第2話 孤独な少女
カーペットの独特な感触を感じながら階段を最後まで降りきると、小さな部屋に着いた。
赤を基調とした壁と絨毯。家具は小さなテーブルと2脚の椅子のみ。それが今使った階段の左手にあり、右手には扉が一つあるだけだ。正面には、また降りるための階段があるので、下層に行くのは簡単そうだ。先ほどの開けた場所とは違い空気がよどみ、不気味な雰囲気だ。あかりとして壁についている蝋燭の隣にかけてある絵が、より一層雰囲気を醸し出している。絵は、人物画で金髪の女の子が一人椅子に腰かけ、笑顔を向けていた。
「ん?この絵は君か?」
少女は部屋にある机を眺めていたが、俺の言葉に反応して絵を眺めた。
「本当だわ。これ、私の家に飾ってあった肖像画よ。なぜこんなところに・・・」
「そういえば、現世と天国の間の階層は、人によって景色が違うと聞いたことがある。」
「そうなの・・・なら、これが私に与えられた景色なのね。」
「そのようだな。」
少女は、この部屋に一つだけある扉に目をやった。
「あの扉、見覚えがあるわ。」
「そうなのか。どこの扉なんだ?」
「開ければわかるわ。」
「行くのか?」
「もしかしてお兄ちゃんがいるかもしれない。」
「・・・否定はできないな。」
扉の先にはまた部屋があり、寝室のようだった。置いてある人形などを見ると、子供部屋だろうか?
「私の部屋ね。」
少女は迷うことなく進み、奥にあった扉を開き中に消えていった。
俺は部屋の中央にある暖炉の前に着くと、暖炉の中を覗いてみた。特に何もなく下に灰が溜まっているだけで普通の暖炉だった。
「何をしているの?」
いつの間にか戻ってきた少女が、俺に不思議そうに見て問いかけた。
「何か仕掛けがあるかと思ってな。何もなかった。」
「それはそうよ。ただの暖炉だもの。でも、子供のころは怖かったわね。その暗闇から何か恐ろしい化け物が出るんじゃないかって・・・ふふっ。」
少女は暖炉から目線を外すと部屋を眺めた。
「私、家が嫌いだったの。お父様はあまり帰ってこないし、お母様はいないしで・・・独りぼっちで、この広い家にいるが本当に嫌だった。」
少女の部屋は、どこかの貴族の屋敷の一室といった様子だった。この部屋だけでも十分な広さだ。人間時代の時泊まった宿の部屋2つ分の広さがある。いや、まだ奥に部屋があるようだから3つ分だろうか?
「でも、帰ってきたという感じがするわ。いくら嫌がってもここは私の部屋なのね。」
「奥の部屋は何だったんだ?」
「お手洗いよ。誰もいなかったわ。」
「そうか。なら、もう行くか?」
少女がうなずいたので、出口へと向かった。少女はもう一度ゆっくりと部屋を眺めて、俺の後に続いた。
下の階層への階段を降りる前に、少女が足を止めたので立ち止まった。
少女は自分の肖像画の方に目を向けてつぶやいた。
「私、愛されてなかったわけではないの。あの肖像画だって、お父様が遠出するときに毎回持って行ってたわ。そのために描かれたものだしね。」
「そうか。それは良かったな。」
「えぇ。でも、私が死んでお父様は大丈夫だったのかしら。お父様自身や、お兄ちゃんを責めていなければいいけど。」
少女が階段を降り始めたので俺も続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます