ここから始まるもの



「うっ、……なんか変じゃない?」


「ん、そうですか……関口くんがそう言うならそうだと……思います、よ」


 ポツリと出た言葉は弱々しく、とても小さい声だったけれども早苗さんには聞こえてたみたいで辺りを警戒しながらも返してくれる。


「シャーーッ」


 マモくんは、今にも早苗さんの肩から飛び出してしまいそうなほど警戒している。


 玄関口から警戒しながら歩いてきたけれども特に廊下の奥から嫌な気配が漂ってくるのを感じる。

 

「きっと、この廊下の奥からだ」


「――わかり、ました」


 ゾワゾワとする寒気が背筋へ、そして体全体へと広がっていく……が暖かいモノに包まれた。柔らかいマシュマロみたいな感触が頭にダイレクトに響いてくる。



 小野寺さんが僕に抱きついてきた。


「おのの〜でらさん!! 近いって、近いよ」


「おっととと、私は避難した方が良さそうみたいだね〜。で関口はどうする? 早苗さんよっ」


 絶対にわざとだと思うけど。わざとらしく僕から離れた小野寺さんは、ニコニコと笑い早苗さんに問いかける。


「……や………り」


「おーい、早苗さん? だいじょーぶ?」



 なんかブツブツ言ってる早苗さんだったけど、小野寺さんが顔を覗き込んだことによってこちら側に戻ってきた。


「ハッ――!? あのえっと、関口くんは、わた、しと一緒に! ぅぅ、来てくださいね!!」


「うん、もちろん。ついてくよ」



 ここでウインクとかできたら、早苗さんもイチコロだったんだろうなーなんて見当違いなことが頭に浮かんできた。

 情けなく震えている僕とは違い、早苗さんは堂々としている。








 ――ここから始まるのが戦いなんだとしたら、僕はこの物語の主人公になれるのだろうか。





「じゃあ私は他の子達を避難させるから、後はよろしくね」


 そう言いながら小野寺さんは、周りに声をかけ始める。



「進みましょう、関口くん」


「うん。そうだね」


「…………あの」


「どうしたの?」


 早苗さんは困った表情を見せ、僕の制服の裾を掴んでこう言った。




「ツノを出すので、驚か、ないでくださいっ……ね? き、傷ついちゃう……から」


「――っ。大丈夫だよ、怖いなんて思うもんか。僕が出来ることなんてないけど……こ、ここにいてもいいのかな?」


 勢いよく喋っていると、ここにいていいのだろうかという不安がむくむくと出てくる。

 いるだけ邪魔じゃないか!!


「見て、いてください。これが私たち、の……部活の活動です」


「うん!」


「慣れ、てきたら、関口くんも……やるっ、んですからね?」


「――え?」




 ん? なんか今、理解できない言葉が聞こえた気がするんだけども。



「ごめん。早苗さんもういっか――「早苗さんって拳で戦うタイプじゃなかったよね〜。はーい、これッ!!」


 声が聞こえた後、長い棒状のものが僕に向かって飛んできていた。


 早苗さんが素早い動きで僕を守るように前へでる。

 そしてブォンと遠くから投げられたものを早苗さんは、なんともないように両手で掴んだ。


「これは……」


 早苗さんの目が大きく開く。

 彼女が驚くのも無理はない。



 ――だってそれは普通の掃除で使うモップだったから。




「ありがとうございます!! 小野寺さんッ」


 僕にはどこにいるのか見えないけど、

 でも多分早苗さんの視線の先にいるんだとは思う。




 僕が早苗さんの方を見たときには、おでこにツノが生えていた。


「関口くん、行きますよ」


 早苗さんの声が僕たち以外、誰もいない廊下に響いた。

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