終幕「続いていく夜」

 クリスマスをひかえた12月20日。通りに飾られたネオンの電気も消える中、入舸は長い耳を持つ少女のような人影と相対していた。


「なんれすかお前は。なんれわたす達の邪魔をするれすか」

 舌ったらずの言葉。ウサギに酷似こくじした容姿も相まって悪しき存在には見えない。その足元に無残にのどを裂かれ、絶命している若い男女のカップルを見なければ、入舸はひるんでいたかも知れない。


『いい加減慣れなさい。坊やは正義の味方じゃないし、私たち霊界人も、正義をつかさどる神様なんかじゃないってね。要はただのビジネスよ』

『分かってるよ、うるさいな』


 突然現れて、こちらの行く手をふさいだまま微動びどうだにしない不気味な男に、少年とも少女ともいえないウサギのようなソウル・ケージはしびれを切らす。

 喰えるかどうかは分からないが、とりあえず殺してから考えよう。長い牙はそのためにあり、この牙を逃れた者はいないのだから。そう楽観視して入舸におどりり掛かったソウル・ケージは腹を貫かれていた。


「な……なんれす、これ?」

 ごぽりと口から血があふれる。理解が現状に追いつかない。

「お前は……なんなんれす?」

 フード付きの拳法着、そのフードの下からのぞ髑髏どくろしたマスクの双眸そうぼうが鈍く光る。

「死神だ」



 夜が終わり朝を迎える。朝に生を得て、夜に死を送る。

 繰り返し繰り返し続いていくだろう、繰り返し繰り返し続けていくだろう。

 いつか本当の夜を迎えるまで、僕はこの偽りの夜を続けていく。


沖波入舸十六歳。職業――死神。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る