とある女の夜語り
@ishida-takumi
第1話
さて、いよいよ夜も更けて参りましたんで
ここらでうちの若けぇ頃のお話しをばひとつ。
このへんで一番の地主さまといえば
知らんもんはない。
家永さまんとこに、ご奉公に上がったのは
うちが十ほどの時だった。
家永の旦那さまには五人のちいさい坊がおって
奥様は、ほとほと手を焼いとんなった。
そこでうちが子守として雇われたんだけども
これがまあたいそういい賃金で
うちの母やんは大喜び。
聞いたこともないくそ明るい声で
「ようけ、きばれよ」って励まされたのを
今でもよう覚えとる。
その頃うちの家は、ほんに貧乏で
出稼ぎに行ったふたつ上の姉やんが
いっしょけんめい仕送りしてくれても
ようやっていけんほどに食い詰めとった。
なんでって、じいやんの酒代に消えるだけん。
じいやんも前は腕のいい大工だったらしいのに
よいよいになって、今じゃ近所のおばちゃんに
「博打打たずに釘打てよ」
などと笑われる始末。しかも、この頃じゃ
姉やんの仕送りが来んようになっていた。
だけん、ただ飯食いのうちが
思いがけず金儲けれるようになって
母やんはよっぽど小躍りしたに違いない。
そんなわけで、うちはきばったよ。
赤児おぶって、やんちゃ坊たちの子分になって。
そんでも「姉や、姉や」って懐いてくれるように
なったら、嬉しんなって情もわいた。
特に、二番目の坊は気になった。
他の子供とは随分と違うだけん。
思い出しても解釈がつかんことがようけあった。
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