第19話 幻の魚を追え!!
『「俺はさすらいの料理人。
ダンジョンで腹を空かせたのにゃら、俺に会いに来るといいにゃ。」
ダンジョンの料理人の誓い』
「ケ、ケットシー!?」
トトマたちの目の前にいる、つやっとした黒い毛並み、目つきは鋭く、見た目とは裏腹に渋い声で喋る猫のようなモンスター、通称ケットシーを見て彼は驚き慄いた。
勿論、そのケットシーが喋ったのは事実であり、モンスターと会話できる能力を持つトトマにのみ聞こえたわけではない。
ダンジョンに数多モンスターは存在すれど、このケットシーのように人間の言葉を理解し、その上話ができるモンスターとなるとその数は少ない。そんな希少なモンスターであるケットシーは概ね多くの挑戦者に対して友好的であり、他のモンスターとは異なり突如襲ってくることなどはほとんどない。
また、ケットシーは借りた恩は必ず返すとも言われている程に人情深いモンスターとしても知られている。ダンジョン内で生き倒れになっていたケットシーを助けた一人の挑戦者が、ある日ダンジョン内でその命の危機に遭遇した際、以前助けたそのケットシーが彼女を助けてくれたという実話を基にして作られた『ケットシーの恩返し』とかいう本があるとかないとか。
とにかく、見た目からの愛くるしさと人間の言葉も話せること、人情深いという噂から、ケットシーは挑戦者から特別視されているのである。
だが、そんなケットシーが挑戦者のダンジョン攻略に同行することなど聞いたことも見たこともなかったトトマは、急に現れた料理人風の恰好をしたブルースに驚いたのである。
「そう!彼が我々の今回の旅仲間の最後の一人だ!!・・・いや一匹か?」
「は、はぁ・・・」
唖然とするトトマを他所に、ブルースはキャンプ地の奥の方で調理していた料理たちを次々に運んでくるとインディ、キティ、トトマの三人の前に手早く並べていく。その光景に二人は慣れた様子で、配膳するブルースに対して笑顔でお礼を言っていたが、トトマは終始目を丸くしていた。
「ど、どうして、ケットシーが一緒にいるんですか?」
トトマは、目の前に広がるダンジョン内で採れたものたちをふんだんに使った料理たちに圧倒されながらもインディに問い掛ける。先程インディは旅仲間と言っていたが、何かブルースを連れていく目的があるのかもしれないとトトマは疑問に思ったからだ。
「ブルース君は見ての通り、我々の料理担当なのだよ。やっぱり、ダンジョンのことを理解しているものが作る飯は美味いな!!」
「あ、いや、そうではなく・・・」
「どうしたにゃ?にゃにか嫌いにゃものがあったかにゃ?」
依然として料理に手を付けないトトマのことが心配になったのか、ブルースは渋い声でトトマを気遣う。
「い、いや!?違うんだ!?・・・い、いただきます!!」
そんなブルースの言葉にトトマは慌てるようにして目の前にある料理に適当に手を伸ばして口に入れる。だが、少し噛んで味わった後、ピタッと一瞬動きを止め、再び違う料理へと手を伸ばす。
(な、なんだこれ!?)
