第2話

この次男坊は、瞳あきらかにして

物事がはっきりと見えるように

「瞭」という名が付けられた。

確かに黒目のつやつやと綺麗な男ん子だった。

奥様の仰るには

「瞭は生まれた時に息をしとらんかった。

産婆が尻を思い切り叩いたら

ようやっと泣いてくれて、安堵した。

今も他の子より身体が弱いけん

外連れ出して遊ばせたってね」

そんなふうに頼まれたこともあったが

家んなかで本読んだり、絵を描いたりして

過ごすのが好いとんなったから

それはそれでいいと、うちは思ったものだ。



りょうさんが

初めてうちに絵を見せてくれた時のこと


鳥肌が立った。


なんて言えばいいだあか。

ともかく背筋が凍るような絵だった。

真っ黒に塗りつぶされた

人間みたいな形が描かれていた。

青白い顔をして、りょうさんが言った。


「これ、あげる。夜がくるまえに破って。

かならず焼いてほしい」


うちは、へんなこと言うなあと思った。

ひとにもらったもん破って焼く?

そんなことできんよと笑った。

どんな奇妙な絵でも、五つほどの坊が描いて

うちにくれると言う。嬉しいじゃあないか。

だから、その絵を自分の部屋の襖に貼ったんだ。


一番上の坊は、りょうさんの絵を

とんでもなく気味悪がって

「あいつ、やっぱりかわっちょるよ。

だけん、こんな絵かくんだ」

などと言うけん、ちょっこし話を聞いてみた。


近所の子供が何人か遊びに来たときのこと。

そのなかに拝み屋の家の娘がおって

その子をやたらと怖がったそうな。

火がついたみたいに泣きじゃくるんだけども

誰にもなんでだかわからんかった。


ある時は、なんもない道っ端でぎゃあぎゃあと

手を振り回し叫んで、畑に転がり落ちた。

またある夕刻などは、便所に行く途中の草むらで

倒れてたこともあったんだとか。

小便もらして気い失っとったらしいから

よっぽど怖いもんでも見たのかと

大人たちは首を捻っとったそうだ。

「ふうん」うちも首を捻った。

そん時のこと、奥様に聞いてみようか。


怖いもん見たさってえか、好奇心ってやつか。

なんだか無性に気になった。


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