第3話 もちもちで、ひんやりとした不思議な仲間

『「安易に触れると怪我するぜ・・・。勿論、俺っちがな!!」     

    非力なスライム代表からの注意』


(それにしても、いつ見ても大きい木だな・・・)


武器防具屋「トンカチ」で店長のヒカリと「薔薇の勇者」のココアの二人と別れた後しばらくして、トトマは多くの挑戦者たちでがやがやと賑わうダンジョンの入り口の前で立ち尽くし、一人ぽかんと空を見上げていた。


魔階島にいる者たちが見上げるといつもその視界に入るこの大きな木は、魔階島名物”魔樹”と呼ばれる魔階島を主張する物の一つである。


この魔樹とダンジョンには実は親密な関係性があることが、挑戦者にしてダンジョン研究家であり、生物学者でもあるインディ・ジョブズの調査により明らかになっている。


その一つに、魔樹の葉が生い茂る季節はダンジョン内のモンスターが活発になり、貴重な資源や素材、宝箱などが豊富に手に入ることが証明され、この季節は一般的に”ナツ”と呼ばれている。逆に、葉が散る季節になるとダンジョン内のモンスターは減少し、貴重な資源や素材、宝箱なども減少する。この季節は一般的に”フユ”と呼ばれている。


なので、ダンジョンに挑む挑戦者のほとんどはこの魔樹の状態にいつも気を使っている。現在は葉の散り始めなので、これから”フユ”が始まろうとしていることが分かる。ダンジョン攻略にはいい季節だが、今のうちに準備をしておかないと色々な物が値上がりするだろう。そして、その前にはお金が必要であることは言うまでもない。


「結局はお金・・・だよね」


トトマはそう寂しい独り言を呟いて、ダンジョンの入口へと歩き出すが、そこにぬっと黒い鉄の塊がガシャガシャと音を立てて現れた。


「うわ!?『鋼鉄の勇者』だ!?」


「嘘!?あれが噂の『鋼鉄の勇者』!?相変わらずすげえ装備だな・・・」


その姿にがやがやと騒ぎ出した挑戦者たちのことなど気にすることなく、『鋼鉄の勇者』はずんぐりむっくりとした黒い鎧を鳴らし、背中に超巨大な剣を背負いながら何も言わず寡黙にずしずしとその中を通り過ぎて行く。


『鋼鉄の勇者』


その名の通り、全身に鋼鉄の鎧を身に着けた勇者であるが、その重量はおそらく並み大抵の挑戦者では動くことはおろか、着ることすらできない程に重いと言われている。にもかかわらず、『鋼鉄の勇者』はそれらを軽々と装着し、なんなら走ることさえできるという強靭な肉体の持ち主である。


その理由は、「勇者のスキル」の「万人力」に優れたからでもあり、常人と比べて桁違いの筋力を持つ『鋼鉄の勇者』にとってこの鎧は普通の鎧と大差なく、背負った大剣は普通の剣と大差ないのである。


また、その鋼鉄に隠された素顔は誰も知らず、契約しているパートナーもいないらしい。なので、『鋼鉄の勇者』は誰が話しかけても一言も返さずにただ過ぎ去る、寡黙な勇者としても知られていた。


(『鋼鉄の勇者』か・・・)


トトマはざわざわと騒ぐ挑戦者たちの隅で一人思い出す。


実は、トトマも魔階島に来てからギルドにおいてこの『鋼鉄の勇者』に一度だけ出会った経験があった。その時は相手が勇者とも知らずにトトマは話しかけてしまったわけであるが、その時もやはり何も言わないまま寡黙に『鋼鉄の勇者』は立ち去ったのであった。


(まぁ、僕には関係ないか)


そう思い、再びダンジョンへと向かおうとしたトトマであったが、不意に誰かの視線を感じた。彼は不思議に思い、その視線のする方を振り向くとそこにはあの『鋼鉄の勇者』が佇んでいた。しかも、その顔は頭をすっぽりと覆う兜の所為で分からなかったが、でも確かに彼の方をじっと見つめているような気がした。


(ぼ、僕のことを・・・見ている!?)


