第3話 出会った少女
降りた先は先ほどの部屋と同じ大きさの森で、家具はもちろんないが、扉が一つあることや下層へ行く階段があることに変わりはなかった。
森のせいか、先ほどと違い空気が澄んでいる。
「また、ずいぶんと雰囲気が変わるものだな。」
「そうね。ねぇ、天使さまにはご両親はいるの?」
「親か。俺は捨て子だったからな。親代わりはいたが・・・」
「天使さまが捨て子!?天国に子供を捨てるような人がいるの!?」
「あぁ、違う違う。俺は元は人間だったんだ。捨て子っていうのは人間の時の話だ。」
「そう。天使さまって元人間がなるのね。」
「すべての天使が、そういうわけではないがな。元々天使として生まれるものもいる。俺の同僚もそうだ。そこらへんは詳しくないから知らないが、人間と同じように生まれるわけではないようだぞ。」
「へぇ。」
少女は面白そうに俺の話を聞いて続きを促してきたが、俺は話を切り上げた。
「先に進もう。帰りが遅くなるのも、あまりよくはない。」
「それもそうね。ごめんなさい、付き合わせてしまって。」
「かまわない。」
少女はお礼を言うと、近くにあった扉を開けて先に進んだ。
扉の先には広いが、森というには木が少ない場所だった。なんだろうここは?
「懐かしい。この公園でお兄ちゃんと出会ったの。」
「コウエン?」
コウエンとは何だろうか?少女に聞こうかと思ったが、さっさと奥にある建物の中に消えてしまったので聞けなかった。
俺が死んだときからだいぶ時が過ぎた。「コウエン」というのは俺の死後にできた言葉なのだろう。
そういえば、俺の名付け親は元気・・・いや、ゾンビに元気というのはおかしいだろう。血の気のない顔色に、皮膚がはがれてむき出しになった肉。痛々しい見た目だったが痛みは感じないのか、いつもにこにこしていたな。
「今でも笑って過ごしていて欲しいものだ。」
コウエンのベンチに腰を下ろして待っていると、少女が戻ってきた。
「いなかったわ。」
「そうか。なら下に行くか。」
「・・・ここならいるかもしれないって・・・思ったのに。」
「出会った場所だと言っていたな。」
「えぇ。ちょうどあなたが腰を下ろしているところに、お兄ちゃんがいたの。私はそこの花畑でお花を摘んでいたわ。」
視線の先には花が密集していた。確かに小さな花畑のようだ。
「お父様に花束を作るために、花を摘んでいたの。」
「親思いなんだな。」
「当然よ。」
少女は花畑に近づくと、ひとつ白い花を摘んだ。
「私は花を摘み終わって帰ろうと歩いていたら、そこの小石に躓いて転んでしまったの。それをお兄ちゃんに見られて、とても恥ずかしかったわ。」
転んだところを見られるというのは、かなり恥ずかしい。仕方のないことだとわかっていてもだ。
「お兄ちゃんは、すぐに私の下に駆け寄って介抱してくれた。家に送るとまで言ってくれたけど、初対面だったし怖くて断ったわ。でも、それがきっかけで、ここに来ると声をかけられて、いつしか一緒に遊ぶ仲になったの。まぁ、遊んでもらっていたのよね私。」
照れくさそうに笑った少女は、自分の両手で自分のほほをたたいた。本気ではもちろんなかったので、ぺちんっという軽い音が鳴った。
「何を!?」
「行きましょう!こうしてはいられないわっ。早く会いたいもの。」
どうやら気合を入れ直したようだとわかり安心し、立ち上がった。そこでふと足を止める。
「お兄ちゃんとは、本当の兄のことではなかったのだな。」
「えぇ。そういえば言ってなかったわね。私には兄弟はいないし、母も・・・家族は父親だけよ。」
「・・・そうか。なら・・・いや、何でもない。」
「?」
お兄ちゃんと呼ばれる男が家族でないのなら、少女にとって何なのだ?浮かんだ疑問をなぜか口にすることができなかった。
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