第3章 勇者、魔法を学ぶ
第12話 魔法習得の試練に挑め
『「天才は、他者に理解されてはいけない。
その考えが理解されないが故に天才なのだから。」
魔を極めし勇者の語り』
「ま、全く歯が立たない・・・」
ダンジョン第三十階層 番人の間
そこでトトマたち勇者を待ち構える番人の名は“許されざる罪人の花嫁”。
その番人は、ボロボロに汚れた所々が解れている花嫁衣装に身を包み、両手で祈るようにして杖を握りしめている。
だが、不思議なことに今までの番人たちと比べて特にトトマたちに敵対するようなことはなく、この番人はただふよふよと浮いて番人の間を漂っているだけであった。
一見大人しそうに見える番人であるが、しかしトトマたちにはいくつかの問題があった。
1つ目は、その番人が霊体系のモンスターであること。
ゴーストと同じ霊体系であることから、この番人には物理的な攻撃が一切通用しない。つまり、この時点でオッサン、スラキチ、コクリュウの物理主体のパートナーたちにはやることがなく、彼らは番人の間の隅で大人しく成り行きを見守るしかない。
2つ目は、その番人の再生能力である。
番人が霊体系であることが判明し次第、ミラとモイモイを中心に魔法・奇法による攻撃を仕掛けた。しかし、番人に攻撃を当てた先から相手の体力はどんどん回復してしまい、まさに暖簾に腕押しで全く意味がなかった。また、連続でモイモイが魔法を放てればいいのだが、そもそも魔術師ではなく魔装師であるモイモイはマナの貯蔵量が多いわけでもないのですぐに彼女のマナは底をついてしまう。
そして、トトマたちが必死になってあれやこれやと努力しているにも関わらず、その一方で涼しい顔をして漂う番人の姿は一層彼らの気力を削ぎ、やむなく撤退を余儀なくされたのであった。
「あ!ちょっと待って!最後にもう一回!!」
すると、撤退するために『転送石』の準備を始めるパートナーたちを呼び止めると、トトマは一人番人へと近づく。
「おーい!ねぇ?聞こえますかー?」
空中をふよふよと彷徨う番人に対して下から声を掛けるトトマの姿は傍から見れば奇妙奇天烈な行為ではあるが、彼とその仲間たちにとってはもう見慣れた風景になりつつあった。
また、トトマ自身のレベルが上がったことにもよるのか、トトマと契約しているパートナーたちにもモンスターとの会話能力が付与されるようになっていた。初めてスラキチやコクリュウと話した時や、ダンジョン攻略中に聞こえるモンスターの声にはたいそう驚いたミラ、モイモイ、オッサンの3人であった。しかし、慣れとは恐ろしいもので今では彼らもそこまで驚くこともないし、目の前で番人に話しかけるトトマを見ても、それが普通になりつつある。
なので、初めて出会うモンスターに関しては、今トトマが行っているようにこうして話しかけることが習慣になっていた。
『・・・』
「う~ん、おかしいなぁー・・・」
だがその一方で、この番人と同様会話ができないモンスターも存在した。それはこちらに原因があるのか、それともあちらに原因があるのかは今の所は分からないが、トトマの能力を用いても全てのモンスターと意思疎通ができるとは限らないようであった。
『兄貴、兄貴、どうですか?話は通じますかい?』
「う~ん、やっぱり無理みたいだね・・・」
心配して傍に来てくれたスラキチに対してそう言うと、トトマはもう一度やれやれと困った顔で番人を見上げる。
今までの番人の感じからすると番人は皆話ができていたのだが、どうやらそうでもないのかもしれない。もっと自身の能力に関して理解を深めないといけないと再確認し、トトマはダンジョンから撤退しようと待っているパートナーたちの下へ戻ろうとしたが、ふとそこにミラがいないことに気が付いた。
「あれ?ミラは?」
「ミラちゃんなら、あそこにいるよん☆」
モイモイの指差す方を見ると、何故かミラは一人離れてぽつんと番人を見上げ祈るように立っていた。
「・・・何してるんだろ?」
「何か感じる物があるんじゃない?☆」
「感じる物?」
不思議なことを言うモイモイに興味を持ったトトマは彼女に問い直した。
「よく分かんないけど☆」
しかし、大した答えは返ってこず、モイモイはあっけらかんとしている。そんな彼女は当てにならないと短くため息をつき、トトマはミラへと声を掛ける。