だが、トトマがじっと見つめ返すと『鋼鉄の勇者』はすぐにぷいっと体を向きなおし、再び鎧を鳴らして何処かへと歩き去った。トトマも自分の思い違いであろうと考えを改めると、彼は今度こそダンジョンへと足を進めた。


ちなみに、このダンジョンに対して、無策、不用意に挑む挑戦者はまずいないであろう。それは、レベルの高い低いに関係なく、ダンジョンに挑む挑戦者は準備を怠ることはない、いや怠ってはいけない。


その理由はとても単純であり、ダンジョンに入る目的、その道筋、そのための準備などは直接挑戦者の命に関わるからである。生命の女神イキ・カエールの復活があるので死の危険はないが、それはお金があるからこそで、またそのお金はダンジョンで目的を果たし、そして無事に脱出できないと手に入らない。


つまり、復活の奇跡があるが故に挑戦者はお金に執着し、危険なダンジョンに挑むのである。そして、その危険なダンジョンの中を安全に攻略できるようにお金を掛けて事前の準備をするのだ。


ということは、今のトトマはあまりにも無策、不用意な挑戦者と言えるだろう。だが残念ながら、今の彼にはまだまだダンジョンに挑むための心構えが足りていない。それは「勇者のスキル」から生まれる余裕からでもあるのかもしれないが、そのような考えではこの先どこまでも深く続くダンジョンを無事に攻略することはできない。


ダンジョンに長く挑み続けるとある歴戦の挑戦者はこう言ったそうだ。


「神から与えられたスキルを行使することは問題ではない。だがしかし、そのスキルに振り回されることが問題なのである。ダンジョンに挑む者は、スキルとは常に無いものだと思え」と。


勿論、その言葉を知るわけのないトトマは十分な用意もなく、ダンジョンへと一人入っていった。


ダンジョン 第一階層


トトマが足を踏み入れたダンジョンの中は、少しじめついており、上下右左ともに土に囲まれている。


地面の中にいるのだから当然と言えば当然であるが、このようなダンジョンの姿は第一階層から第十階層までである。それより下の階層に行けば、また違うダンジョンの姿が見られるであろう。


そして、ここからはモンスターの出現する場所であり、一歩一歩踏みしめるのにも十分な警戒が必要だ。・・・というわけはなく、実は「変動期」のすぐ後でもない限りモンスターも挑戦者もこの第一階層にはほとんどいない。挑戦者の出入りの激しいこの第一階層にはモンスターも出現しないし、出現したとしても挑戦者の道すがらに倒されるのがオチである。


また、このダンジョンはひと月に2回ほどその中の形を変えることがあり、その時期のことを「変動期」と呼ぶ。その時にダンジョン内にいると確実に圧死するらしく、どうしてもダンジョン内にとどまりたい場合は各”番人の間”が有効と言われている。何故かこの”番人の間”だけは「変動期」の際にも形が変化しないので、いざという時は利用すると便利である。とはいえ、一番は『転送石』を使って即時ダンジョンから抜け出すことの方が安全かつ効果的だと言える。


なので、ここではいたとしてもモンスターは既に狩りつくされ、あったとしても宝箱などは既に誰かに取られているであろう。


ということで、今のトトマにとっても何の心配もなく突破できた。


ダンジョン 第二階層


トトマは、壁に着けられた松明の明かりを頼りにダンジョンの中を一人どんどんと進んでいく。


ダンジョンの中は概ね挑戦者の誰かしらが壁に松明を付けてくれていることが多い。


「変動期」の度に誰かが松明を付けなおすというのだからご苦労なことであるが、その松明なしではダンジョン探索はできない上に、松明を付けるという行為は、つまりそこには誰も来ていないという証拠でもある。なので、松明を置いていく挑戦者はその先にある高価な素材や宝箱を独り占めでき、そしてわざわざ付けた松明を外していくほど億劫な作業はしない。だからこそ、誰かしらがダンジョンに松明を置いていってくれるのだ。


つまり、その松明はそれを置く挑戦者と、後から続く挑戦者のためにもなる重要な道具なのである。だが気を付けないといけないのは、松明がないということは人が通っていないということであり、その先にはモンスターもいる可能性が高い。反対に、松明があるということは人が通ったということであり、その先にはモンスターがいる可能性が低いのだ。つまり、自分の目的に合わせてどの道を選ぶのか、それが挑戦者に問われるのである。


