外国人墓地
N港の一件から彼女は結局、旦那とは別れ私と同棲を始めていた。
過ごす時間が長くなり彼女について何故霊感がそれほどまでに強いのかも次第に解ってきた。
彼女の母方の実家がその周辺の集落では結構有名な大きなお寺らしい。
私はその地域ではないのでそのお寺の事はまったく知らなかったが。そこのお寺の彼女は孫にあたるそうだ。だから霊感が強いのかと私は勝手に解釈した。
よく祖父母にそういった力があると自分の子供より孫に現れると聞いた事があったからでもある。ただ彼女の場合は10人以上いる孫の1人なんだが、そこは特に関係ないのかもしれない。
そして私は私で一つ気になっていた事が、それは彼女が言った光のオーラについてだった。
実は昔、小学生の頃にそれとよく似たような事を知らないおじさんから言われた事がある。その当時、私は友達と別れ1人で下校していたので怖くて逃げ出した覚えがある。
でも私の家系ではそんな代々受け継がれるような特別な力なんて無いはずと思っていたのだったが…。
それは私が久々に実家に戻ってきて母親と話しをしているときだった。
「あんた、最近全然帰ってこないけどちゃんと大学行ってるの?」
キッチンで母親の淹れたコーヒーを飲みながら私は探してものをしていた。
「行ってるよ」
「それならいいけど。それでなんか用?」
私が食器棚の方をジッと見つめていることに、母親が気づいていた。
「食器棚に入っているその二つの木箱って何かなぁって」
「あら、あんた気づいてた。…いつから?」
「高校生の頃には知ってたよ。…それで中身が見てみたいかなあって」
「見るぐらいならいいけど、売りに行くんじゃないわよ。そもそも値段が付くのか分からないけど」
「わかった。」
それは、私の家のような一戸建の住宅には到底あっていいような物でもなく、大きな屋敷の蔵に眠っていてもおかしくない代物だった。
紐で結ばれた桐の木箱には、昔から私の地方に実在するO藩の名前が達筆で書かれていた。
中身を開けてみると、絹のような布でしっかりと包まれた茶碗がでてきた。
「それ、一つは私が短大の頃に茶道で使っていた茶碗だからあんまり価値はないと思うけど」
そう私の母が話した。
「いやそんな事はどうでもいいんだけど、どうしてこんな有名な藩の品物が家にあるの?」
「それね私の母、おばあちゃんの知り合いから貰った物だから。あなたが小さい頃に会ってるわよ一度。それでその人ね、お父さんに『東京で部長をやらないかって』誘いにきたのその時に『息子も大きくなったら入れてやるよ』って言ってたんだけど。…でも残念ねあなたが社会人になる前にその人、亡くなったからその話は無しになったけど」
「…そんな話、始めて聞いたんだけど」
私が唖然としていると、母親はこう言った
「だって聞かれたことなかったから」
当然、その時に私の親父はしっかりとした理由を述べてその話しを断ったらしい、だが本音はコネで入った扱いを周りからされるのが嫌だったそうで、知らぬ間に私の東京生活の夢は儚く消えていた。
それで私がその人の事を詳しく聞いてみると母親は話をしてくれた。
その人は当時、会社の社長か会長職についていた。
企業名があまりにも有名で日本人なら誰もが知っている会社だった。世界でも名が通っている企業なので当時の私は非常に驚いた。
ーでも、ただの知り合いがどうして親父や私なんかを会社に入れてやるなんて言ったんだろうか?気前が良すぎないか?