「おーい!ミラ!!一旦、帰るよー!!」
「あ、はい!!すいません!!」
そんなトトマの声に気が付くと、ミラは何事もなかった様にとてとてと歩み寄ってくる。
「どうしたのミラ?何かあった?」
「あ、いえ、特に・・・何もないんです」
心配そうに顔を覗き込もうとするトトマに対し、ミラは恥ずかしがりながらも手をパタパタとさせてそう告げた。何かを隠しているようなわけでもなく、モイモイの言う通りに何かミラだけに感じる物があったのかもしれないとトトマは考えた。なら詮索するのも無粋だと思い、トトマは特に何も言わずに皆と一緒にダンジョンから脱出した。
ほどなくして、無事ダンジョンから帰還したトトマ一行は、次に彼の部屋に集まると今回の番人攻略に関する傾向と対策について話し合いを開催した。
「ん~☆とりあえず、オッサンさんは戦力外だね☆」
「おいおい、モイモイちゃん・・・おじさん傷つくなぁ・・・」
開幕早々、モイモイが無垢な笑顔で毒を吐きオッサンを責め立てるが、物理攻撃が効かない上に滞空している番人には直接的な攻撃も難しい。だからこそ、この番人への対策を考える必要がある。
「まぁまぁ、オッサンは今回は投擲係としてモイモイさんが属性を付与させた武器を投げて回収する係ということで」
「了解です」
「それに・・・、今回は僕にも責任があると思う」
そのトトマの言葉にパートナー一同がしんと静かになるが、ミラは慌ててフォローを入れる。
「そ、そんな!?トトマ様は頑張っておられます!スラちゃんやコクリュウさんだってトトマ様が苦労したからこそ仲間になってくださったわけですし。と、とにかくトトマ様は悪くありません!」
「あ、ありがとう、ミラ。でもそうじゃないんだ。別に自分の能力の無さを卑下しているんじゃなくて、僕もまだまだ強くならないといけないなって話」
「そ、そうでした・・・か。す、すいません・・・」
急に声を上げたのが恥ずかしくなったミラは耳まで赤くして俯くとぼそぼそとそう呟いた。そんな彼女を気遣いつつもトトマはモイモイの方に体を向ける。
「それで、実はモイモイさんに頼みがあるんだ」
「およ?☆私に何の用だい?☆」
「魔法を教えてほしいんです」
勇者には「魔の素質」と「女神の加護」という能力があり、個人差もあるがどの勇者も等しく魔法と奇法を使用することができる。勿論、「魔の素質」に秀でた勇者バルフォニアや「女神の加護」に秀でた勇者アルカロでない限り、それぞれのスキルを専門にした魔法使い・魔術師や僧侶・聖職者の方がその能力は上である。
だが、急にそんな魔法や奇法を使える仲間を増やせる当てのないトトマにとって、今までモイモイやミラに任せっきりであった魔法や奇法をトトマも習得することで、戦略の幅を増やす算段であった。
「ふ~む☆」
そんなトトマのお願いに珍しく悩んだ顔を見せたモイモイであったが、しばらく悩んだ後に口を開く。
「魔法と言っても私は”魔装師”だからね☆もしかしたら勝手が違うといけないから、トトマ君にはとっておきの人物を紹介してあげよう☆」
「と、とっておき!?それはどんな人なんですか?」
「ふっふっふ☆それはお楽しみに、だよ☆」
モイモイの言うその”とっておきの人”の正体は不明のままであったが、ここは彼女を信じてみることにしたトトマは、彼女と共にその”とっておきの人”がいる場所にまで行くことになった。
その間、ミラも思うところがあるらしく、彼女は一人カエール教の神殿へと向かった。オッサンは宿にて待つと言い残して自分の部屋へと消えた。
スキップをしながら心なしか嬉しそうなモイモイの後にトトマは続き、市場や店を過ぎ、ギルドを過ぎ、神殿を過ぎて、着いたところは魔階島の端にある”魔術師協会”であった。
この魔術師協会では、魔法系を使用するスキルを持つ者たちが集まり、日夜魔法の研究に勤しんでいる。トトマはこれまで魔法に関しては一切触れてこなかったので、このような場所に来るのは初めてでもあった。そこを道行く人のほとんどが大きな杖や古びた本などを手にし、黒いローブを身に着け、正に魔術師といった姿であり、トトマは何だか楽しくも居心地の悪さも感じていた。
