第12話 黒い獣の襲撃2
晴樹は最初の獣を倒したあと獣の持っていた剣を奪って2匹目と対峙していた。
両手で構えた剣が獣を
剣は竹刀とは比べ物にならない重量であったが、晴樹は鉄心の入った木刀で
晴樹は刀夜の爺さんと師匠に感謝をした。もし只の剣道少年だったら、今頃はこの重い剣に振り回されていたかも知れないと。
振り下ろされた棍棒を回り込むようにかわすと同時に切り上げた剣が獣の腕を切り裂く。
獲物を落とした獣に仕留めにかかろうとしたとき、横から3匹目に襲われた。だがその攻撃も回り込むようにかわすと同時に獣の銅を切り裂いた。
それはいままで味わったことのない感触である。
腕を裂かれた獣は落としたこん棒を反対の手で拾い上げると再び、晴樹に襲い掛かかる。
だが飛んできた石が獣の顔に当たり、動きを止めると晴樹の上段に構えた剣が振り下ろされて頭をかち割った。
晴樹は石を投げた刀夜に向かって親指を立ててサインを送ると刀夜もサインを返す。
生徒達は刀夜の声で一斉に反撃へと転じたように見えた。
だが反撃に出た生徒は半数にも満たず、大半の生徒は恐怖に呑まれたままである。そしてそんな生徒から順番に獣の餌食となっていく。
獣が女子グループを狙らった。
「いやぁぁ!」
だが獣はもう片方の腕で顔を砂から守ると怒り、彼女の足を握り潰す。
彼女は大きな悲鳴をあげ、それを聞き付けた男子生徒が獣に石を投げつけた。しかし石は獣の体に当たりはしたが大したダメージにはなっていない。
彼は拾っておいたこん棒で殴りかかる。
「こんちくしょおッ!」
だが獣は振り下ろされたこん棒を簡単に避ける。
虚しく空を切ると地面を叩きつけてしまい、衝撃で手が痺れて動きを止めてしまった。
獣はそれを見逃さず、彼の顔を掴むと一瞬で頭を潰した。獣はその勢いで生徒の背骨ごとへし折って彼の体は無惨にも逆方向に折れてしまう。
邪魔者を排除できた獣が彩葉に近づく。彼女は無残な姿に変わり果ててしまった男子生徒の死に様を目の当たりにして恐怖に捕らわれると身動きができなくなった。
「ひっ、ひぃ」
叫び声をあげたくとも、恐怖で悲鳴にならない。
ニタリ顔で獣が手を伸ばす。
彼女が目を反らしたとき、軽快な竹刀の独特の音が鳴り響く。刀夜が獣の指先と顔を竹刀で叩いたのだ。それは一撃音に聞こえたが、刀夜のすばやい剣さばきは二撃を与えていた。
顔に当たった竹刀が獣の目に当たり、視界を奪われて痛みに
「この糞野郎ッ!!」
そこに晴樹の木刀を持った鎌倉梨沙が獣の脳天めがけて力一杯振り下ろす。木刀は見事に獣の頭蓋を叩き割って血しぶきを上げて後ろに倒れた。
「お、おい、無茶するな!」
刀夜が彼女を心配した。
当然だ。梨沙が振り下ろした木刀は只の木刀ではないのだ。打撃の衝撃は木刀から彼女の手の骨へとダイレクトに伝わってしまう。
梨沙は木刀を落としそうになると刀夜がそれを受け止めた。
「これは只の木刀じゃない」
「……あぁ、振ってみて分かったよ……何でこんなに重いんだ?」
「こいつは真剣を振るう練習の為に作られた物だ。重量は真剣より重いんだ。鍛えてない奴が使えば手の骨が折れるぞ」
梨沙は辛そうに手を抑えていた。
「やっちまったのか?」
刀夜が心配して聞く。
「し、痺れただけだ。何でこんなもん持ってんだよ?」
「そ、それは……」
刀夜は言葉を詰まらせた。少し考えて口にする。
「……秘密だ。得てして言えば師範の趣味だ」
「はぁ?」
梨沙には意味が分からなかった。知られないように言ったのだから当然だが、それは彼女を怒らせる結果となる。だが彼女が文句を口にする前に刀夜は彼女にお願いをした。