トトマたちの前に並べられた料理たちは特別に貴重な食材を使っているわけではない。だが、口の中に広がるその旨味はトトマが今までに味わったことのない美味しさであり、彼はブルースに関する疑問などは忘れ、次から次へと夢中になって料理たちに食らいついていった。
そんな黙々と食べ続けるトトマの様子を見て、キティもインディもニヤニヤとした顔をし、ブルースも嬉しそうにうんうんと頷く。
「どうだいトトマ君?ブルース君の料理は?」
「お、美味しすぎます!!」
おおよそ返ってくる答えが分かりつつもインディはニヤッと笑って問い掛けたが、トトマは間髪入れずにそう答えた。だが、トトマの答えは嘘ではなく、本当に今まで食べてきた中で一番に美味しい料理だったかもしれなかった。
しかし、そんな料理も無限に出てくるわけではない。気が付けばあんなにあったはずの料理たちは忽然と姿を消し、あるのは空になった皿たちだけであった。幸せな時間が過ぎ去り肩を落とすトトマであったが、そんな彼の背中をポンと叩くものが一匹。
「デザートもあるにゃ」
トトマが振り返るとそこにはブルースがケットシーとは思えない男前の表情で立っていた。そんな彼の手には、小さくも美しく彩られた、そして美味しそうなデザートたちが並んでいる。トトマはそれらの内の一つを取ると、心のそこから感謝し、「いただきます」と言った。
「いや~食べた!食べた!!」
あっという間に過ぎ去った食事の後、幸せそうな顔をしてキティは再びゴロンと横になる。トトマも彼女と同じでゴロンとしたい気持ちであったが、ぐっとこらえると忘れかけていた質問をインディにする。
「それでブルースさんはインディさんたちの料理をする為だけにいるんですか?」
「ん?いや、違う違う。我々には共通の目的があるのだよ」
「目的?」
そう聞き返すトトマに対して、インディは言葉を溜めた後にしみじみと答える。
「幻の魚、そう・・・『ムンナギ』さ」
ダンジョンの中には、ダンジョンでしか採取できない貴重な資源がたくさんある。だが、その中でもダンジョンでしか採取できない上に数までもが少ないという貴重中の貴重な食材、幻とまで言われた7つの食材『奇跡の七つ星』と呼ばれるモンスターたちが存在する。それらはそれぞれ地表に存在する牛、鳥、魚、卵、虫、果実、野菜に似た姿をしているらしく、その全てを食したことのある者は世界に一人しかいない。その者こそ、かの初代勇者クロスフォードに仕えた仲間の一人であり、その彼がダンジョンの攻略中に書き残した手帳は現在のダンジョンの食材を使った料理たちの基礎ともなっている。
その『奇跡の七つ星』の一つとされる幻の魚『ムンナギ』とは、一見は魚とは思えない程の見た目をしているらしく、奇跡的には発見した者は「蛇かと思って見逃した」と言ったそうだ。それに、ムンナギの出現する場所は詳しくは分かっておらず、しかも月に二回ほど変化するダンジョンにおいては、その出現場所を特定するのは非常に困難である。だが、それ故にムンナギはとても高価な額で取引されるらしく、生きて丸ごと捕獲となればおそらくその捕獲者は一生遊んで暮らせるのかもしれない。
そんな幻の魚と言われているわけだが、それではどうして、またどうやってムンナギを捕獲するのかと疑問に思ったトトマは素直にインディたちに問い掛ける。
「ん~、どうしてって言われれば、私は研究のため、キティ君は賞金のため、そしてブルース君は・・・」
「俺は使命のためだにゃ」
「し、使命?」
「そうだにゃ。俺はある人との約束を果たすために『奇跡のにゃにゃつ星』を全て調理し、食べにゃいといけにゃいのにゃ」
ブルースの口調はケットシー特有で可愛らしかったが、その熱意はガツンとトトマの胸に伝わった。もしかすると、ここにいるインディやキティよりもブルースは幻の魚に対する情熱があるのかもしれない、そう思わせる程であった。
「そこで、提案があるのだがトトマ君」
そう話を切り出したのはインディである。ここまでの話を聞いといて話の展開が分からない程鈍感ではないトトマは、そのピリッとした空気をいち早く感じ取ると背筋を少し伸ばす。
「どうだろう、我々のムンナギ捕獲に協力してくれないだろうか?」
インディは真剣な表情でそう尋ね、他の一人と一匹もトトマの答えに期待している様子であった。ここで「嫌です」と言うような薄情な性格ではないトトマであったが、彼には二つの懸念と言うか、問題があった。
「その、すいません。協力することに関しては問題ないのですが、僕は早く仲間と合流しないといけないし、それに今の僕には武器がないんです」
