時止めの花
春風月葉
時止めの花
湿った独特の冷たい空気にここがあの人のいる場所からは遠い、私のいる場所なのだと実感する。
並んだ墓標の一つには見知った名前が書かれている。
事故による突然の別れだった。
私はいつまでここに留まっていられるのだろうか。
毎年、この墓標には四月の十八日に決まってスターチスの花が添えられる。
この墓標に眠る私の生まれた日なのだ。
あの人は毎年その日にこの場所を訪ねてくれる。
本当は私の方から彼のいるところまで行きたいのだけれど、私はこの場所を離れられないから。
毎年、あの人に会うことだけが冷たい墓標の中で眠るだけの私にとっての生き甲斐だった。
でもそれももう終わりだ。
もう随分と前から魂が肉体を離れようとしている。
ここに留まってはいられない。
成仏というやつだ。
未練がないわけではないけれど、いつまでもあの人を私で縛ることはできないし、あの人はもう何年も私に尽くしてくれた。
大丈夫、私はきっと忘れない。
添えられたスターチスの花が思い出させてくれる。
たとえ肉体が朽ち果てても、この魂が遠く離れても、この心は変わらずにあの人のものだから。
何年先になっても、それが来世であっても、必ず私はまたあの人を愛するのだ。
さよならとは言わない。
また会えるから。
私は長い長いあの人との日々の夢を見る。
おやすみ、愛しい人。
時止めの花 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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