第50話 『魔獣の勇者』vs「風柱」 前編
『「バッ!とやって、ビュッ!ってすれば、はい!お終い!!
戦いは何やりも速さが大事っしょ!!」
魔階島に吹き荒れる“嵐”の言葉』
「やぁ、トトマ君」
魔階島の最強の挑戦者を決める今大会の第二回戦。予選を突破した腕のある挑戦者たちがぶつかり合い、ある者は地面に伏し、またある者は天を仰ぐ。ダンジョンとはまた一味違った戦いに奮起する挑戦者たちに、彼らの雄姿を観に来た大勢の観客たちの興奮も冷め止むことはない。
そんな“魔階島最強決定戦”の第二回戦、これから再び激闘へと身を投じる覚悟を決め、またこの次に戦うであろう『王国の勇者』との一戦を夢見て闘技場へと続く道を歩くトトマであったが、緊張からか彼の足はカタカタと震えていた。
謎の少女ユーに謎のおまじないをされ、気が付いた時には謎の剣を手にしていた、そんな謎だらけのトトマであるが、よくよく考えてみたらこれからの対戦相手の対策など一つも考えられておらず、まさに無策で挑もうとしていた。
その矢先、トトマは闘技場へと入場する入口の前にてそこで彼を待っていたとある人物と出会った。短い灰色の髪に、焦げた黒い肌。トトマよりもすらっと身長が高く、小奇麗な紳士服を着るその男はトトマがよく知る人物であった。
「ブレイズさん!!」
思いもしなかった人物に出会ったものの、不意に嬉しくなったトトマは子犬のようにブレイズの下へと駆け寄った。そんなトトマの様子を見て、普段は仏頂面なブレイズだがその顔には自然と笑みがこぼれる。
「久しぶりだね、トトマ君。元気にしてたかい?」
「はい、あの時は本当にありがとうございました!・・・あれ?でもどうしてここにいらっしゃるんですか?ストームさんなら逆側ですけど」
その時、トトマはふとあることに気が付いた。ブレイズは『魔獣の勇者』バルフォニアのパートナーであり、ということはトトマが今から戦う「風柱」のストームのパートナーでもあるはずである。となれば、トトマと敵対するとまでは言わないが、応援するのでればストームの方にいるべきであった。
しかし、ブレイズの様子は選手の入場口を間違えたという様子でもなく、彼はあらかじめトトマを待ち伏せていたようである。
「あぁ、いいんだいいんだ。私はトトマ君に用事があったからね」
「用事・・・ですか?」
「そうさ。用事・・・というか、この場合は助言かな?」
「助言?」
「これからトトマ君が戦うストームに勝つための助言さ」
「えぇ!?」
これからの対戦相手、天才にして風の魔法の使い手でもあるストームに対し無策で挑もうとしていたトトマであったが、なんとその土壇場にして彼に策を与えてくれる人物が現れた。しかし、その話を聞いて少し嬉しくもあったがトトマはいたたまれない気持ちでもあった。
なぜなら、よく考えてみたらこれはブレイズにとってはパートナーを裏切るような行為であり、トトマで例えるのであれば今ストームの所にオッサンが出向いており、あれやこれやとストームに助言しているようなもので、その姿を想像したトトマは素直に言葉を返すことができなかった。
「で、でも、いいんですか?だってストームさんはブレイズさんの仲間じゃないですか。こんなことをしたら・・・」
ごにょごにょと話すトトマを見て、彼の気持ちをなんとなく察したブレイズはやはりトトマはいい勇者なのだと再認識すると、そんな彼の不安を吹き飛ばすような笑顔でわけを説明する。
「大丈夫だよ、トトマ君。むしろこれはストームのためでもあるんだ」
「ストームさんのため?」
「そうそう!あいつは確かに魔法の上達も早いし、戦いの筋もいい。でも、まだ若すぎるんだよ。若い内に自分よりも強い相手をたくさん見ておかないと、今後のあいつのためにならないんだ。だから今回の大会に出場させたのさ、自分の実力と世界の広さを教えるためにね」
「た、確かに・・・」
「それに、何もこれは私の独断ではないんだよ。バルフォニアさんがトトマ君に助言してやれって言ってくれたから、私はこうやって君の前に来たんだ」
「バルフォニアさんが!?」
そこまで聞くと何だか今度は断る方がブレイズやバルフォニアにまで迷惑を掛けるような気がして、我が弱くお人好しなトトマはブレイズの助言を受けることに決めた。その言葉を聞いて、特にバルフォニアに言われなくても個人的にストームを懲らしめたいがために結局はトトマの前に現れていたであろうブレイズは、その真実は黙っておいて説明を始める。