「ここが魔術師協会だよ☆」
そんなトトマの先頭をテクテクと歩くモイモイは何故か自慢気に、そして嬉しそうにこの場所を紹介すると、彼女はどんどんと建物の中へと侵入し、どんどん廊下を歩いて行く。
「モ、モイモイさん!?良いんですか?無断でこんなに中まで入ってしまって・・・」
「大丈夫、大丈夫☆」
そんなトトマたちのことを道行く人たちは訝しげに見つめるが、そんなことお構いなしにモイモイはずんずんと突き進むと、とある大きな扉の前で足を止めた。トトマもその扉の前で立ち止まると、そこに書かれている文字を読む。
「・・・図書館ですか?」
どうやらその扉の向こうは本が保管されている場所らしく、モイモイの案内ではこの向こうに例の紹介したい人物が待っているのであろう。
「ささっ☆どうぞ、どうぞ☆」
そう言われ、トトマは恐る恐る古びた扉を開けると、そこには巨大な空間が広がっており、右を見ても左を見ても何処を見ても本だけが無数にあった。
「・・・す、凄い!」
その光景に単調な感想しか言えなかったが、トトマの言う通りにその場所は言葉では言い表せないほどに圧倒的な光景であった。入口から真っすぐ歩いた巨大な部屋の真ん中には案内所と本を読む場所が設けられていたが、それ以外の場所にはずらりと本棚が並び、その中にはぎっしりと本が詰め込まれている。おそらく一生掛けても読み切れないほどの本の多さにトトマは驚きつつも、ぴょんぴょんと案内所へと向かうモイモイに続いて彼もそこへ向かう。
「ちょーっと待っててね☆」
「は、はい・・・」
すると、モイモイはトトマを一人残して案内所のカウンターへ行くとそこで何やら受付の女性と話を始めた。受付の女性は少し戸惑った様子であったが、不意にモイモイが見せた彼女自身のステータスを確認すると、驚いた様子でどこかに走り去っていってしまった。
「おっまたせ-☆」
「だ、大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫☆今呼んできてもらってるからさー☆」
そう言うとニコッとほほ笑んだモイモイのことをトトマは信用し、彼らは大人しくその場で待つことにした。すると、しばらくして遠くの方から一人の男性がずかずかと歩いてくるのが見えた。背格好からはそんなにトトマと歳が離れているようにも見えない彼であるが、どこか不機嫌な顔にも見える。
そして、その接近する男に気が付くとモイモイはその場で大きく手を振ってこう叫んだ。
「あ!☆お兄ちゃ~~ん!!☆」
しんと静まり返った神聖な空気の中モイモイのあどけない声が響き、一瞬にして周りがざわめき始める。それと同時にトトマは彼女の口から出たまさかの言葉に驚き、叫んだモイモイに負けない声量で声を上げる。
「お、お兄ちゃん!?モイモイさんの!?」
「そうだよ☆あの人が私のお兄ちゃん☆」
その言葉を聞くや否や、モイモイの兄らしい人物は歩くのを止め、もはや走り出すと、モイモイとトトマの腕を掴んで即座に図書館から飛び出した。その後ざわめく図書館内であったが、今度は呆気に取られてしんと静まり返ると元の静けさを取り戻した。
「はぁ・・・はぁ・・・、おーまーえーはー!!!!!」
ぜぇぜぇと息をするモイモイの兄は掴んだ腕を離すと、恥ずかしさなのかそれとも走ったせいで疲れたのかは分からないが、とにかく顔を赤くして自身の妹に言い寄る。
「あはは☆お兄ちゃん、久しぶり☆」
「久しぶり、ではない!!お前はどれだけ常識知らずなんだ!?」
「えー☆なんでよ☆お兄ちゃんをお兄ちゃんと言って何が悪いの☆」
「そういうことではない!というかお兄ちゃん言うなッ!!」
「あ、あの~」
トトマの言葉にはっと冷静になったモイモイの兄は、自分たち兄妹が騒いだせいで集まってできた廊下の人だかりに気が付くと、慌てた様子で再びトトマとモイモイの手を引きその場から逃げ出した。
「お兄ちゃん☆痛いよー☆」
「うるさいッ!!!」
しばらくモイモイの兄に引かれるがままに連れて行かれ投げ込まれたその先は、何やら研究室のような場所であり、そこら中に本は山積みにされ、何かしらの実験器具は散在し、黒板には何やら文字がたくさん書いてあった。
