5話 パーンパンパンパンパカパーン
うちの高校には、学食と、昼だけ店を出す購買とがある。
おれは母上のありがたーい弁当派だけれど、体育などでがっつりカロリーを消費した日には、プラス購買でパンを買ったりもする。いつも一緒にお昼を食べる紺と一夏は、二人とも購買派だ。学食は混んでいるので教室で食べたほうが良いらしい。
「パーンパンパンパカパーン」
作詞作曲おれの歌を歌いながら購買の列に並んでいると、一緒に並んでいた一夏がゆっくりとこちらに顔を向けた。
「何それ」
「パンの歌。一緒にどう? せーの」
パーンパンパンパンパカパーン。
一夏が声をそろえてくれる。良い奴だ。紺ではこうはいかない。
その紺はというと、日直の仕事でここにはいない。おれは紺の代わりに購買の列に並んでいるのだ。ついでに自分にもデザート代わりに何か甘いパンでも買おうかな、と思っている。
「芸術パンしか残らないかもね」
列の様子を見ながら一夏が言う。
購買で売っているのは、半分はコンビニなどでも売っているような市販のパンだが、もう半分は購買のおばちゃんの創作パンだ。芸術パン、とおれたちは呼んでいる。
創作パンと言っても、生地から焼いているわけではない。
市販のパンに色々な総菜が挟んで売っているのだ。これがまた、オリジナリティあふれる総菜の組み合わせで、まずいわけではないけれど、それとそれを組み合わせるか? という一歩退きたくなる驚きがある。
たとえば、コッペパンに海老フライと魚肉ソーセージがセットで挟まっていたり、コロッケとポテトサラダのサンドイッチだとか、あんことサツマイモの甘露煮のハンバーガーなどなど。とにかくガッツリ、という力強い意志が感じられる。
芸術パンと言いながら、その心は体育会系だ。
「購買、おにぎりとかも売ってくれないかな」
一夏が言った。
「米食べたいよね。学食に行けば良いのかもしれないけど。あ、学食で白米を買って、自分でにぎるとか?」
「それなら家で作って持ってきたほうが良いと思う」
「ちょっと楽しそうだと思ったんだけど」
「颯月がやりたいなら止めないよ」
「うん。面倒だね」
列の一番前まで来た。
芸術パンの割合が多いけれど、予想よりは普通のパンも残っている。
一夏は普通のパンの中から、カレーパンとあんパンを買っていた。それだけで足りるのだろうか。弁当にブロッコリーが入っていたら分けてあげようと心に決める。
紺に頼まれているのは、カツサンドが残っていればそれで、次点でウインナーパン。なければ適当に腹にたまりそうなものを、という要望だ。カツサンドは競争率が高い。もちろん、すでに売り切れていた。ウインナーパンは普通のパンの中に残っていた。けれども、体の大きな紺だ。それだけでは足りないだろう。
並んでいるパンから、他に腹にたまりそうなものを探す。
「ハンバーグとフィッシュフライのサンドイッチと、ごぼうとたまごのサラダのコロネと、桜ぜんざいバターロールと、こっちのチョコクリームパンをください」
チョコクリームパンは自分のデザート分だ。
紺のためのパンも、栄養バランスと腹持ちを考えたナイスチョイスだと、思わず満足が鼻息になる。
「お待たせ」
先に買って待っていた一夏のところへ行く。
「たくさん買ったね」
「このくらいぺろっと食べるって。一夏、足りなかったら、紺に分けてもらえよ」
「いや。いらないけど。ねえ、ウインナーのパン、頼まれてなかった?」
「あ」
はっとして購買のほうを振り返ると、最後のウインナーパンが今まさに売り切れたところだった。
「……一夏。ウインナーパンは売り切れだったんだ」
一夏は、おれの視線を追って、こくりと頷く。
「わかった。おれ、実は颯月の家の卵焼きが好きなんだよね」
じっ、と一夏が綺麗な瞳で見つめてくる。
「ブロッコリーは?」
「いらない」
仕方がないので、ブロッコリーは紺のパンにこっそりサービスすることにした。
ハンバーグのサンドイッチとサラダコロネとどちらに入れておこうかな。桜ぜんざいバターロールに入れるのはやめておいてあげよう。おれのささやかな優しさだ。
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