第5話
扉をバタン、と閉める。
頭が真っ白だ。
まさか、家賃を滞納したことで、このアパートが取り潰されることになるかも知れないなんて……
とにかく、どこかから借金してでも、三万五千円を捻出しなくちゃいけない。
つか、昨日まで金はあったんだ。
俺は頭を掻きむしりながら、吠えた。
「こんな未来になるなんて分かってたら、叙々〇で奢ったりしてねーよ!」
ハッ、とした。
未来……
俺は、テーブルの上に置かれている、ハリーポーターの本に目をやった。
山猫さんから借りた、謎の本。
発行日が2001年になっていて、まるで、未来の本屋から取り寄せたかのような本だ。
元々は外国の文学らしく、翻訳を介しているため、文章にも癖がある。
だが、面白い。
この本の内容をパクれば、出版社の目に留まるかも知れない。
「っし、やってみっか」
いてもたってもいられず、ノートパソコンの前にあぐらをかく。
ワードを起動して、執筆にとりかかろうとした時、すぐに気づいた。
「……一日じゃ、ぜってー無理だよな」
いくらパクリっつったって、文章を打つだけでも、一日じゃきつい。
ダメだ!
俺は、本を傍らに持ち、サンダルを履いてコンビニへとダッシュした。
プリンターに500円を突っ込み、俺はハリーポーターの内容を全てコピーする手に出た。
この仕上がった装飾の本を持ち込むことはできないだろう。
コピーだけなら、午前中あれば、どうにかなるはずだ。
後は、この本を見てくれる出版社を探す。
普通、デビューまでは新人賞を得てから、みたいな流れが一般的だが、今回そんな悠長なことは言ってられない。
この本で直接契約までこぎつけて、契約金三万五千円を提示し、手に入れる。
一時間ほど経過して、プリンターの紙を補充するサインが出た。
「ちっ」
「お客様」
声をかけられ、振り向くと、店員と思しき男が立っていた。
名札に、店長、と書いてある。
「申訳ございませんが、プリンターを独占されるのは、他のお客様のご迷惑になりますので……」
「もうちょっとだからさ。 紙、補充してくんないっすか?」
「……」
クソッ。
店長は俺の目を見たまま動かない。
紙、補充する気もねーらしい。
時間が惜しい。
俺は、コピーした用紙と、本を持ってその店を後にした。
「はあっ、はあっ…… 駅前まで行きゃあ、ファミマがある」
俺は駆け足で駅前のファミマに向かった。
ところが、今度はいかにも機械音痴っぽいおばあちゃんが、コピー機を独占していた。
「えーと、お金はどこに入れるのかしら」
「そこの脇のやつっすよ」
じれったくなり、俺は金を入れる細長い機械を指さした。
「あー、これね。 ありがとねぇ」
礼はいいから、さっさとコピーしろって。
だが、ばあさんは、どのボタンを押したらいいんだい、とか、コピーしたいページをどうしたらいいのか、とか、めちゃもたつく。
しかも、手には分厚い料理本みたいなのを持っている。
俺は、恐る恐る聞いた。
「何ページコピーする気っすか?」
「これ、図書館から借りてきて、返さないといけないのよ。 だから、全部コピーしようと思って」
ふざけんなっ!
俺は、コンビニから抜け出した。
他のコンビニを探すか。
いや、それより、図書館に行くのがいいかも知れない。
図書館ならコピー機があるし、何よりネットが使えたハズだ。
そこで、出版社を検索して、コピーしてる間に、電話をかけまくって持ち込みオッケーな所を探せばいい。
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