そんな疑問を抱いた私はある推測をした。
それは私のおばあちゃんが若い頃にその人と恋愛関係になっていたんではないだろうかと。
確かおばあちゃんは戦争中、奉公にO藩へ行っていたと聞いた事がある。その藩はその人の母方の実家だった。そういう事なら納得できるのである。
私のおばあちゃんはある町で小さな床屋を営んでいた。おじいちゃんは戦争中に片足を負傷して歩くのも困難だったので仕事はしていなかった。私が預けられていた幼少の頃もおじいちゃんは朝からパチンコ屋に行っていた。おばあちゃんは床屋の仕事をしていたが、それでも同じ町内の人が喋りに来たぐらいでお客さんも多くて1日に2.3人いないときは0人なんて時もあった。それで生活がやっていけるのだろうか?例えおじいちゃんに国から戦争の代償か何かでお金が入金されていたとしてもやはりおかしい。その上、私の母が昔に習い事をしていたお華にお茶、お琴にピアノ。
それらが床屋だけの収入、まして戦後なのだから到底無理だと思うが…。
子供の頃には疑問にすら感じなかったが、まるでお金持ちのお嬢様のような…。
「なぁ、あんた本当におじいちゃんの子供か?」
私は自分の母親にストレートに訊くとすぐに母からは反論された。
「はあ?あんた何言ってんの。私はおじいちゃんとおばあちゃんの子供って聞いてるわよ。…それよりそんな変な事おばあちゃんに聞くんじゃないわよ」
そう言って上手くかわされた。
でも真実は絶対言わないだろうなたぶん。
仮にそうだとしても相手側とそういう約束でも交わしているんだろう。
他にも色々気になった点はあったが私はそれ以上、母に追及はしなかった。
仮にこの推測が正しかったとすると、彼女の言った私の光のオーラについてもあながち的外れではないなと思った。なぜなら、N大社はO藩の管轄地域にあるのだから間接的に何かあるのかもしれないのである。ただこの結論を私は彼女に言わなかった。あくまでも推測で証拠も乏しいのでなんとも言えないからだった。
さて、かなり話がずれてしまったのでそろそろ本題である外人墓地について話をしようと思う。
彼女と同棲を始め私も大学には普通に通っていた私は、大学の友人に「どこかに怖い心霊スポットってない?」と、ある日に聞いてみた。
「怖い心霊スポットって…心霊スポットって普通は怖いもんだろ」
友人につっこまれた。
「それはそうなんだけど…確実にでるって噂されてる場所がいいんだ」
「そんなに怖いの好きだったかYって?」
「うん。まあ色々訳ありで」
ー心霊スポットに行くだけなのに訳があるわけないけど…
「だったら外人墓地に行ってみたら。あそこはマジらしいから」
「ああ、ありがとな」
「でも珍しいなYがそんな事聞いてくるなんて、1人で行くんか?」
「そんな訳ないだろ、彼女と一緒にだよ」
ー1人で心霊スポット行って何が楽しい…怖いだけだろ!
「あの娘か、あんまり彼女を恐がらせるなよ泣いてまうぞ」
「そうだな、気をつけるよ」
ーそれだったらいいんだけどな、まだ。
私の友人は彼女に強い霊感がある事を知らない。知っているのは本当に親しい彼女の友人2人とごく少数に限られていた。それ以外は彼女と同じような力を持っている人にしか言ってない。前の旦那や彼女の両親もその事実は知らない。「霊感がまったく無い人に言っても話にならないし、馬鹿にされるだけだから」と、こんな事を彼女は言っていた。
昼間に友人から話を聞いた私はそれを彼女に伝えた。すると彼女は「興味本位でそんな所に行くのどうかなと思うんだけど」と初めは渋っていたが、それを後ろで聞いていたあっちゃん(幽霊)が行きたい絶対大丈夫だからと乗り気だったらしく、「あっちゃんがいいって言うんなら…」私とあっちゃんに推される格好で彼女も行く事に了承した。ただ渋ってはいた彼女も実は心霊スポットに行くのは初めてで自分の力がどれほど通用するものなのか興味はあったそうだ。そして私も幽霊が実際に見えないかなと期待はしていた。
次の日が仕事休みだった彼女と、大学生なので暇な私はその日の夜に外人墓地に出かけることにした。外で遅めの食事を済ませ、当時はカーナビなどまだ無かったので(あったとしてもかなり高価だったはず)友人に聞いた場所に看板や標識を頼って向かっていた。
出発して1時間ぐらいで目的地の友人から聞いていたお寺に着いた。そこは桜も有名なのだろうか看板らしきものには〇〇桜と書かれていた。
初めて来た場所で、時間も深夜0時近くの為か周りには何の灯りも見当たらない頼れるのは車のヘッドライトのみだった。私は車を駐車できそうな場所を探す為に山の中へ続いている舗装された道へと車を走らせた。
入ってすぐのカーブを曲がった辺りだろうか彼女が頭痛を訴えてきた。
「痛、痛ったぁ」
「どうした」
「…何か硬い物で殴られたような痛みが頭に襲ってきたから」
「何かいるの?」
「いいえ、今はまだ何もいないけど」
彼女はそう言って殴られた自分の頭を痛そうに押さえていた。
「そういえば、あっちゃんは?」
「あっちゃんなら、とっくにいないわよ。さっき来る途中にここの看板があったでしょ。あの辺りで逃げた。まぁ逃げたって言うと本人傷つくから自主避難って事にしておくけど」
「逃げたって…自分が行きたい大丈夫だって言ってたくせに。」
「それだけ弱いのよ、霊としてあの子は。」
ーなんとも役にたたない守護霊だな
「それで大丈夫なの行っても?引き返そうか」
その時はまだ私に何も嫌な感じはなかったが、彼女が痛そうにしているので心配していたのだが、
「まだ頭痛だけだし、それに引き返すのも危ないでしょ」
当の本人はあまり心配した様子ではなかった。
確かに車がUターンできる道幅はあったが真っ暗で見通しが出来ないから危険だと言われたらそうかもしれない。
私はその道を進み続けた。相変わらず真っ暗で周りに何があるのか見当もつかないまま進むと駐車場のような広い場所にでた。
そこに車を停めた私は一度ゆっくりと車内から外を見回した。初めて来た場所なので外人墓地がここであってるのか分からないが、やはりそれらしい雰囲気はあった。
それでも、車を止めた位置から2、30メートル先にはバス停のような屋根だけの建物がありそこから白い蛍光灯の光がもれていたのでホッとした私は車のエンジンを止めて外に出ようとした。だが、よく見ると蛍光灯付近に黒っぽい人影が見えたので彼女にこう言った。
「どうする?他にも人がいるみたいだけど」
けれど彼女からの返事がすぐに返ってこない。全然返事がないのでまさか憑依でもされたのかと私は思ったが、
「ごめん、話を聞いてなかった。」
何故か彼女はとても疲れていた。「大丈夫?」って私が聞いてみると、「この場所に車を止めて私と同じように外を眺めていたら今度は鈍器のような物で殴られた」と、そしてそのあとから男の声がずっと頭の中で響いてると彼女は私に話し始めた。
「…それって今も。」
「うん。」
「何って言ってるの?」
「来るな、こっちに来るな。何でここに来たって」
そう言って彼女は話しをすると、さっきまで私が見ていた建物を見た。私もそこに目を向けると黒い人影がこっちを見て歩き始めた。
「ねえ、早く戻りましょう」
そう言った彼女の言葉よりも早く私は車のエンジンキーを回しドライブにギアをいれていた。
さっきのお寺の場所まではこの山道を戻れば5、6分だがそれがやけに長く感じた。
車中の空気が重く感じられた。スピーカーからは当時流行りだったパラパラをあえて選んで聞いていたがテンションがあがらない。それに彼女もあの一言から何も喋らない静かすぎて大丈夫だろうかと私は心配していた。無言の中パラパラの曲で気を紛らわせようと集中して聞いていたが、そこである異変に私は気付く。
ーテンポがまったく違う。
スピードが速く、テンションが上がる筈のナイトオブファイヤという曲が何故か引き伸ばされたかのようにテンポが遅い。その上、歌声が聴き慣れた歌手の声とは違いもっと低く英語の歌詞もなんだか違う単語に聞こえてくる…。助手席に座っている彼女にその事を話そうと思ったがあまりにも恐怖で無言のまま運転を私は続けた。
「もう、大丈夫よ」
しばらくの間、無言のまま車を運転し続けた私に対して彼女が心配になって声をかけてくれた。
気がつくとそこは墓地へ行く手前にあったお寺からはかなり離れていた。そこで私は見えない金縛りから解けた様な感じだった。
