青の追憶( 2 )

 家族、友人、そして日常の全てが私を不幸にする、と気づいたのは最近のことだ。どうせこのまま生きていても良いことなんか起きない、そう漠然と思い至った時に、もう終わりにしよう、と思った。──しかし、最期くらいは苦しまずに、眠るように旅立ちたい。そう考えると、自ずと選択肢は絞られた。


 スマートフォンを手に取り、


「一緒に服毒自殺しましょう。毒を用意してくれる方を探しています」


 と、SNSに書き込んだ。


 正直、こんな呟きを気に留めるような物好きなんてそうそういないと思っていた。しかし、その日のうちに”Blue”というアカウントからメッセージが送られてきた。


「一緒に死にたいです。毒はご用意できます。一人暮らしなので、場所もご提供できます。△△辺りです。いかがでしょうか」


 △△は、自宅の最寄り駅から電車で僅か数十分で着く距離だった。私は、すぐに返信した。


「是非ご一緒させてください」



 ✳︎✳︎✳︎



 正直、怪しいおじさんが来るくらいの覚悟はしていた。”アサギリ”のプロフィールには年齢をそのまま記載していたし、”Blue”の素性は全くわからなかったからだ。しかし、目の前に現れたのは想像していたそれとは全く正反対の──美少女であった。


 美少女、というたった漢字三文字で収まるものじゃない。今まで見たことがないような、絶世の美女。ハリウッド女優ですら、彼女と並んだら霞んでしまうだろう。


 美少女は言った。「初めまして、私は”Blue”です。貴方が“アサギリ’’さん?」

 見た目に引けを取らないくらいの、透き通った美しい声だった。


 私は返事をすることも忘れ、思わず見惚れてしまっていた。慌てて返事をする。


「そ、そうです、“アサギリ”です。は、はじめまして、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 そう言うと、美少女、こと“Blue”は微笑んだ。



 ✳︎✳︎✳︎



“Blue’’の自宅はここから徒歩で数十分の所にあるらしい。天候も良いので、のんびりと歩いて行くことにした。緊張しながらも話していると、いくつか気づいたことがあった。まず、よく見ると彼女の外見はとても特徴的だ。


 服装は、どこかの学校の制服だろうか。セーラー服を身にまとっている。しかし、あまり見かけない特徴的なデザインだ。ぱっと見、お金持ちの人たちが通うお嬢様学校の制服、といった感じ。

 髪は、艶めくような黒色で、顎のあたりで綺麗に切りそろえられている。ボブヘア、と言っただろうか。風になびく度、髪の毛一本一本が光り輝いているような錯覚すら覚える。


 そして、彼女の外見の中でなによりも特徴的な部分は、──真っ青な瞳。今日の空と同じように、少し見つめるだけで吸い込まれてしまいそうだ。彼女の真っ白な肌に、青い大きな瞳がよく映える。まるで宝石。


 聞くと、遠い親戚にヨーロッパ系の人がいる、とのことだった。そう聞くと、透き通るような白い肌も納得がいった。


 しかし、こんな綺麗な人が死にたいと考えるなんて、何かの冗談だろうか。私と違って、人生が、微笑んでいるだけでうまく行きそうな見た目をしている。まあ、人には人の事情があるのだろう。


「同じ高校二年生って知って、思わず連絡してしまったの。ご迷惑じゃなかったかしら」


「い、いえ、全然。同じ学年なんですね、う、嬉しい、です」


 同じ学年と言われると、こちらが恥ずかしくなってしまう。どう見ても、私なんかと一緒にいて良い人種じゃない。


「敬語なんか使わなくて良いのよ。そうだ、自己紹介しましょう。私の名前は、小鳥遊タカナシ アオイ。アオイ、でいいわ」


「わ、私は、あ、朝霧アサギリ 千歳チトセ……」


 彼女は花が咲くように微笑む。


「よろしくね、チトセ」

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