしたの。これがまだ四月初めの話」


 ようやく栞奈と知り合った経緯の説明が終わる。今のところ、作り話だという証拠は見つけられていない。見せられたメッセージや写真は、小夜の言い分の信憑性を高めていた。


 「その後の数ヵ月は些細なことを教えるだけだった。栞奈がとても不憫だと思って、大切な人のことを知りたいって気持ちを悪く受け取れなかったの。……でも、おかしいと思うようになったのが八月頃だった。ちょうど千里君と紗花が付き合い始めたとき」


 小夜の目つきが一瞬鋭くなる。それ気付いた千里は視線を落とした。


 「紗花から教えてもらったとき、そのことをどう説明するべきか悩んだ。だってそうでしょ?栞奈はことあるごとに千里君への想いを伝えてきてて、社会復帰は千里君のためだとも言ってたんだから。だから少し腹が立った。栞奈の気持ちが分からないのかって」


 「それで、栞奈にどう伝えたんだ?」


 「もちろん正直に伝えた。でも、それに対する反応は予想より軽かった。冷静っていうか、最初から分かってたような感じ。それでも、その時は干渉すべきじゃないなんて健気なことを考えてるって自分の中で結論付けた。だけど、さすがに文化祭の時はよく分からなかった」


 「……あの時には紗花と付き合ってたことをもう知ってたのか」


 「あの部長さんと付き合ってたこともよ。だって栞奈が脅迫していた張本人なんだから。……まあ、その話はまだ後。文化祭に栞奈が現れて私は不思議に思った。千里君に直接連絡できない栞奈に代わって私は手助けをしてたはず。直接会えるのなら、私が仲介する必要なんてない」


 「……確かに」


 千里はつい納得してしまう。文化祭での栞奈の訪問は千里も疑問に思っていた。小夜がそんな状況だったのであれば尚更である。


 「しかも栞奈は私を無視した。私のアカウントを見て顔を知ってたはずなのにね。だから来た理由は分からなかったけど、連絡を取り合ってることをまだ千里君に隠してるってことは分かった」


 話が込み入ってくる。しかし、千里は当初の態度を改めて話を真剣に聞いていた。小夜の話は常識の枠を外れているようで矛盾していなかったのだ。


 「だから、その時に何か隠されてるって確信した。それで千里君のことを調べたの。そうして野依茜とも付き合ってることを知った。その時点で紗花に伝えようかとも思ったけど、予備校に通っていることも分かってその理由を探ることを優先した。……どうしてかはもう覚えてない。その時から嫌な予感を持ってたのかもしれない」


 「それで、美波のことも知ったわけか」


 「へえ。美波っていうんだ、クリスマスイブに一緒だった人。付き合ってるって確信が持てたのは十一月に入ってからだった。私はすぐに栞奈に報告した。栞奈の考えは分からないままだったけど、なによりも不憫に感じたから。千里君のことで心を焦がすのは無意味だって伝えたかったし」


 「………」


 「でも、そのとき栞奈は言ったの。そのままでいいから、いつものように千里君のことを報告してって。さすがに限界だった。これ以上は紗花にとって良くない。親友が犠牲にされているのは許せなかったから。だから、本当のことを紗花に伝えるって言った」


 小夜の表情は徐々に暗くなる。当時の葛藤を千里は感じ取った。


 「すると栞奈は態度を一変させた。それで、本当の企みを伝えてきたの」


 「どんな?」


 千里が言葉を挟むと小夜は目を閉じる。しばらく両手を擦り合わせて黙っていたが、しばらくして口を開いた。


 「それは説明できない」


 「なぜ?」


 「理解できなかったから。言ってることは分かったよ。でも意味が分からなかったの。どうせ私との話が終わったら直接栞奈に聞くことになる。だから、その時に自分の耳で聞いて。少なくとも常識からかけ離れてて、猟奇的だったことだけは伝えておく」


 小夜は最後まで内容を伝えない。千里はそんな態度に不満を持ったが、小夜は気にせず話を続けた。


 「その時に栞奈は私を脅迫した。詳しくは言わないけど、栞奈の目的が達成されるためには千里が紗花と付き合っている必要があったから。内容は単純で、この事実を他言したら私が片棒を担いでいたことを暴露して、紗花のあることないこと書き立てて攻撃するって」


 「……それが脅迫の内容?」


 「そうよ」


 「馬鹿げてる。そんなの脅迫の内にも入らない」


 千里は思わず小夜の対応を批判する。自分が受けている脅迫と比べてあまりにも幼稚だと思ったのだ。しかし、小夜はすぐに反発した。


 「紗花が傷つけられることが怖かったの。協力すれば紗花は解放されるって伝えられた。千里君が思い通りになればそれ以外はどうでもいいからって。それを聞いたとき、栞奈も千里君も紗花を傷つけるためだけに動いてるような気がした。だからその方が良いのかなって」


