冗談に決まってる

「もう入ってもいいわね?」


 そう言って勢いよくドアを開けたのは、マミ先輩だった。飛び込んできたので、二つの三つ編みとおっぱいが揺れる揺れる。


 そんなマミ先輩を呆れたように見つめるのは神宮寺先輩で、マミ先輩の突進に顔をしかめていた。



「盗み聞きか、いい加減にしろ。俺はそういう奴が一番嫌いだが」


「ちが、違うわッ! 空気をよんだのよ……空気を」


「へー、マミ先輩は空気をよめる妖なんですねー」


 わりと素直に感心して発言したのに、マミ先輩はあたふたとしている。ダブルの攻撃に泣きそうなほど(ちょっと可哀想)オロオロする先輩は、早苗さんの方を助けを求めるかのように視線を投げかけていたんだ。


 助けを受けて、早苗さんはパクパクと口を閉じたり開いたりしていたけど何か思いついたのか、ポツリと言葉を紡いだ。


「……ぁぅ。そ、その」


「さぁ! 早苗さん〜、どーんと言っちゃってよ」




「ほ、本当に空気読んだんです。先輩は……ぁぅ」


「ヒッーー、あの。えっと」


 あまりにも突拍子のない早苗さんの言い訳に、引きつりながらも笑顔だった先輩が、ガチで焦った表情を見せ始める。



「へーー新しい能力でも目覚めたのか。それは特訓しなくてはいけないな」


 マミ先輩が凄い顔をした。変顔というやつだ! 目をガッと開いてアワアワと手をあっちこっちに動かしている。


 なんでそんな反応してるんだろ? 嘘なのは明らかなのに。



「え、待って! 違うの、嘘なの。ごめんなさい。盗み聞きしてました」


「ご、ごめ……なさい。私も、です」



 神宮寺先輩がはぁとため息をつくと、空気が和らいだ気がする。



「わかってるに決まってるだろう。許す、次はないぞ」


「「ありがとうございます」」




 *****




「おっともうこんな時間か。すまないなこんな遅くまで」


 時計を見ると七時半だった。そこまで遅い時間じゃないと僕は思うんだけど。


「え!! 門限は七時なのに、大変よ」


「事情が事情だからな、許してもらえるだろう。ほらお前達、行くぞ」


「……は、い」


「ええ! あっ、関口くん! 詳しくは部活でしっかりと話させてもらうわ。実際に見てもらった方がいいと思うし」





 あんなに騒がしかったのに、今は僕の呼吸の音だけしか聞こえない。


 なんか、少し寂しいな。


 寮ってどんな感じなんだろう? 岡村とかと同室だったら、毎日騒がしそうだな。きっと僕が考えてる何倍も楽しいんだと思う。



「ぼ、くも…………はぁああ〜。ダメだ説得なんて出来ないよ! 絶対無理だ」



 あの親はきっと、いいよなんて言ってくれないだろう。想像だけはつく。


「はぁ、お風呂入ろ」


 僕は普通に立ち上がった。コロンと音がして朝、掃除したばっかの床を見渡す。落ちたのはネックレスだった。


「忘れ物かなぁ」


 女性でも男性でもつけていそうなシンプルなネックレス。あの人達の誰かが、持っていたとしても不思議じゃない。


 ピコンッ。



 僕のスマホのlimeの音が鳴った。limeとは友達と話したり、テレビ電話ができたりする無料アプリだ。


 すぐに画面を開くと、神宮寺先輩からメッセージがきていた。



 神宮寺先輩『そのネックレスを漬けて明日濃い。よわうやつらなら酔ってこない』



 多分、『そのネックレスを付けて明日来い。弱いやつらなら寄ってこない』みたいな風に打ちたかったに違いない。


 でもなんとなく意味は通じる。


 ものすごい誤字だ。そう神宮寺先輩は、機械音痴でめちゃくちゃ文字を打つのが苦手なんだ。


 出会った時よりはだいぶ良くなってはいるんだけど、やっぱり急にメッセージがくると身構えてしまう。




『わかりました』っと。よし、お風呂入ろう!

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