4話 延々と無駄話

 メッセージが一件届いています、という通知がスマホにきていた。開くと、中学の時の友人、如月なぎさからのメッセージだった。


『よ』


 一文字だけだ。

 誤送信ではなく、挨拶のつもりだろう。おでこの前に片手を上げたなぎさの姿が目に浮かぶ。頭の良いなぎさは、頭の良い私立高校に進学していた。頭だけでなく、顔も良い。しかも気さくで良い奴だ。ちょっとどれか分けてほしい。


『ん』


 真似をして、おれも一文字だけ返信しておいた。すぐになぎさから返信がくる。


『笑』


 一文字しばりでいくつもりか。


『ご』

『?』

『ろ』

『く』

『な』

『な』

『は』

『ち』


 どこまで続けたらいいんだこれ。でもこちらからやめるのもちょっと悔しいような気がする。

 そう思っていたら、


『いや、全然わかんないし笑』


 というなぎさからのメッセージが届いた。先に折れるのは悔しかったけれど、先に折れられても、それはそれで自分のほうが子どもっぽかったようで悔しい。


『なぎさから始めたんじゃん。で、何?』

『どうしてるかなって。高校はどう?』

『まあまあかな。なぎさは?』

『こっちもまあまあって感じかな。宿題が多くてまいるけど』

『なぎさが言うんなら相当だね。近いうちに紺もさそって、ぱーっと遊ぼう。息抜きに』

『そうだね』


 じゃあまた、と区切っても良かったけれど、何か話題がなかったかな、と探す。なぎさがメッセージをくれてうれしかった。なんて言うのは恥ずかしいから、少しでも時間を引き延ばして、うれしかった、を伝えたい。


『なぎさは、カレーライスとラーメン、どっちが最強だと思う?』

『何だそれ?』

『このあいだ、友達とそんな話になってさ』

『ふうん。颯月は?』

『おれはカレーかな。カツカレーが最強オブ最強』

 肉、肉、肉、と肉のアイコンを三つ重ねて主張しておく。


『紺は麺類でしょ』

『当たり。あいつは食べ物に生まれ変わったらきっと麺類だよ』

『意味わからん。でもわかる。颯月は米類っぽいな』

『じゃあ、なぎさは魚類な。あー、野菜類も捨てがたいか』

『おれの最強は、ずばり寿司だ』

『魚類かー。ていうか、カレーでもラーメンでもないじゃん』

『カレーならシーフード。ラーメンなら冷やし中華』

『カレーとラーメンなのに、賢そうな感じだな。冷やし中華ってラーメン?』

『中華麺ってことで。賢そうって笑。カレーとラーメンに失礼だな』

『大丈夫。愛があるから』

『ああそうですか』

『そうだ、宿題と言えば、数学の宿題が出てたんだ。写メるから、ちょっと答えを送ってよ』

『じゃあ、おれの宿題と交換な』

『うわ。それはカレーを箸で食べろっていうくらい無茶ぶり』

『意外といけるんじゃ?』

『はあ。何かお腹空いてきた』

『おれは今、煎餅食べてる』

『ええ。ちょっとこっちにもちょうだいよ』

 煎餅のアイコンが返信されてくる。

 タコのアイコンを送り返す。

『何でタコ?』

『怒りの表現』

 ツボのアイコンが送られてくる。

『何でツボ?』

『ツボった笑』

 ツボのアイコンで返信する。

 とめどない話はスマホの電池が赤くなるまで続いた。

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