第9話
最寄り駅に到着。
時刻は4時頃か。
私は、ギターを担いで帰路についた。
すると、公園に見慣れた背中があった。
「玲央さーん」
「ん、ああ、芋洗さんか」
どことなく元気がない様子で、玲央さんは答えた。
「どうしたんだべ、ブランコなんかさ座って」
大人がブランコを漕いでる時は、大抵、何かあった時だ。
「デビューのチャンス、逃しちまってさ。 まあ、俺の力でじゃねーんだけど」
「……よーく分かるよ。 私も今日、似たようなこと、あったべさ」
私ら2人は、黙ってブランコを漕いだ。
キイ、キイ、という音が夕方の空に響く。
「私、田舎に帰ろっかなって、思ってんです」
「田舎って、どこ?」
「青森」
青森の山奥にある村に、私の実家はある。
読んで字のごとく、私は芋を洗って、狸の住む里で暮らすことになる。
玲央さんは、遠い目をして、答えた。
「夢見会館、俺、不動産でこの名前見かけてさ。 すぐ入ろうって思ったんだ。 何か、夢、叶いそうな名前じゃんか」
私も、そうだ。
ここに入ってすぐ、私は夢と希望に溢れていた。
「でも、現実はしょっぺえ。 明日から、ハローワークで職探しだよ」
よっ、と地面に降り立つと、玲央さんはそんなことを口にした。
生々しいセリフだ。
ハローワーク、職探し。
夢もへったくれもない。
「……帰ろうぜ」
「そだな」
ほんの少しの間だったけど、夢を見させてくれてありがとう。
でもその分、現実の重苦しさが肩にのしかかってくるようにも感じた。
アパートに到着すると、様子がおかしかった。
101号室の前に、山猫さんと、骨塚さんが立っている。
「あ、芋洗さん。 森林さんは、そろそろ帰ってこられる時間ですよね?」
山猫さんに聞かれ、私は答えた。
「遅くても、4時には帰って来ると思いますよ」
部活もしてないし、今日はバイトも休みのハズだ。
「連絡さ、取ってみます?」
「お願いします」
私は携帯を取り出し、めぐっちに連絡をかけた。
数回のコールの後、めぐっちが出た。
「たぬ子、どしたの」
「今、どこさいるべ? 山猫さんが探してるよ」
「今喫茶店だけど…… 山猫さん、私に何のよう?」
すると、骨塚さんが私の携帯をむしり取った。
「どこの喫茶店や! ……今、お前一人か?」
「骨塚さん? 駅前の喫茶店で、トーマスさんといますけど……」
「そこ、動くなや!」
骨塚さんは、慌てた様子で突然、走り出した。
「めぐっちは、どこさいるんですか?」
「駅前のファンキー・コーヒーや! トーマスの奴とおるらしい」
トーマスさん。
本名はトーマス・バゼルギウス。
確か、俳優志望で、201号室に住んでたハズだ。
私は、骨塚さんと山猫さんの後を追った。
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