一つ目の問題は、上の階層に残した仲間たちの行方である。ミラやモイモイ、オッサン、スラキチ、コクリュウたちは無事なのか、今もトトマを探しているのかなど、トトマは彼らのことが心配になってきたのである。勿論、トトマがいなくなったからといって、全滅するような頼りない仲間たちではないが、今もなお必死でトトマを探しているのであれば、早く安心させたいという思いが彼にはあった。
二つ目の問題は、彼の愛用していた属性武器「フレイム・ブレイド」である。その武器がないと戦えないというのもあったが、せっかくアリスから貰った大切な物を捨てるような真似はしたくないとトトマは思ったのだ。
そんなトトマの抱える二つの問題を聞き、インディはしばらくうむと考えるとトトマに提案をする。
「それでは、トトマ君。我々を手伝ってくれるというのであれば、君の無くした武器を一緒に取りに行こう。君もあそこに一人で戻るのは嫌だろう?」
「そ、そうですね」
「そして、君の仲間のことだが、もしかしたらダンジョンの外に帰っているという可能性もあるし、今まさに君を捜索しているという可能性もある。なら、彼らがまだダンジョンにいて君を捜索していると仮定して我々と行動しておいた方が、トトマ君もその仲間に早く会えるのではないかな?」
「・・・確かに、そう言われてみればそうですね」
もしダンジョンから撤退していたとすればミラたちは安全である。それに、もし彼女たちがダンジョンの中でトトマの捜索をしていたとすれば、ここの階層に来るに違いない。ダンジョンは広いとはいえ、落ちた第二十六階層より上を捜索するわけないし、もしかしたらミラたちに会えるかもしれないと前向きに考えたトトマはムンナギ捕獲への参加を表明した。
「じゃあ、そうと決まればまずは武器回収からだね~」
黙ってトトマたちの話を聞いていたキティはバッと立ち上がりそう言うと、脇に置いてあった彼女の単槍を使いながら、休んでいる間に固まった体をほぐしていく。
「それで作戦はどうしますか?また、あの光ってうるさい道具を使うんですか?」
「あぁ、あれは『閃光爆弾』と言うものだが、もう残りが少ないからね。あれはいざという時のために取っておこう」
「な、なら正面突破ですか?」
トトマはちらりとキティを見ながらインディに問い掛ける。この三人と一匹の中で、現時点でまともに戦えそうなのは彼女だけであるようにトトマは思えたからだ。
「はっはっは!トトマ君は意外と武闘派だね!!」
だが、トトマの質問を笑い飛ばすとインディはダンジョンの色々な情報がみっちりと詰め込まれた自身の頭をコンコンと指差す。
「こういう時は頭を使うんだよ、トトマ君」
「頭・・・ですか」
「そう、知識こそ人間の持つ最大の武器だからね」
そう言うとインディは自信満々に鼻を鳴らした。その言葉は決してただの見栄ではなく、彼自身のダンジョンでの経験から出た言葉であり、それには言い知れぬ説得力があった。
「とりあえずは、ベアズリーたちの巣に行ってみよう。彼らがいなければそのまま武器を取り返せばいいし、もしいた場合は、私に任せなさい」
インディはドンッと厚い胸を叩くと彼もまた準備に取り掛かる。トトマもそんな彼を信じると、脱いだ鎧を装着し、支度を始める。だが、トトマは大して準備することはないので、ブルースと共にテントやらなにやらの道具を整理し片付けるのが主であった。
そして、全ての片付けと準備を終えたムンナギ捕獲隊は、まずトトマの武器を回収するためにベアズリーたちの巣へと旅立った。
先頭を警戒して歩くのはトトマである。武器はないが、一番頑丈そうな鍋の蓋とフライパンを持ち、先を行く。勿論、こんな装備でベアズリーを叩きのめすことができるのは、「武器万能」に秀でた勇者ココアだけであろう。とは言え、危険なダンジョンを丸腰で歩くよりかは調理器具でも持っていれば安心するし、意外と戦闘にも使えるので、何もないよりかは十分にましであった。
次に続くのは巨大なバックを背負うインディであった。彼自身そこまでの戦闘能力はない。幾ら体を鍛えているとはいえ、彼の持つ「執筆のスキル」では戦闘に関係するような能力はないし、ステータス補正もそこまで上乗せされない。だが、彼の持つ知識だけはこの中の誰にも負けないものであり、どの方向からどんなモンスターが来ようとも対応できるようにトトマの後ろに控えているのだ。
次いで、ブルース、最後にキティが最後尾を固め、後ろからの敵襲に備える。