 「……でも、紗花は傷ついた」


 千里は静かに結果を口にする。すると、小夜はゆっくりとその場に座り込んだ。ため息をついたことが白いもやの大きさで分かった。


 「そう。最初から栞奈に約束を守る気なんてなかったの。私がこの話を持ち掛けたのもそれが理由。千里君が苦しむだけなら助ける必要なんてないと思ってた。だけど今では、紗花が傷ついて栞奈が一人勝ちしてる。それが許せない」


 「まだ話がよく分からない。僕の知る栞奈は他人を傷つけて自分の目的を達成するような人間じゃない」


 千里は昔の栞奈を思い出して、にわかに信じがたい話であることを伝える。しかし、小夜はそれを鼻で笑った。


 「でも事実。そんな固定概念を上手く利用して、栞奈は目的を果たそうとしてる」


 「そう言うのであれば、余計にその目的を理解しないと判断しようがない」


 千里は最も重要な事実を教えるように求める。すると、小夜は遠くを眺めながら少しだけ説明した。


 「簡単に言えば、千里と離れ離れなのが嫌で取り返そうとしてる。その方法があまりにも特殊で常軌を逸してるだけで」


 「……よく分からない」


 「そのあたりの説明は私にもできない。本人の口から聞くしかないと思う。とにかく、私は言いなりになるしかなかった。その時に、千里君が脅迫されて三人と付き合わされてることは聞いた。正体を隠して脅迫してるって嬉しそうに教えてくれたよ、栞奈は」


 「あり得ない」


 「あのね!そうやって盲目的だったから紗花は傷ついたの!それをよく理解して!」


 なおも理解を拒んだ千里を小夜は叱責する。小夜が紗花のために必死になっているのであれば、聞き分けの悪い千里に苛立っても仕方がない。しかし、千里にも譲れない考え方はある。栞奈を信じることもそれに準じていた。


 「それからの私は栞奈の駒になった。クリスマスイブに姿を見せたのも命令されたから」


 「そのときにあの写真を撮ったんじゃないのか?」


 千里は弱々しく質問する。脅迫されていたのであれば、盗撮の強要があったとしてもおかしくないのだ。しかし、小夜はそれを否定した。


 「私はしてない。全部栞奈の仕業だと思う。状況的に考えてね」


 「でも、それだと辻褄が合わない」


 ここで、千里は自分が受けた脅迫の内容を事細かく説明した。小夜は何度か頷いて納得する。


 「僕は恋愛関係の要因を見つけ出すように言われた。仮に栞奈が小夜にそんな命令をしたのなら、僕に約束させていたことを阻害することになる」


 千里に恋愛関係の要因を調べるように伝えておきながら、同時にその邪魔を小夜に命令した。小夜の説明を鵜呑みにすると、そんな不可解な状況が作り出される。千里はそれを疑問視していた。


 「あのね、ちょっとは察して。栞奈にとってそんなことどうでもよかったの。大切なことは指定した三人と千里君を付き合わせること。説明は目的に合わせてこじつけていただけ」


 「……でもなぜ」


 「だからそれは本人に聞いてって」


 小夜が苛立つ。ただ、千里はあり得ない話を信じろと言われている身である。素早い理解など不可能だった。


 「初詣であんなことを言ったのは、千里君にそのまま三人と付き合ってもらって栞奈の満足を得て紗花を解放してもらうためだった。でも、今日こんなことが起きた。栞奈が私を裏切ったのならこれ以上言いなりになってるわけにはいかない。千里君のことは嫌いだしとても憎い。だけど、栞奈だけが笑ってるなんて一番嫌。もう思い通りにはさせない。今度は私たちが牙を剥く番だって」


 小夜はそう言い切って立ち上がる。その目は凛々しく、新しい目的に向けて燃えていた。


 「私は紗花を守りたい。だから協力して。千里君だって真実を知りたいはず」


 「でも……」


 「なに?」


 決断に苦しんでいると小夜が迫ってくる。先程と立場が逆転していた。


 「……悪いけど、まだ信じることはできない。栞奈は本当にそんな人じゃないんだ」


 「まだ言うの?これ以上の証拠が欲しいの?残念だけど、最初のやり取りから連絡は電話になったから他には何も残ってない。それとも私が本当の犯人だって思ってる?」


 小夜は怒りを見せながらどんどんと詰め寄ってくる。しかし、千里にそんなことを言うつもりはなかった。


 「小夜が犯人じゃないってことは分かった。だけど、栞奈のことは結論を保留させてほしい」


 「そんなことしてると取り返しのつかないことに!」


 「分かってる!だから僕から栞奈に連絡して事情を聞いてみるよ!でも、それまではやっぱり信じられないんだ!」


 千里もつい叫んでしまう。二人は睨み合うが先に小夜が視線を逸らした。


 「確かにそうなのかもね。……でも、千里君の昔の知り合いが三股してるって聞いても信じないんじゃない?それと一緒だと思う。切羽詰まると人は極端に変わるもの。そうでしょ?」


