第4話

早朝、ベランダのサボテンに水 (栄養剤入り)をやっていると、こんな時期だというのに、黒いスーツを身に纏った男が、通りを歩いて来るのが見えました。




「……オーナー様がおいでになられたか」




 彼は、このアパートのオーナーの黒闇さん。


いわば、所有者です。


今日は、例の件でおいでになられたのでしょう。


 しばらくして、私の部屋のチャイムがなりました。


じょうろをベランダの床に置いて、ドアへと急ぎます。




「黒闇様、おはようございます」




「ああ。 それより、家賃の方は集まっているか?」




 毎月この日に、先月分の家賃を黒闇様に支払う決まりになっておりますが、まだ支払っていない住民の方がおられます。




「102号室の令央さん、103号室の芋洗さんがまだ未納です」




 彼らはいつものことで、ちゃんと仕送りを貰っているのにも関わらず、遊びで浪費してしまうクセがあるみたいです。


黒闇様も、その2人に関しては十分理解されている、そう思っておりました。


ところが、




「今から24時間以内に、家賃を納めることが出来ないのなら、このアパートをとりつぶす」




 私は、耳を疑いました。




「……えっ」




「最近、とある建設会社がこの土地を欲しがっていてな。 破格の条件を突きつけられた。 すぐにでも売却したい所だが、私の独断でそれをやれば、ここに住む者の反発は免れまい。 だが、相手にも落ち度があるとなれば、話は変わってくる」




 家賃をまともに支払えないのであれば、アパートをとり潰す。


いささか、強引にも思えますが……




「……今日中に、家賃を支払えれば、問題はないかと」




「できるならな」




 フン、と鼻で笑った後、黒闇様は部屋を出て行かれました。


今日中に家賃を集める、と豪語したものの……


私は、一旦102、103号室を尋ねることにしました。












「令央さん、いますかー?」




 チャイムを鳴らしても、反応がありません。


まだ眠っているのかな? そんな風に考えていると、扉が開きました。


寝間着にボサボサの頭。


眠っている所を無理矢理起こしてしまったみたいです。




「……こんな時間に、何すか」




 私は、先ほどの件について、説明しました。




「マジ!? 金、ねーよ」




 ねーよ、と言われましても。




「ご両親に相談されてみては?」




「無理だって! 仕送り止めるって話も出てんだ。 山猫さん、立て替えといてくんね?」




「それはできません」




「……だよな。 俺だって、他人の家賃なんて払いたくねーし。 分かったよ、何とかする」




 令央さんは、そのまま部屋へと戻って行きました。


次は、芋洗さんですね。

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