しばらくして、途中幾度かインディの指示で立ち止まることはあったが、特に危険で好戦的なモンスターに遭遇することなく、無事にベアズリーの巣の近くまでトトマたちは到着することができた。
「それでは、キティさんよろしく!」
「はいよ!」
一同はベアズリーの巣の近くに茂みに隠れると、キティだけはひょいと一人単身でベアズリーの巣へと向かう。ここからは彼女の「隠密のスキル」が重要になってくる。戦闘よりもダンジョン内の危機察知などに特化した「隠密のスキル」は、トトマの「天性の感」にも少し似た特徴を持つ。だが、トトマの「天性の感」は”受け取る”力が強いのに対して、「隠密のスキル」は”与える”力が弱いのである。なので、索敵などにおいて敵に与える気配を遮断することで敵に気付かれにくくなり、逃げるなり、先手を打つなりが得意なのだ。
その「隠密のスキル」がある故に、キティはこうして一人でもダンジョン内を安全に探索できるのである。
そんな彼女に課せられた任務はベアズリーたちが巣にいるかどうかの確認である。ベアズリーたちがいた場合は、右手を上げてゆっくりと回す手信号を出し、いない場合は、右手を下から上に二度上げる手信号を出す。
ダンジョン攻略においてこのような作戦指示の伝達は重要であり、それ次第で戦況が大きく変わることもある。更に、モンスターに感づかれないように音を立てないようにして合図を送るためには、今回用いた手信号や魔法による光信号などもある。これらは今となってはダンジョンにおいて活用されているが、本を正せばユウダイナ大陸における人間同士の戦争によって編み出されたものだ。広大な戦場において、様々な音が飛び交い、言葉による伝達が不可能な場合において、手信号や光信号は重宝され、群を個のように操るにはとても便利だったのである。そして、現在においてそれらは、ダンジョンで使えるように様々な改良が施され、「攻撃」「停止」「撤退」「発見」など様々な手信号がある。また、ダンジョンに挑む前にはきちんとそれらを学んでおいたほうが良いとされ、ギルドでは初心者の挑戦者たち向けの講習が開かれている。
そして、できればベアズリーたちにはいないで欲しいと願うトトマたちであったが、その目に写ったのは、残念ながらキティが右手を上げてゆっくりと回す姿であった。
その姿を視認すると、インディはそそくさと何やら準備を始める。
「途中で道草食って良かったね~」
誰に言うわけでもなく、むしろ自分に言い聞かせるようにそう言うと、インディは途中で拾い集めたものでベアズリー対策用の道具を作り出した。出来上がったそれにぐるぐると布を撒きつけると最後に結んで固定し、結び目に少量の油を垂らした。
「ほい、じゃあトトマ君後はよろしく」
「大丈夫・・・ですよね?」
「大丈夫、大丈夫!」
その作戦に少々疑っていたトトマであったが、自信満々に笑うインディを見ると、半ば諦めた様子で、手渡されたベアズリー対策用の道具を片手に先行するキティの下へと向かう。
「キティさん」
「はい、お疲れ~、それが例の秘密兵器?」
「らしいです」
トトマとこそこそと話しながらその道具を受け取るとキティはちらりとインディの方を確認し、作戦開始の合図を出す。インディもその合図を受けると、何も問題は無かったので了解と合図を返す。
「じゃあ、トトマ君、お願いね」
「分かりました、『魔よ、来たれ、照らして温める仄かな火となれ』『
剣という触媒がない以上トトマが使える魔法は仄かな小さい火だけであったが、これでベアズリーは燃やせなくとも、目の前にあるベアズリー対策用の道具に引火することはできた。
「一か八か、頼みますよ女神様!!」
数ある女神たちの中でも、挑戦者の生き死にに最も関係しているであろう”生命の女神イキ・カエール”にそう願うとキティは燃える道具をベアズリーたちの方へと投げ込む。
それは燃えながらもベアズリーたちを通り越し、遥か遠くの方へ飛ぶとトトマたちとは正反対の方向へと落ちた。後はインディの立てた作戦の成功を祈るのみである。また、ここまでくれば流石のベアズリーでもその異変に気が付く。彼らは、突然投げ込まれた燃える何かに気を引かれるとバッと立ち上がり、警戒しながらそれを遠巻きに見つめる。
そして、メラメラと布が燃える焦げ臭いにおいが立ち込める中、急にトトマたちの鼻を甘ったるい匂いが襲った。それと同時に、トトマたちよりも鼻の効きが良いベアズリーたちもその甘い匂いをいち早く感じ取ると、一目散に駆け出し、まだ燃えているにも関わらずにその布の中に包まれた匂いを放つ正体”蜜”を求め始めた。