「それより、彼女を頼む。足が折れている。当て木してやってくれ」
梨沙は文句の言葉をいったん心にしまう。確かに刀夜のいうとおり津村彩葉の状態は深刻だったのだ。彼女の足は獣の爪で皮膚を裂かれて血を流し、足はあらぬ方向へと曲がっていた。
梨沙は刀夜を
その刀夜は竹刀から木刀に変えると次の相手へと向かっていった。
梨沙は彩葉に声をかけた。
「ここは危険だから移動するよ、痛いかも知れないけど我慢しておくれ」
梨沙は彼女を支えて片足で立たせると彼女の顔が苦痛で歪む。そして彼女を背負って智恵美先生の元へと向かった。
状況は劣勢から五分、そして有利へと変わってゆく。積極的に戦闘に加わった面々が獣を倒し続けた。それを可能にしたのは刀夜の目潰しと投石作戦が功を奏したからである。
思わぬ抵抗を受け、約半数の仲間を失った獣達は奇声を上げると元来た方向へと一斉に逃げてゆく。
いまだ興奮止まぬ生徒達は生き延びたことに安堵し、怒り、震え、
「楠木さんが……萩野さんがぁ、あああぁぁぁぁぁーッ」
怪我をした腕を押さえながら二人の友達の名前を叫んだのは玉城結花だ。
「玉城さん、楠木さんと萩野さんがどうしたんだ?」
言葉にできなくて泣きじゃくる彼女に委員長は声をかけた。
刀夜はその名前が獣に辱めを受けたあの二人であることを思い出すと、辺りを見回して二人を探しながら女子の数を数えだす。
「さらわれた!?」
彼女からさらに話を聞いた委員長が驚きの声を張り上げる。彼の言葉は彼女に現実を再認識させることとなり、再び声を張り上げて泣きだした。
「玉城さん、本当なのかそれは?」
委員長は再度、彼女に問い正したが彼女は錯乱気味であった。
「女子の数が合わない、二人の姿がないぞ!」
女子の数を数えていた刀夜の声に誘拐の話は現実として受け入れざるを得なくなった。
「何ぃ! さらいやがっただと!! あのクソ野郎ども殺してやる!!」
怒りの興奮が収まらない龍児が話を聞きつけ、さらに激怒し飛び出そうとする。
「やめるんだ佐藤君! 犠牲が増えるだけだ」
委員長はとっさに龍児の腕を掴んだ。龍児はその腕を払い除けると委員長の胸ぐらを掴む。
「仲間をさらわれて、黙っていろというのか! 二人は助けを待っているんだぞ!!」
龍児の怒りは収まらない。委員長もその気持ちは重々わかっているつもりだ。助けに行けるものなら自分が行きたいぐらいなのだ。
「だが君が一人で行ってどうなる? 敵はアレだけとは限らないんだぞ、あの暗闇の中をどう追いかけるつもりだ!」
苦しそうに委員長が暗闇を指差す。
「一人? ……だと」
龍児が回りの皆をみると、あきらかに誰も動こうとはしていなかった。
「なんでなんだよ……大事な仲間じゃないのか?」
「……でも……」
「『でも』って何だよ――!!」
また怒りの声をあげると他の女子達も泣き出した。
「佐藤君!」
先ほどまで
「先生として君を行かせるわけにはいきません!」
ずっとオロオロとしていた彼女と打って変って、
「先生は、私はあなたにだって死んでほしくはありません。だからお願い」
そう言って涙を流す。龍児は怒りに震えながらも上を向き、悔し涙を流して声を殺していた。
龍児にも追えないことは分かっている。やるせない気持ちがどうにもならなかったのだ。
この獣の襲撃により男子生徒4名、女子生徒3名が亡くなり、2名が行方不明となる。
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