その部屋の様子をぼけーっと見渡して立ち尽くすトトマと、ニヨニヨとほほ笑むモイモイを放って置き、モイモイの兄はどさっと椅子に座ると怒ったような困ったような顔をして話し出す。
「はぁ・・・それで!モイモイ、今日は何の用だ、というかその男は誰だ?」
「この人はトトマ君だよ☆ほら前に説明した☆」
「・・・トトマ?ほう、では彼が」
そう言うとモイモイの兄はくるっとトトマに体を向けてその顔をじっと見つめる。そのあまりの剣幕に一瞬怒られるのかと身構えたトトマであったが、モイモイの兄の取った行動は意外なものであった。
「いつも愚妹が世話になっている。私はバルフォニア。『魔術の勇者』と言った方が分かりやすいか」
「あぁいえ、その世話だなんて・・・って、えぇぇぇ!?あ、貴方があの『魔術の勇者』さんですか!?」
トトマのその驚きに、下げた頭を上げると椅子に腰かけたままバルフォニアは小さく鼻を鳴らすと、胸を張って自慢げにニヤリと笑う。
彼は魔階島にいる12人の勇者の内、4番目の勇者。
「魔の素質」が長けた「魔術の勇者」とも呼ばれている。
「四大元素」と呼ばれる火、風、土、水、それに「二外元素」と呼ばれる光、闇の計6種類の魔法を極め、「伍奏」までの詠唱を動きながらでき、しかも魔法の組み合わせも自由自在という天才型の勇者である。
そして、あの自称「愛と正義の魔装戦士」マジカル☆モイモイの実の兄でもあった。
「そうなんです☆とっておきの人とは私のお兄ちゃんのことなのでした!☆」
「だから、人前では兄と呼べと・・・ん?とっておき?何の話だ」
誇らしげにそう言い喜ぶモイモイに対して、一方でバルフォニアは何のことかと不思議そうな顔をする。
「ああ!?それはこっちの話で・・・はい」
未だにモイモイとバルフォニアの関係は信じがたい事実であったが、トトマも一人の妹のいる兄としてバルフォニアのモイモイを見る目は自分に似通った点があり、そのことがバルフォニアに対する信頼に値した。
そこでバルフォニアのことを信頼すると、早速ではあったが彼の質問に答える形でトトマは現状の説明と魔法の習得に関する話を彼に伝えた。
「なるほど、三番目の番人ね。確かに奴を魔法で攻めるという考えは悪くない」
「それでお願いがあるのですが、バルフォニアさん、僕に魔法を教えてくれませんか!」
「んん?私が、魔法を・・・ね」
ところが、バルフォニアのその顔はあまりトトマの話に乗る気ではない様子であった。その顔を見てトトマは少しの不安を抱く。
「だ、だめですか?」
「ん?あぁ、すまない。だめというわけではないのが・・・、私も多忙を極める身でね。あまり時間がないのだよ」
「そ、そうですよね」
バルフォニアのその回答にトトマは少し肩を落としたが、部屋の中を見るあたりバルフォニアの忙しさは目に見えて想像ができた。壁に貼ってあるスケジュール表にもびっしりと今後の予定が詰まっており、ダンジョン攻略をする暇があるんだろうかというほどの余裕のなさであった。
「えー!?☆お兄ちゃんの意地悪!☆いいじゃん、可愛い妹と、可愛いトトマ君のためにさー☆」
「か、可愛い・・・」
「私は意地悪をして言っているわけではないッ!!?」
そんな話を聞き、今までのトトマであったなら「分かりました。ご迷惑をお掛けしてすいません」と引き下がる所であった。だが、何とかしなければならない、一歩進まなければならない、とダンジョン攻略が進むにつれてそう考えるようになっていったトトマは食い下がってお願いを続ける。
「バルフォニアさん、失礼を承知ですが何とか僕に魔法を教えてくれませんか!少しの時間でも構わないんです!何かきっかけみたいなものが分かれば、後は自分でやりますから!!」
「ト、トトマ君!?☆」
普段は飄々としているモイモイであったが、そのトトマの発言と意思の固さに少し驚いた表情を見せた。自分よりも年下のトトマのことは弟のように思っていた彼女であったが、彼も一人の勇者であるのだと少し実感した瞬間でもあった。
「・・・お兄ちゃん☆私からもお願い☆」
「ん!?し、しかしだな・・・」
「お願いします!何でもしますから」
「ん?」
「そうだよ☆”トトマ君が”何でも言うこと聞くからお願い☆」
自分の横でニッコリと笑ってそう言うモイモイに、後に引けなくなったトトマは覚悟を決め、じっとバルフォニアを見つめる。
「・・・今、何でもするって言ったのか?」
「い、言いました!魔法を教えてもらえるのなら何でもします!!」
「そうか・・・」
すると、バルフォニアはしばし考えた後、机の上に置いてあった紙に何やら文字を書きなぐると、彼はそれらを3つの封筒に分けてトトマの前に無言で差し出した。
「こ、これは?」
目をパチクリさせてその封筒たちを見つめるトトマに対して、バルフォニアは咳ばらいをすると真面目な顔をして答える。
「いいか、この3つの封筒の中にはそれぞれ異なった注文を書いた紙が入っている。今からトトマ君にはこのどれかを一つ選び、中に書いてある物を取って来てほしい。中には入手困難な物から簡単な物もあるが、それを選び出すのはトトマ君の運次第だ。見事紙に書かれた物を持って来れたのなら、私が直々に魔法の基礎を教えてあげよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし!」
トトマがバルフォニアの提案に喜んだのも束の間、彼はより一層険しい顔をして話を続ける。
「ただし、条件がある。一つ、これはトトマ君一人で成し遂げること。二つ、紙に書かれた物をここに持ってくるまでに誰かに見られてはいけないこと。以上が了解できるのであれば、どれか一つを選び給え」
実は、「天性の感」の秀でたトトマにとっては、たとえ封筒の中身が見えなくとも、それらから放たれているオーラとも言えるような物から大体の中身が判別できる。例えて言うなら、右手と左手どちらかに隠したお金を感覚で判別することができるという大そう地味な能力である。
(・・・!?)
しかし、そんなトトマの能力を持ってしても、その3枚の封筒からは同等のオーラを感じた。
(ど、どういうことだ?これもバルフォニアさんの成せる技なのか?それともどれを選んでも同じくらいに過酷ということか?)
「天性の感」を駆使しても見破ることのできない封筒たちであったが、トトマは覚悟を決めると真ん中の封筒を選んだ。
「・・・それでいいのか?」
内容を知っているバルフォニアは真剣な眼差しでそう尋ねる。
「これでいきます!」
内容を知らないトトマはごくりと覚悟した。
「良し、では行きたまえ・・・。って、あ!?ふ、封筒は外に出てから誰にも見られないようにして開けるんだ!!では、達者でな!!」
早速封筒を開けようとするトトマを慌てて阻止すると、バルフォニアはトトマを急いで部屋から追い出した。
「ふぅ・・・」
急いでトトマを送り出したバルフォニアは一息つくが、その様子を傍から見ていたモイモイはニコニコと嬉しそうに笑っていた。
「何だかんだ言ってトトマ君のために色々としてくれるなんて、やっぱりお兄ちゃんは優しいね☆」
「・・・お兄ちゃんは止めなさい」
そう言うとバルフォニアは自分の椅子へと戻ると疲れたように座り込んだ。
「さてさて、上手くいくかな・・・」
だが、モイモイから優しいと言われたバルフォニアの表情は何かを企んでいるかのような怪しい笑みであった。
一方、魔術師協会を出たトトマは封筒を握りしめて一人で歩いていた。まずは、一人になれる場所を探して、それから封筒の中身を確認しなければこの試験は始まらない。
「えーと、どれどれ・・・」
少し歩いた先で、誰も周りにいないことを確認するとトトマは封筒の中に入っていた紙を開き、そこに書かれている文字を確認する。
「ま、まさか!?・・・これは!?」
そこに書かれていた内容に戦慄するトトマ。
バルフォニアの指定通りであればこれを一人で、しかも誰にも見られずに彼の所まで無事に届けなければならない。
果たして本当に完遂できるのかという不安があったが、魔法を極めた勇者に魔法を直接教えてもらうことのできる機会なんて今を逃したらもうないと意気込むと、トトマは一人勇気を振り払って歩き出す。
さてさて、この3つの封筒の中のそれぞれの紙に、実は全て同じものが書かれていたとは、それはバルフォニアと神しか知らない秘密である。
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