これがインディ考案の「ファイヤー・ビーの巣囮大作戦」であった。
実はこのベアズリー、一見獣のような見た目をしているので初めてベアズリーに会った挑戦者は火が弱点であると勘違いをしてしまいやすい。しかし、ベアズリーにとって火の属性はむしろ効きにくいのである。ベアズリーが主食とするのは何も肉や魚だけでなく、ファイヤー・ビーと呼ばれるモンスターの巣に含まれる蜜も好物なのである。しかも、そのファイヤー・ビーの巣は通常状態であればあまり匂いはないのだが、燃やすと途端に甘い匂いが立ち込めるという特徴を持つ。
インディはそのことを理解した上で、道すがらファイヤー・ビーの巣を少し頂戴し、それをベアズリー対策用の道具として用意しておいたのである。
正しくそれは彼の言う通り頭を使った作戦であり、キティは蜜に夢中になるベアズリーたちを横目に素早くトトマの武器を回収すると急いでトトマの下へ戻ってきた。
「作戦成功!!」
走りながらそう言うと、キティは手にした剣をトトマへ投げ渡した。
「ありがとうございます。急いで逃げましょう!」
トトマは武器を手にしたが、無用な戦いをする必要はない。
剣を受け取ったトトマはしっかりと腰に装着すると、ベアズリーの巣からキティと一緒に猛烈に逃げ去り、茂みに隠れていたインディとブルースたちに合流すると、勢いそのままに一目散にその場から去った。
しばらくトトマを先頭に一同は走り抜けた後、階層ないにある大きな湖の水辺まで来ると彼らはぜーぜーと息を荒げながらもようやく体を休める。
「どうだ?上手くいったろ?」
満足気にニカッと笑うインディに対して、トトマは感謝すると同時に、彼の作戦に感銘を受けた。今まで目的を果たすためには戦うしかないと思っていたが、今回のように少しの危険はあるが戦闘を回避して目的を達成するという方法もあることをトトマは学んだ。そして、これからより危険を増すダンジョン攻略において、今回得た教訓は必ずやどこかで役に立つだろうとトトマは胸に深く刻み込んだ。
「インディさん、ありがとうございます!お陰様で武器が元に戻りました」
「いや~、なんの!なんの!!」
「キティさんも・・・って、あれ?」
インディの功績は大きかったが、キティの働きも重要であった今回の作戦。なので彼女にもお礼を言おうとしたトトマであったが、辺りを見渡してもその彼女の姿は見当たらなかった。
「キティさんはどこに・・・?」
「あ~・・・、彼女はよく迷子になるからね、おーい!キティくーん!!」
しばらくそう叫んでいると、突然茂みがガサガサと揺れ、茂みの中から勢いよくキティが飛び出してきた。
「うわぁ!?だ、大丈夫ですか?」
「う~、大丈夫、大丈夫、平気、平気!!」
パッパッと服に着いた葉っぱやらを掃いながらもキティは元気そうにそう言ったので、とりあえずは一安心とトトマはほっと胸を撫で下ろした。これで、無事にトトマの愛剣は彼の手に戻ってきたのだ。後はその恩を返すために幻の魚「ムンナギ」を探し、捕獲するだけである。
「それで・・・ムンナギの居場所って分かっているんですか?」
「うむ、偶然見かけた挑戦者はダンジョン内のどこかにある透き通った湖でムンナギを見たそうだが・・・」
「湖・・・ですね」
トトマは辺りを見渡す。まさにここはダンジョンにある湖の水辺であり、その水面は透き通りキラキラと輝いている。
「あと、そこは静かな場所だったそうだ」
「静か・・・ですね」
トトマは耳を澄ます。まさにここは他の挑戦者もいなければ、いた形跡もなく、物静かな場所であった。
「「・・・」」
インディの言う条件が全て揃った、ムンナギ出現に好条件の場所がトトマたちの目の前に広がっていた。
「まさかね~!!」
「ですよね~!!」
仲良く顔を見つめ合いながら、はっはっはと笑うトトマとインディであったが、不意にトトマの耳に聞きなれない低い声が響く。
『うるさいな~、落ち落ち寝ることもできやしない』
すると、その気だるげな声と共に湖の中からざぶざぶと何かが現れた。
「ム、ムンナギ!?」
「「「えッ!?」」」
その何者かに、トトマは驚きと嬉しさからそう叫び、インディやキティ、ブルースたちの視線が一点に集中した。
確かに、その姿は魚には見えない。
魚には見えなかったが、その姿はあまりにもずんぐりむっくりとした体形であり、とてもではないが幻の魚とは思えなかった。
その魚型モンスターは果たしてムンナギなのかどうかは、神のみぞ知る。
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