また、ダンジョンを照らすだけであれば、松明でなくとも魔法でも同様のことはできる。だがそこは、ダンジョンに挑む挑戦者たちのパートナーや財布事情に任されている。


そんな誰かが置いた松明を頼りに明るい道を一人歩いていると、トトマは不意に何かの気配を感じた。彼の「天性の感」によって感じる大きさからして、それは挑戦者の気配ではない。


こういう時だけはこの能力も便利なものだとトトマは苦々と感心しつつも、手にした武器を構えて慎重にゆっくりとその気配の下へ近づく。


すると、何やらもにょもにょと蠢く物体がそこにいた。


(・・・スライムだ!)


トトマがじっと目を凝らすと、そこにはまだトトマのことには気が付いていないであろうスライムが、ダンジョンの道の隅でしかも運良く一体でぷるぷると震えていた。


(他にモンスターは・・・いないみたいだな、これはチャンス!!)


多くの挑戦者が初めて目にするであろうモンスターは、第一階層から第十階層まで幅広く生息しているこの「スライム」だろう。また、このスライムは比較的にというかかなり体力の低いモンスターであり、ダンジョンに初めて挑む、新米挑戦者には持ってこいだ。


ただし、油断は禁物、注意が必要なのはその数である。


どんなモンスターであれ、いくら相手の方が弱くとも、あちらの数が多ければどんな挑戦者でも死に至ることは多々ある。ダンジョン攻略の常識として、戦いにおいては基本的には複数を相手にしてはいけないという話もあるぐらいで、数の優位は重要なのだ。


つまり、たとえどんな相手であれ、各個撃破こそがダンジョンで死なないための秘訣であり、トトマはそれを自身の身で何度も体験してきたので痛いほど理解している。


なので、トトマは息をじっと殺して気配をできる限り消してから、ゆっくりゆっくりとそのスライムに近づいていく。


ちなみに、スライムの弱点は体の中心に浮かぶ核である。これをスパッと斬れば核を包むドロッとした液体は崩壊してしまう。そして、このドロッとした液体こそがロゼに頼まれた『スライムオイル』であり、料理にも美容にも使える優れ物なのである。


その『スライムオイル』を採取する手段は2つ。


1つ目はスライムが生きたまま抽出すること。

『抽出機』という道具を使うことで上手くいけば量はたくさん採れるが、失敗すれば逃げられるもしくは反撃に遭うという難点もある。


2つ目はスライムを一旦倒してから抽出すること。

これなら確実に目当ての物が手に入るが、急いで抽出しないと地面に吸われてしまうので注意が必要だ。


そして、今回トトマが取る手段は2つ目のスライムを倒す方法である。

今は量よりも確実性の方が優先すべきであるからだ。


じりじりと近づき、スライムが剣の間合いに入った瞬間、トトマは握りしめた剣を振り下ろす。


『はぁ~、ここの苔はうめぇな!』


「え!?」


しかし、スライムの体の真上に剣が来た瞬間、ふと耳に聞こえたその何者かの声に驚いたトトマは手元が狂ってしまった。そして、彼は狙った核を大きく外してスライムの体をさっくりと斬り裂く。


『ぎゃあぁぁ!?挑戦者じゃん!?やばいやばい!』


「!?!?」


またしてもどこからともなく聞こえたその声にトトマが気を取られている内に、目の前にいたスライムは斬られた3分の1をその場に残してもにゅもにゅとどこかへ逃げ去った。


ポツンと一人取り残されたトトマであったが、それでも彼は驚いた表情で辺りをキョロキョロと見渡した。だが、やはり彼の近くに挑戦者の気配はない。


また、トトマの能力「天性の感」であれば、あれほど鮮明に声が聞こえる距離にいる挑戦者を見逃すはずはない。


そこで、トトマは気を取り直すと、今度は目を瞑ってもう一度意識を集中させる。


『ひゅー、あぶねーあぶねー、殺されるところだったぜ・・・』


すると、トトマの耳に再びあの声がはっきりと聞こえた。しかし、その声は遠いのか先ほどよりも音量が小さく感じられた。ともあれ、トトマは目を開け、ゆっくりとその声のした方向に近づいていく。