ストームは「魔法のスキル」を授かった挑戦者であり、『魔術の勇者』の一パートナーでもある。魔術師協会の中でも選りすぐりのみが選ばれる「四柱」の中で「風柱」の異名を持ち、その名の通り彼は風の魔法を得意とする。
ここでストームの厄介な所はその類稀な戦闘センスである。彼は得意とする“
「・・・」
そこまでの話を聞いて、トトマは一層震えあがっていた。無策でもなんとかなるといった挑戦者特有の行き当たりばったりな思考に染まりかけていた最近のトトマはもう一度気合を入れなおすとブレイズの話に集中する。
「とまぁ、ストームは確かにあの歳にしては強いが、でも弱点もある。まずは、当たり前だが体内貯蔵マナの限界量だ」
「そっか!いくら強くてもマナには限界がある。それでマナが無くなれば・・・」
「そう、マナが無くなれば私たちのような魔法使いは大幅に戦闘能力が下がる。その状態ならトトマ君にも十分に勝ち目がある」
これはトトマ自身もダンジョンの第三の番人“許されざる罪人の花嫁”との戦いにおいて経験したことではあるが、強力な魔法はそれだけ多くのマナを消費し、容易に連発はできない。
「勿論、マナ切れの対策は魔法使いであれば誰でもしているが、そこには必ず隙が生じるし、短期間での『エーテル』などによるマナ回復は効果が薄くなる。ということはつまり?」
「ストームさんに魔法を打たせてマナ切れを誘い、回復する時かマナが切れた後に攻撃を仕掛ける。つまり長期戦ですね」
「正解!」
いつの間にやら講義の体になっていたが、ブレイズは自ら答えを導き出したトトマに感心し笑顔になる。だが、一方でその答えを導き出したトトマは同時にとある問題を導き出してしまっていた。
「で、でも、長期戦にしてもどうやってストームさんの魔法に耐えればいいんですかね?」
そう、重要なのはそこであった。理論上、マナが切れれば戦力が落ちるストームであるが、しかしそれまでにトトマが生き残る保証はどこにもなかった。そう考え頭を悩ませるトトマを眺め、一方でブレイズは楽観的な表情をしていた。
「なーに、大丈夫さ。トトマ君には奇法があるだろ?魔法を防ぐにしろ、回復するにしろ。トトマ君は奇法にだけマナを使って戦えばいいのさ」
奇法とは「祝福のスキル」を授かった者たちが使える技であり、ダンジョンの瘴気を防いだり傷の回復をしたりするだけでなく、マナで形成した壁であらゆる攻撃を防ぐことができる。無論、その防御の技には耐久力があるが、それでも無いよりはましで生身や盾で受けるよりかは遥かに安全である。
そして、そんな奇法は「勇者のスキル」を授かった勇者にも使える。「勇者のスキル」の内「女神の加護」があるので、大抵の勇者は奇法が使え、また「女神の加護」に優れた『奇跡の勇者』程になればどんな奇法でも扱うことができる。
ただし、そこで重要なのは奇法が使えるのは「女神の加護」の能力を上げている勇者のみであり、残念ながらここにいるトトマはそこからは外れていた。
「あ、あの・・・、僕まだ奇法が使えないんです・・・」
「え?・・・1つも?」
「はい、1つも」
「回復や障壁も?」
「はい、回復や障壁も」
「「・・・」」
ブレイズとトトマはしばし見つめ合った。見つめ合うと素直におしゃべりができない、わけではなく、ただ2人とも予想が大きく外れてもはや言うことが無くなってしまっていた。
「と、とりあえず・・・、うん。なんとかなるさ!ストームの魔法を避けるんだ!それこそ死ぬ気でね!でないと死んでしまうからね!!」
「何だか・・・すいません」
急に慌てふためき、ガラでもない気遣いもブレイズにさせてしまい、トトマは自分の無能っぷりに落ち込み、またより一層いたたまれない気持ちになったが、その彼の背中をぽんと押しながらブレイズは最後の助言を言う。
「あと、トトマ君最後に1つ。前に教えた火と光の魔法だけど、あれは今回使わない方がいい」
「そ、そうなんですか?」
「まぁ、相性の問題もあるんだけど。何よりも詠唱の速さではストームには勝てない、あいつの詠唱は・・・その何て言うか特殊でね」
その言葉の意味は結局試合開始の時間の所為で詳しくは聞けなかったが、トトマはブレイズに背中を押されて第二回戦へと挑むべく闘技場へと駆けあがる。
そこに待つ“嵐”に果たしてトトマはどう立ち向かうのか、そして見事に勝ち進むことはできるのか、それは神のみぞ知る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます