第71話 山賊への追撃

「り、梨沙ちゃんいつの間にそんな情報を手に入れてたの?」


 ずっと彼女と行動を共にしてきた美紀が驚く。


「何言ってんだい。美紀だって知ってるはずだよ」


「あ、あたしも? うーーーーん~~」


「ほら、キーワード言ってみな」


「山賊? アジト? 山賊……アジト……アジトォ! 刀夜くん!!」


 美紀は思い出した。


「プルシ村だ!」

「そう!」


 二人は顔を見合わせて互いに指を指しあう。龍児はここに来てなぜヤツの名前が上がるのかと不愉快であった。だが当初の方法がダメだとわかり、他に方法があるならば何でもすがりつきたい気分ではある。


「おい、地図を持て!」


 アラドの指示で兵士が折り畳みテーブルを引っ張りだして、そこに地図を広げる。


 ヤンタルの街から龍児達が向かおうとしていたピエルバルグの街は北東に当たる。そしてヤンタルの街からプルシ村は北北西にあり、プルシ村とピエルバルグの街の間には山脈の一部があった。


 それは標高600メートルほどの小さい山であるが、その北奥は千メートル級の山が連なっていて大陸を遮断しており、その奥は地図には記されていない。


「えっと、村は……」


 梨沙が村の場所を探していると、アラドは以前に龍児達と出会ったときに、このような金髪の彼女はいなかったことに気がついた。


「ん? 君は以前の時はいなかったな」


「梨沙と美紀は俺たちの仲間だ、ヤンタルの街で落ち合う……」


 アラドの疑問に龍児が答える。


「おお、そうか。出会えたのかおめでとう」


「あ、ありがとうございます……」


 梨沙にはなんの事だか分からない。だが祝福されたので取り敢えずお礼をいうことにした。


「ああ、話の腰を折ってしまったな。続けてくれ」


「は、はぁ……」


 梨沙がやや気の抜けた返事を返すと説明を始める。


「まずプルシ村の裏山には旧山賊のアジトがありました」


 梨沙の指が村から山奥をなぞった。


「村の話では山賊のアジトはアーグの集団に襲われて奪われたそうです」


「ほう、アーグごときが山賊を蹴散らすなど相当な数だな」


「はい、アーグを討伐する計画を立てた際にアジトには裏道があると言ってました」


 刀夜は討伐作戦の立案時にこの裏道からアーグが逃げれないように炎の柵により道を封鎖していた。アーグ達を徹底的に駆逐するために。


「裏道は村とは逆方向ですので、おのずと山を越えてこちらの街道方面へと抜けます」


「なるほど。襲っていた山賊は元はプルシ村の山賊か。では奴等の新しいアジトは山を抜けた周辺が怪しいというわけか」


「ですが隊長、それでも捜索範囲は広いですが……」


「レイラ、アジトのみならず拠点を築くにはある程度条件が必要だ。ましてや人に見つからない場所となればなおさらだ」


「なるほど見つかりにくい地形で、かつ水が確保できるような場所ですね」


「おい、この辺りの地理に詳しい者はおらぬか!」


「ハッ! 自分であります。地理調査委員地区担当パルパトであります!」


 彼は地理調査委員会に所属している団員である。委員会は各街の自警団と流通系ギルドにより結成された地形を調査する会である。


 地形のみならず生態系の分布なども調査している。外回りが主体の1警2警にとって重要なポジションであり、隊には必ず2名以上は常駐している。


「奴らがこのあたりでアジトを作るとしたらどこか?」


 パルパトは大きな鞄から大量の地図から一つの地図を取り出し広げる。その地図はより詳細に地形が描かれており、メモのような記述が大量に書き込まれていた。


「この周辺が最適です。ここには小さな川が流れており、外敵から攻めにくい地形でかつ獣の出現が少ない所です。あと薬草も多く生息しています」


「よぉーし。ではそこに的を絞ってみるか。レイラ、討伐隊を編成しろ! 残りの隊は予定通り帰投させろ」


「ハッ!」


◇◇◇◇◇


 自警団の動きは迅速じんそくであった。指揮者が良いのか部下達はしっかり訓練されており、的確な指示であっという間に部隊が編成される。


 32騎の馬と食料と医療用品、そして龍児達を乗せた馬車が草原を駆ける。それは今までの屈辱くつじょくをはらさんとばかりに怒涛どとうのような進撃で威圧感があった。


 そしてついに草原地帯を抜けると所々地肌が露になったエリアで馬車のわだちを発見した。


「よし! このまま追跡するぞ」


 アラドは自身に気合いを入れた。そして彼の指示で斥候の騎馬2騎を走らせた。


 どれだけ走っただろうか、アラドの顔は険しくなっていた。馬の息もそろそろ限界に絶っしようとしている。しかも目的地からずれているようであった。


「隊長!」


 レイラも険しい顔で隊長を呼んだ。


「レイラ……お前も感じたか?」


「はい、これは恐らく……」


 アラドはこれ以上の進行は無駄だと手を上げて全軍停止の合図を出した。停止と同時にレイラは馬をおりて自分の感じた予感が正しいのか、地面の様子を注意深く調べ始めた。

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