ドキドキ通学路


「すごい」


 僕の口からは、たった三文字。その言葉が思わず出てしまう。


 僕は今、学園に向かっている最中なのだけれども、目の前には信じられない光景が浮かんでいる。


 先輩から貰ったネックレスを首から下げているおかげか、黒いモヤモヤが僕を避けていくのだ。それも凄い勢いで。あの昨日の黒いモヤモヤが……だ!



「ぁ、あっ。あの」


「すごいなー、うわっ! えと」


 突然声をかけられ、キョロキョロと辺りを見渡すが、僕に声をかけた人物が見当たらない。


「ニャーン」


 ね、猫だ。猫の声が上からする!! と真上を向くと大きな木。空を覆い隠しそうなほどの葉っぱにポカンとしてると、「あのー」とまた声がした。



「さ、早苗さん。何してんの?」


 僕の疑問は正しいと思う。早苗さんは、恥ずかしいですっ! と言わんばかりに小さく手を振る。


 早苗さんは木の枝に器用に座っていて、僕が助けた黒猫(可愛い)が何食わぬ顔で早苗さんの隣にいる。


「……何してるの」


「見張りです。何かあったら、そのいけないと思って」


「えーと」



 羽が生えたみたいな軽やかさで、かなりの高さから着地をした早苗さんは、ふわりと微笑み僕に向かって言った。


「関口くんにっ、何かあったら、ダメ……なので」


「そっか、えっとありがと」


「……っ! いえ、それほどでも」



 いきなり人間離れしたものを見せられ、僕の心臓は違う意味で高鳴り始める。どうせならキュンキュンとしたシュチュエーションで高鳴りたかった。



「行きましょう、関口くん」



 でもそう言いながら、周りを警戒してくれている早苗さんはイケメンだった。


 そんな早苗さんを見てたら、細かいことなんて正直どうでもよくなってきてしまった。





 *****



「ん、そのっ、ネックレスって誰から貰ったんで、ですか?」


「これ? 神宮寺先輩からだよ。弱い奴らは逃げてくらしいよ」


「…………………そうですか」



 何、その間は。と突っ込むことはできなかった。


 なぜなら早苗さんからチラリと見えた瞳は、明らかに笑ってなどいなかったから。



「今日は部活があるんです。……ぇ、う。だ、だから関口くんも絶対に来てください……ね?」


「うん、もちろん。神宮寺先輩からも、しっかりと説明受けないと納得できないからね」


「………………そうですか」


 だから怖いって!! その感情全部捨てましたみたいな「そうですか」は。



「まぁ、実際見たほうが早いですよ」





「あれ〜? 関口と早苗さんじゃ〜ん」


 僕らを呼ぶ声が聞こえ、振り向くと手を大きく振る小野寺さんがいた。


「もももももしかしてデートってやつ〜?」



 小野寺さんが僕らの行く手を阻む。小野寺さんを認識した早苗さんは、またいつものようなオドオドとした早苗さんになってしまう。制服のスカートの裾を両手でキュッと掴んでいるのが、なんか可愛い。



「ぇ、ぁ」


「あー、世間話的な。たまたま一緒になっただけだよ。デートとか早苗さんに失礼だと思うよ」



 あれ? 神宮寺先輩の話が正しければ、小野寺さんも妖、またはハーフなんだよね?


 思わず不思議に思い、小野寺さんの顔をまじまじと見ていると、早苗さんが忌々しそうにポツリと言った。


「…………女狐」

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