2 『もう日常には戻れない』

しかし、1週間か……




今朝、突然俺の部屋に現れ異世界転移までよ猶予期間を設けられた俺は普段通り登校していた。




だが1つだけ非日常要素がある。




――そう。俺の隣には一目見れば目を奪われ振り返ってしまうほどの超絶美女がいる。と、言ってもまだ俺はこの人のことは殆ど知らない。知っていることと言えば、彼女は異世界人ということ位だろうか。




ふと、隣を我が物顔で歩くこの美女をみて思う。






「なぁ、お前なんで人間を貫通してんだ?」




そもそもただでさえ人通りの多い通学路を人にぶつからず歩くなんて不可能な筈だ。




しかし俺のとなりのこの女は、呆れたような顔で




「何言ってんの?私、異世界人って言ったでしょ!この世界の人達にぶつかったりする訳ないじゃん、寧ろ姿も見えてないからね!」




と、さも当たり前のように俺に言った。すると、




「――今、説明したので分かってくれると嬉しいんだけど君は話し相手が居ない筈なのにあたかも会話ながら歩いている危ない人だからね?」




「何その衝撃発言!」




と、突発的に叫びそうになったがこれをしてしまうといよいよ本当に危ない人だ。


もう家までこの人と話すのは辞めとこう。




そう心に決めもう目の前まで来ていた学校へと向かった――。






「おはよう一誠!」




教室に入ると基本毎日この顔を見ることになる。


小学後半から仲良くなり高校3年に至るまでの友人である柊だ。




「おはよう、柊」




俺は伊達に彼との付き合いが長い訳では無い。


彼のテンションが高く、何か良いことがあるのだろうと直ぐに推測できる。




「何かいい事でもあったのか?」




と、彼に尋ねると


よくぞ聞いてくれた!と、言わんばかりの笑みを見せ、




「今日、体育でバスケがあるだろ?」




「うん、続けて」




「一誠も知っての通り俺は人生の大半をバスケに捧げてきた。そして今日から授業でそのバスケをする。この意味が分かるか?」




「つまりお前は授業で俺達みたいなの一般人をボコボコにして楽しみたいと……お前そんな奴だったのか。」




「そんな訳ねーだろ!――女子いるじゃんよ……」




なるほど、女子に全く興味を持ってなかった柊が遂に成長したのか……


そう1人で勝手に納得しているとようやく担任が教室に入ってきた。




「皆おはよう!!体育が楽しみで堪らない柊君に1つお知らせだ、今日は隣のクラスの男子と試合だ!存分にその腕前を発揮するんだな!ハッハッハッ!」




そう朝から元気の塊のような先生に弄られ凹む柊を慰め席に着いた。そうして朝のSHRが始まった。




「――君って案外面白い生活送ってんじゃん」




俺の隣にずっとついている美女からの挑発ともとれる発言をグッと堪え無視した。






俺は1日のおよそ半日を学校に費やし、ようやく帰路についた。




「なんでずっと無視するのさ!」




SHRのとき無視してから暫くは大人しくしていた彼女は昼を回ったくらいから我慢の限界を迎えたのか授業中でも柊との会話中でもお構い無しにはなしかけてきていた。




――全く、TPOってもんを考えて欲しい……




と、心の中で深い溜息とともに愚痴を漏らした。


そして、彼女に向かって




「無視するのは当たり前だろ!お前の忠告を聞いて善処した次第だよ!そもそも名前も聞いてないし、俺はあんたの事は勝気で美人な異世界人としかしらないんだよ!」




そう、目の前に見事な仁王立ちで立ち塞がる彼女に俺のモヤモヤをぶちまけてやった。




「――。―――もしかして今美人って言った!?言ったよね!?もう1回!もう1回ちょうだい!」




本当になんなんだコイツは、会ってたった1日なのに好感度なんてもう欠片も残っていない。


しかし名前を知らないと呼ぼうにも呼べないし、俺に残る6日後にはどうなるのかはコイツに頼るしかないのだ。




「だーかーら!名前は何なんだって聞いてるんだよ!美人さんよ!」




「フフン!よくぞ言ってくれました!仕方がないので名前を教えて上げましょうかね。1度しか言わないからよーく聞くのよ?」




もう、あれだ……コイツ置いてさっさと家に帰って晩飯食ってゴロゴロしていたい。




「何でそんな面倒くさそうな顔をしてるのかは分からないけど、まぁいいわ!


私の名前はフラン!これからはフランと呼ぶといいわ!」




「フランか、分かった。一応よろしくだ。ちなみになんだが俺の名前は今日1日横にいたんだからわかるよな?」




「――。え?」




コイツ本当に置いて帰ってしまいたい。




「俺の名前は間宮一誠、一誠でいいからちゃんと覚えてくれよ!?」




そう告げると、ホーイ!と軽い返事をしたフランの声が横から聞こえる。




残りは後6日か……17年生きてきたこの世界ともお別れか。でももう立ち止まる事も出来ないし後戻りも出来ない。進むしかないのだ。




そう覚悟を固めようと拳を握った矢先、俺の眼前、何も無い場所つまづいたフランがこちらをそのエメラルドを嵌め込んだような翠の瞳で見ていた。




――。見てるだけだと本当に美人なんだけどな。




と、俺にしか聞こえない声で呟き彼女の手を取った。




――手を取った?

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異世界生活始めませんか? 観月透 @mizuki_tooru

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