俺様系イジワル男子のススメ

無月弟(無月蒼)

俺様男子と登校風景

 朝七時五十分、俺は毎日の待ち合わせ場所である駅の前に立っていた。アイツは……千冬はまだ来ていない。

 しばらく待っていると道路の向こうに俺と同じ高校の制服を着た、ボブカットの髪をした可愛らしい女の子の姿が見えた。俺が視線を送ると向こうもそれに気づいたみたいで、足早にこっちに向かって駆けてくる。


「お待たせ、優くん」


 小柄な千冬は、見上げるように俺を見る。何が楽しいのか、笑みを浮かべながら。だけど俺は、そんな千冬に言い放つ。


「……遅い」

「えっ?」

「遅いって言ってるんだよ、このノロマ」

「ご、ごめん。でも待ち合わせはいつも八時だし……」


 スマホの時計を見ると、まだ八時まで五分ある。確かに千冬は遅刻したわけじゃ無い。むしろ早く来ている。けど……


「俺が先に来てるって考えなかったのか?普通お前の方が先に来て、待っておくべきべきじゃないのかよ?彼氏を待たせるとか、マジでありえねえんだけど」

「—―ッ!そ、そうだよね。ゴメン、これじゃあ彼女失格だよね」

「はあ?当たり前だろ。なに?わざわざ言って、同情を買おうとか思ってんの。お前、マジでウゼえよ」

「……ごめんなさい」


 眉を下げて、シュンと項垂れる千冬。だけど俺はそんな彼女にろくに目も向けずに、一歩を踏み出す。すると慌てたように、千冬もその後を追ってくる。


「遅れちゃって本当にごめん。鞄持つから」

「当たり前だろ。お前なんて荷物持ちにしか使えないんだから。なのになんでわざわざ言うわけ?恩着せがましいんだけど」

「そんなつもりじゃ……」

「もういいよ。お前なんかに持たせたら、どっかに落としちまいそうだ」


 そう言って俺は鞄を渡すことなく、ズカズカと歩いていく。


 千冬は俺と同じ学校に通うクラスメイトで、俺の彼女だ。

 彼氏の俺が言うのもなんだけど、こいつは少し……いや、かなり変わっている。怒られてるっていうのに、それをちっとも嫌だと思っていないはず。一見罵倒されて気落ちしているように見えても、心の中では笑みを浮かべているんだろうよ。俺はその事を、よくわかっている。

 俺はそんな、一歩後ろを歩く千冬に目を向ける。


「さっさと歩けよな、ノロマ。学校に遅刻したら、お前のせいだ」


 まだまだ時間はたっぷりあるのだけど、俺はわざときつい言い方をした。


「うん、ごめんね。けどありがとう」

「はあ?何がだよ」

「だって遅刻しないよう、気遣ってくれたんだもの」

「気遣う?俺がお前に?バカ言ってんじゃねーよ。つーかなにヘラヘラ笑ってるんだよ。怒られてるって、ちゃんとわかってるのか?ホント、マジわけ分かんねえ」


 そう吐き捨てきると、歩く速度を速める。歩幅の狭い千冬は少し早足になりながら、置いていかれないよう後をついて来るのだった。

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