「しばらく静かだったけど?」
私は彼女に聞いてみた。
「そうね、あの墓地の住人に愚痴を聞かされてたからかな。Yには話さない方がいいかなと思ったの、私も集中したかったし。」
「なんて言ってたの?」
「私が頭が痛いって言ってたの覚えてるよね?」
「うん」
「彼の警告だったみたい幽霊のね。どうもね彼、私の強力な霊感とYの霊を消し去る事のできる光を感じて私達の事をお祓いにきた人間と勘違いしてたみたい。「こっちは静かに寝てるのに何で来るんだよって」言ってたから、それで私達をあの場所まで誘導して待ち伏せしてたみたい」
「どの辺りから気づいていたんだろう?」
「お寺の看板があったでしょあの辺りよ。ちなみにあっちゃんが自主避難したのもあの辺りだから」
「結構前からわかってたんだ。」
「墓地が広いから感知できるエリアも広いのよ。それに、そこそこ彼も霊力が強かったから。だから私達が逃げ出した時に慌てて車の中に乗れたのよ」
「乗った?それじゃあ…スピーカーから声らしきものが聞こえてたのは」
「そう、Yも聞こえてたんだ。霊の話し声。」
「はっきりと聞こえなかったけどね」
「でもよかったわ、声だけしか聞こえてなくて。見えてたらきっと運転どころじゃなかっただろうから。」
彼女の話によると霊は白人のおじさんだったらしく日本語も上手に話せていたそうだ。車の後部座席に陣取っていた霊は私達のことを信用できないからと自分のテリトリーまではついて来ていた。
白人の霊は彼女が自分と会話が出来ると分かり色々と不平不満を言っていた。
「私もよく知らなかったけどあそこって、日本人の墓と外国人の墓が一緒の敷地内にあるらしいの」
「へーそうなんだ俺も初めて来た場所だから知らなかった」
ー外人墓地って言うからてっきり外人だけだと思ってた。
「何で日本人と一緒なんだってぼやいてたからおじさんが」
「…そんな話をしてたんだ。」
「今は仲良しでも、戦争中は敵同士だったんだしやっぱり嫌なんでしょ一緒は、でもそれで私に何とかしてくれって言われても困るわ」
「あの墓地にある寺の住職に言うならまだわかるけど、俺達に言われても」
ーそれは無茶な要求だろ。
私も彼女の意見に同意した。
「それで私には何も出来ないからって伝えたら残念そうにしてたわよ。それと彼、興味本位でくる奴が最近多いって怒ってたわよ。静かに眠らせろって」
「そうか…。まぁそうだよな普通に考えてみれば墓地なんて自分の家みたいなもんだよな、深夜に家の近くでワーワー、ギャーギャー騒いでたら誰だって怒るか。」
「そうよ。これからは気をつけないとね」
結局、その霊は彼女に愚痴を言うだけ言って寺から少し離れた場所で自分の墓へと素直に戻って行ったらしい。霊が戻ったのを確認してから彼女は私に話しかけたそうだ。別につきまとって怖がらせたり呪い殺そうとか考えてる訳でもなく、邪魔だから追い払いたかっただけらしい。
彼女との話が終わり時計を見ると時刻は0:30分、ここについてまだ40分も経っていない。
だけど他には目的もなくその上に今の一件で非常に疲れていた私達は住んでいるアパートに戻ることにしたのだったが…。
私達が住んでいるアパートまでの道中には自殺の名所と呼ばれる場所があった。
そこは有名な一級河川にかけられた橋で過去に飛び込み自殺があったらしい。また、付近にある山の中でも首吊り自殺があったと言う噂をその近所に住む友人から私は聞いた事があった。
ただ、その道を通っていかないとかなりの遠まりをして帰らなければならなかったし、私も過去にその道は夜中に何度も利用している。今回の外国人墓地に来る際もその道を利用しているが今までそこまで恐ろしいと思ったことはなかった。
市街地まで一直線の堤防道路を運転しながら私達はその名所付近まで迫っていた。
その夜は墓地の件もあった為かその付近を走行していると凄く重苦しい空気を感じていた。時刻はまだ午前1時過ぎ、土曜日の深夜にもかかわらず対向車や後続の車が1台も見当たらない…。
ーいくら田舎の県って言ったて県庁所在地の市が数キロ先にある場所で…
そう不安に感じながら私は車を運転していた。
ー何かいるんではないだろうか?
