第12話 触手、賄賂を渡す

「おう、邪魔をするぜ」


 淀屋の店内に若い侍が入ってきた。


「ここの店の近辺に裸の女がうろついていると聞いたんだが?」


「触手袖の下!」


 クイックムーバーは店に入って来た侍の着物の袖に触手をシュイ、と入れた。


「らめえええええ!!袖の下に触手を入れちゃらめえええええええ!!!」


 クイックムーバーは触手を抜いた。


「弥次郎君。これがかの有名な袖の下という奴だよ。袖の下というのは他の人に見られないように金銭を服の中にこっそり渡す行為の事を言うんだ。似た用語に黄金の菓子というのがあるよ。お菓子の箱を二重底にして、下に現金。つまり中世なら金貨の類を入れておくんだ」


「そうか。説明は正しいはずなのにお前のやってる行為は間違ってるようにしか思えないのはなぜだろう?」


「この侍は同心と言って、江戸時代の警察官なんだ。つまり役人の一種なんだけど江戸の町人の多くは同心に僅かばかりの現金を渡して色んな便宜を図ってもらおうとするんだ。一人一人の金額は小さくて毎日貰えるわけじゃない。でも、仮に同心一人が江戸の町に住む町人百人から一週間ごとに銅銭一文貰ったとして一年三百六十五日でどれくらいの金額になると思う?」


「けっこうな金額になりそうだな」


「だからこの同心というのはかなりのお金持ちなんだ。もちろん現代の警察官は賄賂を受け取るのが法律で禁止されてるからこういうことはご法度だよ。でもここは江戸時代だから袖の下ができるんだ。袖の下をすると大概の事はできるようになるよ。触手袖の下!!」


「んほおおおお!!大概のことおおわああきいちゃあうのおおお!!!」


「と、いう事で店に入るまでアマテラスが下着で歩いていたことはうやむやになったから買い物を続けようか」


「そうか。同心さんには済まないことをしたな」


 


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