『あー、あの挑戦者早くどこかに行かないかなー』


次第にその声は大きくなっていく。


『あそこ最高の餌場だったなー、後でマーキングしておかなくちゃな』


そして、トトマは遂にその不気味な正体不明な声の主の所まで辿り着いたが、残念ながらそこには誰も挑戦者はいなかった。


ただ、そこにはスライムがいるだけである。


(ま、まさか・・・ね)


本当に馬鹿馬鹿しいこととは思いつつも、トトマは興味本位で目の前のスライムへと試しに声を掛けてみる。


「あのー・・・」


『ん?』


すると、そのトトマの声に合わせてスライムはぽいんぽいんと跳ねて振り返った。


目と目が合う勇者とスライム。


とはいえスライムには目も口も耳も鼻もありはしないが。


『ぎゃあーーーーーッ!?さっきの挑戦者じゃねぇか!?こ、殺されるーーー!!!??』


再びそんな大声がトトマの耳に響く。ありえないような話だが、やはりあの声の主はこのスライムであったのだ。


「ま、待って!?話を聞いて!?」


自分でも訳が分からないまま、トトマは跳ねまわるスライムを宥めるためにふと話し掛けてしまった。


『やぁーーーーー!?・・・って、何だ?あんた、俺っちの言葉が分かるのか?』


スライムの質問に素直にこくこくと頷くトトマ。彼の耳には正面にいるスライムの声がはっきりと聞こえていたのだ。それはもしかすると耳ではないのかもしれないが、だがしっかりとスライムの言葉を理解し、またこちらの言葉も相手に通じていた。勿論、トトマはこのような出来事を今まで体験したことも聞いたこともない。


『あ、あんたは、俺っちを殺すのか?』


「し、しないしない!?さっきのは謝る、ごめん!!」


ぷるぷると震えながら心配するスライムであったが、何やら心を許したのか、トトマへとゆっくりにじり寄る。


『なんだなんだ?挑戦者にも俺っちたちの声が聞こえるもんなのか?』


「さ、さぁ?」


スライムの質問に首を傾げるトトマだが、そんな時にとあることをふと思い出した。今日までモンスターの声を聞いた経験はトトマにはなかったが、ここに来る前に以前とは変わったことが一つだけあった。


それは「天性の感」の能力を上げて身に着けたあの不思議な技『交渉』である。てっきり商売系の技かと思いきや、モンスターとも会話できるようになるとはこれも交渉の一種なのだろうかとトトマは疑問に思う。


「ぼ、僕だけが君の声が聞こえるだけ・・・なのかも」


『そうなのか!?それはすげえぜ!!』


トトマの言葉にぽいんぽいんと陽気に跳ねるスライム。


弱小モンスターと言われるスライム相手からの褒め言葉ではあったが、トトマは魔階島に来て以来初めて他人に褒められた気がした。勿論、相手はモンスターであるが、それでもトトマの胸は何故かじんと熱くなった。


「す、すごいかな?」


『そりゃすごいぜ!そ、そうだ、今日から是非とも兄貴と呼ばせてください!』


「あ、兄貴!?どうしたの突然!?」


スライムのまさかの発言にトトマは目を丸くした。そんなトトマのことはお構いなしに、スライムは遜ったようにペラペラと話を続ける。


『いや~、最初から何かビビッと感じたんですよね~。この挑戦者は違う!って』


「挑戦者っていうか勇者なんだけどね、僕」


『あ!やっぱり!!そうかー、兄貴は勇者だから他の挑戦者とは違うオーラを放ってたんすね!!』


そのスライムのあからさまなお世辞にトトマはぎこちなく笑った。でも、実を言うと彼は内心嬉しい気持ちでいっぱいだった。


「勇者のスキル」のスキルを授かった時は、周りの人から大いに喜んでもらえた。しかし、レベルが上がるにつれ、トトマはただ「勇者のスキル」を持っているだけの自分に気が付き始めた。周りにはもっと強い挑戦者がいて、それよりももっともっと強い勇者たちが11人もいる。


同じ勇者であっても、その勇者たちは励ましたり、応援したりはしてくれるけれども誰も褒めてはくれなかった、誰も競ってはくれなかった。トトマの惨めな気持ちを知りもしないで、彼らは自分よりも勇者としての実力がないトトマに「優しさ」という暴力を与えていたのである。とにかく、他の勇者たちにその気があろうとなかろうと、彼らの優しさにトトマは苦痛を感じていたのだ。