そんな当初の不安は堤防道路の下に住宅街が見え遠くの方に映る市街地の灯りで次第に落ち着きを取り戻し始めていました。
何ごとも無く順調に自殺の名所付近を過ぎた辺りで私は車のブレーキを踏みました。
「ちょっと何でスピードを落とすの?」
隣に座っていた彼女が私に言いました。
「だって人がいるから」
車のライトが照らしている先には人が立っていました。私はその人を避ける為さらに徐行し速度を落としました。
堤防道路の川側、運転している私から見ると左側にその女性はたっていました。黒い髪が肩よも長く伸びかなりの美人。そんな彼女を横目で見ながら素通りしてすぐに、私は車を停めようとまたブレーキを踏みました。
「車、停めなくていいから早く進んで!」
「え?でも…。」
「いいから早く」
私は彼女の厳しい口調に一度踏んだブレーキを緩めスピードをあげました。
「何でだよ?彼女の着てた服、土で汚れてたよ。誰かに乱暴されたんじゃないか?警察に連絡した方が…。」
私が横を過ぎた時に見た彼女の姿は、靴は履かず素足で着ていた白いドレスかワンピースも所々に赤茶色の土が付着していました。
私は酔ったキャバ嬢かホステスが車でここまで運ばれて乱暴されたのではと思っていたのですが…。
「警察なんて呼んでも無駄よ、馬鹿にされるだけよ。」
彼女の返答は違ってました。
「でも彼女、悲しそうにこっち見てるよ」
私がドアミラーでもう一度後ろの様子を見ると、哀しげな表情でずっとこちらを見ている彼女の姿が映っていました。
「だからあんまり後ろを見ないの!気づかれるわ」
彼女の口調が苛立っていました。
ー私は人助けの為に言ってるのに…
「なぁ、何でそんなに怒ってるの?俺があの女の人の事を心配してるから嫉妬してるの?」
そう私が聞くと、彼女からの言葉は思いもよらないものでした。
「違うわよ!あんたまだ気がつかないの、あの女…幽霊よ。」
「嘘だろ?…だって足も顔もばっちり見えてたし。」
「あのねY、さっき土で服が汚れてるって言ってたけど…あれ全部血よ。霊の見え方は人によっても違うの」
「いや、どう見ても今の女性は人だろ。あんなにはっきりと見える訳がないだろ」
私は自身を持って絶対に人だと主張したのですが…。
「さっきの外人墓地に行ってYの霊感が一時的に強くなってるの。それにY、どうしてミラーに映った彼女がこっちを見てるってわかるの?真っ暗なのに。」
「あ…。」
そうだった。前方にいる時は車のライトで照らされているから見えてるのはわかるが…。
真っ暗なうえに私が運転する車の後ろには後続車なんて見当たらない。確かにおかしかった。
それによく考えてれば東京の歌舞伎町でもないこんな田舎の県で、そんな事件がそうそうおきるわけない。
私が素直に納得していると、
「あ、……気づかれた。まったくもうYが見えてるって分かってこっちに向かってきてるじゃないの」
彼女に怒られた。
ーそんなに怒らなくても、俺だって見たくて見たんじゃない。
「とりあえず、このすぐ先で堤防を下りて真っ直ぐに進んで」
彼女は幽霊に気づかれたとわかると、すぐ私に指示をしてきた。
「えっ、でも帰る方向とは違うけど」
「いいのよ。Yあの女を連れて帰るつもり?嫌でしょ。だったらここでまくから、私の言うとおりに動いて」
「分かったよ」
ー要するにさっきの幽霊をここでつき離すらしいが、一体どうやって?
私は彼女の言うとおりに従うことにした。
「堤防を下って道路を真っ直ぐに進むと信号のある交差点があるからそこを右に曲がって」
彼女の言うとおりに曲がると民家が立ち並ぶ細い路地にでる。街灯の明かりがぽつんと照らされているだけで他には何にもない道路を、指示どおりにに運転する私。
「今度はそこの民家を右…次は左」
次々と指示を出してくる彼女に私は従った。しばらく走るとホームセンターらしき建物の裏にでてきた。
「そこの駐車場で一旦車を停めて」
深夜にこんな場所に車を停めて不審車に見られるのではと私が思って彼女の方を見ると
彼女は一点だけを真剣に見つめていた。
「あーもう、しつこいまだついて来るわ」
彼女はそう呟くとまた私に指示を出す。
「Y、駐車場の出口を右に曲がってまっすぐ行くと交差点を直進して、そうすると左側に公園があるからそこを左に行って」
そうしてまた私は彼女の指示どおりに車を運転する。幽霊の発見から、かれこれ20分ほど同じ場所を行ったり来たりしていた。
「そこで停めて」
彼女から不意に停止指示が出たので車を停めた。そこは一番初めに曲がった信号機の交差点を少し過ぎた場所だった。
「なぁここって最初に通った場所だろ?」
「そうよ」