 小夜がぶっきらぼうに確認してくる。ただ、今の千里に言い返すだけの力はなかった。小夜の言葉はまさしく正論だったのだ。


 「……とにかく栞奈に連絡してみる。話はそれからだ」


 「いいよ。それで私はどうなるの?離れちゃいけないって話だったけど?」


 「今から連絡してみるよ。ただ、一つだけ分かってほしい。僕はそれでも大林さんより栞奈を信じる」


 これは本心以外の何物でもない。小夜はため息交じりに頷いた。


 「分かったから。早く確認して。正直に話さないようなら私が代わりに話をつけてあげる」


 「最初はそこで大人しくしていてくれ」


 携帯を取り出した千里は小夜を一瞥して栞奈の連絡先を表示する。ただその瞬間、千里は急に恐怖感に襲われた。小夜の話がもし本当だったらと考えてしまったのだ。


 しかし、このまま突っ立っているわけにもいかない。酷くなる手汗を拭ってコールを始めた。


 ただ、電話はどんなに待っても繋がらなかった。


 「出ない。まさか」


 「心配いらない。私が犯人ならそんな余裕なんてないし、最初から栞奈が犯人だって言ってるでしょ?」


 「………」


 「急に千里君から電話があって、何が起きているのか必死に考えてるんだと思う。自分の悪事がバレたんじゃないかってね」


 小夜が一人で考察する。ただ、千里の耳には届かなかった。連絡がつかなければ確認のしようがないのだ。


 「方針が決まったら栞奈は必ず連絡を返してくる。私はそれまで一緒に待っていればいい?……私にだって責任はある。紗花との関係が壊れるのを恐れて栞奈の言いなりになっていたから。千里君がそう命令するのなら従うけど」


 小夜は千里を嫌っているが、同時に協力的でもある。ただ、小夜を信じることは栞奈を疑うことと同義だった。


 「一つだけ提案させて」


 千里が悩んでいると小夜が一歩近づく。


 「私たちの事情なんて関係なく、紗花を含めた三人は今も騙され続けてる。それはもう終わらせてほしい」


 「簡単にできることじゃない。……男が誰だったとしても、栞奈が傷つけられる可能性がある以上は」


 千里は問題点を吐き出す。しかし、小夜はそんな考えに反論した。


 「いい加減、自分の願望に人を巻き込まないで。どうせ私と話をした時点で約束は破られたようなものでしょ?」


 小夜は常に客観的な視点から正論を突き付けてくる。千里に言い返せるだけの論理はなかった。


 「もし大変なら私が協力してもいい。紗花との話し合いは準備してあげられるし、千里君の言葉だけじゃ相手が信じないのなら補足する。だからお願い」


 小夜の説得には力がこもっている。千里はそんな小夜を羨ましいと思った。


 「……本当に紗花のことばかり考えてるんだな」


 「そんなの当たり前。半年以上、隣で紗花の一喜一憂を見てた。報われないことを知っていて、それでも何もしてあげられなかったの。だからその罪滅ぼしをしないと」


 小夜は簡単そうに言うが、意志が強くなければこんなことはできない。少なくとも千里には真似できそうになかった。


 「……分かった。だけど協力はいらない。僕が蒔いた種だ。僕がけりをつける」


 「そう。……それで、私はどうすればいい?」


 「今は何もしなくていい。三人と話をつけたら連絡する」


 「疑ってるんでしょ?いいの?目を離しても」


 小夜は千里と目を合わせる。最後の確認をしているのかもしれなかった。


 「完全に信じることはできない。でも、そんなことばかり言ってもいられない。連絡したらすぐに集まることを約束してくれ。それができなかったときは、小夜が犯人だったと考える」


 「いいよ、分かった」


 小夜は間髪入れず理解を示す。


 「それじゃ一度解散しよう。紗花には僕から連絡を取る。一番最後になるから、もしかすると明日になるかもしれない」


 「どうして最後が紗花なの?」


 「説明に一番困るから」


 「そう」


 小夜は一瞬だけ難しい顔をする。しかし、すぐに表情を引き締めた。


 「それじゃ、また後で」


 千里は階段を下って校舎に戻ろうとする。早急に茜か美波と連絡を取らなければならないのだ。ただ、会ってくれるかは分からなかった。


 「……ねえ」


 千里の背中に小夜が声をかけてくる。


 「信じ続けることが悪いなんて言わない。だけど、どんなことになっても今の千里君のままでいることを約束して」


 「………」


 小夜は遠回しに、それでも分かるように忠告してくる。千里は頷いてその場を離れた。

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