第191話 教団の暗躍

 ピエルバルグの街の中央周辺にはギルド総会本部、自警団本部関連の施設が多い。


 自警団本部の4階には会議室と人事部、経理部、戦略部、幹部専用の部屋がある。


 3階には1警2警と大部屋で別れており、各分団団員が犇めき合っていた。遠征や警備がないときはここか訓練場である。


 2階は3警4警とで大部屋で別れて3階同様に各分団団員が詰めるのだが、こちらは出払っていることが多くガラガラとなっていることが多い。


 1階は受付、応接室、資材部、各種倉庫などの構成となっていて主に出入りの多い人や重い資材関連が集中している。


 どこの部所も人手不足であったがこの間の巨人戦で13名が亡くなり、ピエルバルグだけで8名もの団員を失った。折角補充したばかりだというのにとジョン団長は頭を抱えた。


 だが巨人討伐の効果により入団希望者が殺到すると人事部は嬉しい悲鳴を上げた。


 彼らの入団理由は巨人討伐に感動した者、強さに憧れた者など様々だ。だが大半は巨人の居ない今が一番安全だと思っている連中である。


 彼らが入団後に起こる大事件にこんなはずではなかったと後悔するまでまだ暫しの猶予があった。


 そのような自警団の3警4警はいわゆる警察機構だ。街中で起こる事件を一手に引き受けている。


 街の住人が増えつつあるのに対して団員の数が伸び悩んでいるため、彼らは毎日が大忙しである。街の事件はほぼ毎日起こる。対して解決には数日を要するため、追い付くはずがないのである。


 そのため小さな事件にまではなかなか手が回らず彼らは苦心していた。


 4警のディスクはどこもかしこも書類の山ができており、酷いものになると床にも木箱をおいて突っ込んで放置している。もはや書類なのかゴミなのか見分けができない。


 書類はすべて事件や関連する資料、報告書、メモなどである。本来なら担当した事件が終われば資料室に直すなりしなくてはならない。


 だが、次から次へと事件を持ってこられるため対処が間に合わない状態である。ゆえに机に向き合える時間はほとんどなく大半は外回り、足で情報をかき集めに行っている。


 そんな彼らではあるが4警は詰めていたとある大きな事件に迫りつつあった。


「隊長、先日の行方不明者の捜索報告書です」


 4警の副分団長ダリル・フルトが分団長へと報告書を手渡した。


 金髪の長い髪をポニーテールにして耳には小さな金色のリングピアスが特徴の男だ。細長い顔立ち、糸のような目と細長い鼻筋。後ろに束ねた髪からこぼれた長い髪がこめかみあたりから垂れている。


 ここのところ仕事を詰めていたため少しクマができており、疲労が溜まっていた。だがそれもあと少しである。捜査は大詰めに入り、彼の苦労は報われようとしていた。


 4警の分団長エッジ・ウィヅは手渡された報告書に目を通した。茶髪ショートヘアーに角ばった顔立ちは齢を重ねたシワが多く口髭は多め。右耳は柔道耳になっている。


「母親が行方不明の件か……父親も5年前に失踪した」


 エッジは表のページをめくり、詳細が記載されている2ページ目に目を通した。以前からポツポツとあった行方不明事件は近年になって急増していた。


 過去の行方不明事件と関連性を長い間調査して一つの組織へと繋がり、本格的に自警団と抗争へと発展していた。


 だが組織力で上間る自警団により幾つかの拠点への検挙に成功していた。だが行方不明事件は止まることを知らない。


「父親が失踪したことで宗教に入団、家から例の薬か!! やはり絡んできたな」


「さらに今朝方新たに同様と思われる行方不明者の捜索依頼が来ましたが、恐らくこれも……」


 行方不明となったものの多くは薬が絡んでいた。人を快楽と廃人へと導く恐ろしい麻薬である。だが普通麻薬に関する事件は相手を薬浸けにして金を絞り取るのが常套手段である。


 行方不明がもし拉致だった場合、重要な顧客を失うだけとなり、組織としては旨味はない。只の組織ではないと捜査は続けられていた。


「急がねばならんな、教団拠点候補地の洗いだしはどうなっている?」


「候補6ヶ所のうち2ヶ所は無関係、もう2ヶ所はダミーでした」


 自警団は組織の拠点潰しを行っているが巧妙に嘘の情報が出回って未だに拠点を潰せていなかった。今まで潰してきたのは小さな販売拠点のみだ。製造もしくは販売の大型拠点がこの街のどこかにあると言われており、その絞りこみを行っていた。


「残りの2ヶ所では幹部らしき人物の出入りが目撃されており、どちらの施設も目撃回数が今までの拠点よりはるかに多いです。本命はこのどちらかかと」


「両方かもしれんぞ」


「まさか、連中にそこまでの…………ありえるのですか?」


 敵の組織はかなり潰してきたはずである。大きな組織とはいえそこまで人材がいるとはダリルには思えなかった。


 しかし、その割には行方不明者数が一向に減らない。固定概念は持たず両方とも本命の拠点と考えたほうが良いかも知れない。ダリルはそう考えると分団長の意見にうなずいた。


「分団を二部隊に再編成して突撃の準備にどのくらいかかる?」


「1日で可能です」


 ダリルは分団長が同時に拠点を叩き潰すつもりなのだと理解した。確かにそのほうが良いかもしれない。もし両方とも拠点だった場合、片方を潰している間にもう一方は逃げられてしまう可能性がある。


 動員できる人数が減るのは痛いが奇襲ならどうにかなるかも知れない。それに加え分団を二つに分けるということは一方は自分が指揮することとなる。


『指揮できるのは少し嬉しい……ふふふ』


 ダリルの顔から少し笑みが溢れる。彼が部隊を指揮するのは久しぶりであった。

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