「大丈夫なのか、あの女の幽霊を見た場所からそんなに離れてないけど?」
「ここは大丈夫よ、私の左側を見てみなさい」
彼女の言われたとおり運転席から左側をじっと見るとそこには鳥居がたっていた。幽霊から逃げる時もその道は素通りしたはずだが真っ暗で気がつかなかった。暗がりのなかじっと見て目が慣れてくると、そこには小さな社がある神社があった。
「この周辺を守っている神社よ」
「こんな小さな神社でも霊って寄ってこれないの?」
そこは朝のラジオ体操の集まりにでも使われそうな小さな敷地の神社。
「ええ、神社も大きいお守り見たいなものよ。この場所は幽霊にとって光輝いてる見えるの、だから女の幽霊は今私達を完全に見失ってるわ」
「だったら最初からここに停まっていれば良かったんじゃない?」
「それだと駄目よ私達がここから帰れないでしょ。神社から離れた場所でずっと待ち構えてるからあの幽霊は、その為にまずは地元の人(幽霊)と神社の力を借りて女の幽霊をまいていたの」
「だから同じところをぐるぐる回っていたのか。」
「そうなのよ、あのホームセンターの駐車場で停まったのはあの場所が神社の光が届くギリギリの場所だったからそこで女の幽霊がついてきてるか確かめたかったのよ。でも、まだついてきてたから…」
それでその後も神社の光が届く範囲を走り続け女の幽霊が諦めたのを確認してこの位置に戻ってきたということだった。
数分はその場所に車を停め滞在していたが、周辺には住宅があり時間も午前2過ぎ、エンジンもかかったままでライトもつけっぱなしの車が住人に気づかれて110番に通報されたらかなわない。
幽霊が完全にいなくなったのを確認した彼女がすぐにその場所から立ち去ることを私に促した。
「あんなにはっきりと見えるなんて正直思わなかったよ俺。」
アパートまでの帰り道で私は彼女に興奮した口調で話した。
「あんなもんよ幽霊なんてはっきり言って。私には普通の人と同じに見えてるからいつも。しかも、ときどき本気で間違えるときがあるし」
彼女は笑って言った。
ー確かにあれだと本気で間違えそうだ
私もそれは思った。それだけ区別がつきにくかった。
「でもさ、さっき血がって言ってたけどやっぱり俺には土の汚れにしか見えなかったけど?」
「そう。だとしたらあの女、Yには悲劇のヒロインを演じてたのかもね。私には敵意丸出しで真っ赤な血を垂れ流してたから」
「そ、そうなの?それでどうするつもりだったんだろ俺の事?」
「うーん、女の1人は寂しいから。きっと取り憑くつもりだったんじゃない。」
「冗談だろ…。だいたい彼女どうして死んだんだ」
私は身震いをした。あの女性、美人ではあったけど幽霊はちょっと…。
「自殺よ。恋愛絡みのね」
「じゃあ振った男に取り憑けばいいじゃないか」
「いやもうとっくに死んでるよ。というか成仏してるからその男性」
「女が呪い殺したの?」
「そうではないだろうけど。あの女、死んでからずっと振った男には憑いていたみたい。だから相手の男は霊障で体調が急に悪くなったのよ。…その為あまり長生き出来なかったらしいよ。」
ーそれって呪い殺したんじゃないか…。
「それなのに、あの女は成仏出来ずに未練がましくふらついてるの」
「へぇー、怖。嫉妬てやつか」
「そう、女は怖いからね。執念深くて恐ろしいのよ。本性あらわすとね」
彼女の顔が薄っすらと笑みを浮かべたので私はたまらず話題を切り替えた。
「そういや、やけに詳しいなその話。」
「さっき逃げまわってるときに地元の人(幽霊)に聞いたの」
「あ、そうなんだ」
「でもあの女性、とても美人だったよねー。」
「ああそうだな。よほど振った男がよっぽど格好良かったのか知らんけど。他に男なんていっぱいいただろうに」
「そうだねー…。ねぇ、Y。私とあの幽霊どっちがいい?」
ー折角、話をすり替えたんだけど。やっぱり気づいてたか。
「えっ?…。」
私は動揺を隠す為に、いきなり何て言い出すんだという態度を示したのだが彼女には通用しなかった。質問に即答出来ない私。
だいたい、彼女とあの幽霊女ではタイプが全然違う。確かに凄く美人だったけど…。
俺が考えていると横から声が、
「おい、そこはすぐにこいつだって言ってやれよ」
「あれ、あっちゃん。いつからここに?」
「あの女から逃げまわっていたときからいたぞ俺は。」
「そうか、そんなことより彼女は?」
「後ろでふて寝してるぞ」
後からめいいっぱい彼女から文句を言われる私でした。
次話 兵庫県神戸市
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます