俺様男子と昼休み

 昼休み。俺は屋上で千冬が来るのを待っていた。

 普段昼食は教室でとる事が多いけど、今日は特別。今日は二人で食べたいって千冬が言い出して、俺は『お願いしますと言えよ』と言った後に、それを承諾。二人きりになれる屋上まで足を運んだのである。


 少しの間フェンスにもたれ掛かっていると、購買部に行っていた千冬が姿を現す。手にはパンと、お弁当らしき包みを抱えた千冬は朝と同じように、小走りでこっちに駆けて来る様子を見て一言。


「遅い」


 今朝と同じ、冷たい言葉を投げかける。とたんに、千冬の足が止まった。そしてちょっと俯いた後、俺の機嫌を窺うように、恐る恐ると言った様子で顔を上げてくる。


「ごめん、購買部が混んでて」

「知らねーよそんなこと。お前が買ってくるって言いだしたのに遅れるし、言い訳するだなんて何考えてんだ?」

「……ごめん」

「何度も謝ってんじゃねーよ。『ごめん』って言えば、なんでも許してもらえるとか思ってるのか?そんなんだからお前はグズなんだよ」


 そうして俺は、千冬の持っていたパンを無理やり奪い取って、五百円玉を突き付ける。


「ええと、これは?」

「パン代だよ。当たり前な事聞いてんじゃねーよ」

「いいよ。遅くなっちゃったし普段お世話になってるんだもの。これくらいは……」


 中々受け取ろうとしない千冬を見て、「チッ」と舌打ちをする俺。

 千冬はまた眉を下げるけど、俺はそんな千冬に鋭い目を向ける。


「奢ってやるって言ってるのか?お前が俺に?気持ち悪いんだよ。良いからさっさと受け取れ。それとも、俺の言う事が聞けないのか?」

「き、聞きます聴きます。待って、今お釣りを……ああ、小銭が無い」

「本当にお前は……そんなもん後にしろよ。さっさと食うぞ」

「……うん」


 二人肩を並べて腰を下ろし、昼食を取り始める。千冬が手にしているのは、お手製のお弁当。だけどそれとは別に、弁当箱がもう一つ彼女の横に置かれていた。


「弁当二つって、お前どれだけ食うんだよ。何も考えない、ろくに動かないくせして、食い意地だけは張ってるんだな」

「ち、違うよ。これは……優くんに食べてもらおうと思って……」

「俺に?そう言えばさっきも、そんなことを言ってたっけ」


 最初昼食に誘われた時、俺の分の弁当もあるって言ってきた。けど俺はこう返したのだ。『お前の弁当なんて食べて、腹を壊したらどうする』って。結果千冬は二人分の弁当を用意していたにもかかわらず、俺の分のパンを買いに購買部へと走るハメになってしまっていたのだ。


「食い物で餌付けとか、考えが古いんだよ。生憎俺は、ちょっと飯もらったくらいで機嫌が良くなるような単純な奴じゃないんだよ。誰かさんと違ってな」

「そうだよね。けど別に、餌付けしたいわけじゃなくてね」

「また言い訳してんの?」


 何も言えなくなって、俯く千冬。そして俺のために用意したと言う弁当箱を、そそくさと片付け始めた。


「本当にごめんね、考え無しで。こっちは後で、生ゴミにとして捨てるから、機嫌治して」


 千冬の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。食べ物をゴミとして捨てるとか、お前は無駄な事しかしないんだな。一瞬そう言ってやろうかとも思ったけど、止めておいた。その代わり、今朝からずっと腹に溜まっていた想いが溢れ出す。


「……止めた」

「えっ?」


 千冬の表情が強張る。そして潤んだ目と震える声で、訴えるように俺を見る。


「そ、それは私があまりにダメダメだから、もう彼氏なんて止めるって事?そ、それだけは思い直して。優くんに見捨てられたら、私……」

「そういうの、もう良いから」


 俺は溜息を吐いて、千冬に向き合う。

 彼氏を止めるとか、そういうことを言いたいんじゃない。俺が……いや、僕がどうしても我慢ならないのは……


「もうこんな俺様系なイジワルキャラを演じるのを止めるって事だよ!」

「ええ―――っ⁉」


 千冬の可愛らしい悲鳴が屋上に響いた。

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