だからこそ、たとえそれがモンスターからであったとはいえ、自分を褒めてくれたことはとても嬉しく、また、そのことによってトトマは自分でも諦めていた勇者の心にぽっと火が付いたような気がした。


『ど、どうでしょう兄貴?俺っちの命を助けていただけるのであれば、このスラキチ、兄貴の役に立ちますぜ』


「え!?」


すると目の前にいるスラキチと名乗るスライムから思わぬ提案が出された。命乞いの様にも聞こえるその申し出は、なんとモンスターからの仲間の申し出でもあった。


『兄貴さえよければ俺っちを子分にしてくだせい、俺っちは兄貴のためならば何でもしますぜ、だから命だけは・・・』


「ま、待って待って!?そんな子分だなんて、それに僕は君の命を奪う気はもうないんだって!?」


『そ、そうなんですかい?』


「本当!本当!!」


心配そうにぷるんぷるんと震えるスラキチにトトマは笑顔を見せて話しを続ける。


「実は・・・『スライムオイル』が欲しかっただけなんだ。だからその、さっきはいきなり斬りかかってごめん。もうしない、絶対にあんなことしないから安心して」


『ほ、本当ですかい?』


「うん、本当だよ!だから子分とかそういうのはいいから、ね?」


『な・・・な・・・』


そう言うとスラキチは一層ぷるんぷるんと震えだしたので、トトマは心配そうにそんなスラキチを見つめる。


「だ、大丈夫!?スラキチさん?」


『な・・・な・・・!』


「な?」


『な・・・なんて良い方なんだ!兄貴は!!こんな見ず知らずのスライムを気遣って、その上誤ってくれるなんて。俺っちは今まで挑戦者たちが仲間を蹴散らすさまを見てきたが、兄貴のようにこんなにも情が厚い方は見たことがねぇ!!』


そして、感動したスラキチはぽよんぽよんとトトマの前へとにじり寄る。


『兄貴!俺っちは感動した!!やっぱり俺っちを子分にしてくれ!!兄貴と一緒に行きてぇんだ!!』


「わ、分かった、分かったから!?一旦落ち着いて!!」


そのスライムらしからぬスラキチの剣幕に押され、トトマは押されるがままにスラキチの申し出を了承してしまった。


「まぁ、でも子分とかじゃなくて・・・そうだな友達っていうのはどう?」


『と、友達だなんて、そんなのはダメですよ!?兄貴に失礼だ!!』


「そ、そうかな?じゃあ・・・仲間、うん!仲間ってことでどう?」


『なか・・・ま?』


仲間。


その言葉は今までのトトマには苦々しい言葉でもあり、また縁もない言葉であった。あの日、ギルドで別れた仲間だと思っていた者たちの背中を思い出すので、トトマは仲間という言葉にどこか苦手意識を持つようになってしまっていた。


だが、今モンスターを、しかもスライムを目の間にして出た仲間という言葉は、以前とは違い何やら暖かい響きをトトマは感じるようになっていた。


「そう仲間!僕が困った時はスラキチが助けてくれて、逆にスラキチが困ったら僕が助ける。それが仲間、それでいいかな?」


『仲間!何だか熱い言葉ですね!!分かりました!!このスラキチ、兄貴の仲間として粉骨砕身で頑張らせていただきます!!』


「うん、ありがとう!・・・あ、でも、その兄貴って言うのは止めない?」


『それは譲れませんぜ、兄貴!!』


トトマはぽよんぽよんと元気よく跳ねまわるスラキチを見て微笑むと、自然と胸がじんわりと温かくなった。どうやら、仲間という言葉に喜んでいたのはスラキチだけではなかったようだ。


それと同時にスラキチとの会話の中から、トトマにとっては名案と呼べる案が彼の頭に浮かんでいた。


「じゃあ、早速だけどスラキチ。仲間としてお願いがあるんだけどいいかな?」


『ん?勿論、いいですぜ、兄貴!俺っちにできることがあれば何でも言ってください!!』


トトマの頭の中に浮かんだそれは神ですら思いつかない、彼なりの彼しかできない奇抜で、そして珍妙な「勇者の戦い方」の第一歩でもあった。

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