束の間の休息


 ドアを開けると、クラスメイト全員の瞳が僕に向けられた。


 あー、なんて言おうかなと考えていたら先生はたった一言、「大変だったな、さぁ席について」ってそう言われてしまったら僕は何も言えなくなってしまった。


 皆、知ってるんだ。そうだよね、あんなにバチバチとやったんだから。



「…………はい、先生」


 まっすぐ席に向かうだけなのに、まるで全てがスローモーションになったみたいに感じていた。



 岡村が助かって良かった。でもこれじゃあ僕は早苗さんを守るどころか、足手まといだ。……いない方がマシだ。


 初戦だったから? そんなの言い訳にすぎない。僕は、僕は……どうすればいいのだろう。







 目が合った。小野寺さんが心配そうな表情を見せる。


「大丈夫だった?」と口パクで伝えてくる。何が大丈夫だったのだろう? とりあえず頷いてはみたけれども。


「……っ」


 小野寺さんの瞳が大きく開いて、何かを言いたそうにグッと唇を噛んでいた。




 *****



 退屈な授業が終わった。退屈といっても半分も僕の頭の中には入ってなかったと思う。ごめん、先生。



「「関口っ!!」」


 名前を呼ぶ声が被った気がして、顔を上げると走ってきたのか、汗をかいている神宮寺先輩と驚いた顔の小野寺さんがいた。



「あっとと〜先輩が用事みたいだよ! えへへ〜被っちゃったね。ごめんなさい、先輩」


「いや、構わないが。関口に話したいことがあるのか? 先にいいぞ」


「いえいえ〜失礼しました。私のはいつでもいいんで……関口がまた悩んでるみたいですよっと。フフ、それでは〜」



 小野寺さんは言いたいことだけをツラツラと早口で喋りきり、僕たちを見ながらウフフなんて笑い声をあげながら廊下へと消えていった。



 なんか様子がおかしくない? 僕に何を言いたかったんだろうか。



 小野寺さんのことも気になるけど今は神宮寺先輩の方が先だ。僕のクラスに急いで来るなんて。




「――もしかして早苗さんにな「いや違う」



「良かったです」


 すぐに否定され、頬が緩む。

 思わずほっと息をついたのは許してほしい。……今、僕はうまく笑えただろうか。







「落ち着いたか? 本題に入るぞ」


「はい」


「お前は強くなりたいか?」


「はいっ!! なりたいです、早苗さんを守れるように」


 教室中に響く声に自分が驚いた。僕ってこんなにも大きな声を出せるんだと。



「――はぁ。そうか、お前に連れて行きたいところがある。今からついてこい」


「今からって授業はどうするんですか」


「許可は取ってある。とりあえずついてこい」


「わかりました。あの早苗さんは今どうしていますか?」


「……保健室で休ませている。怪我が治ったからといって無理はさせられないからな」



 神宮寺先輩はそう言いながら、はやくしろと促す。早苗さんのことについては嘘は言ってなさそうだ。


 まぁ疑ってどうするんだって話かもしれないけれど、この人なんだかんだ言って優しい嘘みたいなものを普通についてくるタイプに見えるから。


 ――用心しておくに限るよね。


「神宮寺先輩についていきます」







 小ネタ



「関口ってさ〜よく今までこの学園で食べられなかったよねぇ、ふっしぎー」


「本人が目の前にいるのにそういう話する?! 普通さ、ねぇ早苗さん」


「……はぃ」


 相変わらず早苗さんは小野寺さんと話すときこうなる。僕と話すときみたいになれればもっと、早苗さんの魅力を知ってもらえると思うんだけど。



「って、えっ!? 僕って食べられちゃうの!?」


「た、食べさせませんよ!?…………わ、わた、私が!」


「そ、そう?」




「は、はい……やくそ、くしますっ」



 お互いに真っ赤になってしまった僕たちに小野寺さんは次の授業が始まるまで、ずっと笑い転げていた。

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