第5話 名案は時にして妙案

『「べ、別に好きであいつのパートナーやっているわけじゃないんだからね!!」

 「嫌よ嫌よも好きのうち~、なんてね」      

 「う、うるさい!?」

                    とある勇者のパートナーたちの口論』


「そ・れ・で!何がどうなって、あんなことになったのか、ミラちゃんとお姉さんたちに分かりやすく説明して頂戴!」


大量のスライムたちの奇々怪々な集会?を後にし、ダンジョンから宿に到着するや否や、ポポルはミラとアイスを連れてトトマの部屋に押しかけてきた。そんなポポル自身は椅子に、ミラとアイスはベッドに腰かけ、トトマは一人床に正座させられていた。


「まずは、何でトトマ君があんな大量のスライムたちに囲まれていて、かつ無事でいられたのかを教えて」


「あ、あれは僕のスキルのおかげなんです」


ポポルの質問に対して、トトマはおずおずと答える。


「スキル?『勇者のスキル』にそんなものがあったの?」


「はい、実はこの前『天性の感』の能力を上げたら『交渉』ていう技を覚えたんです。それで、それからモンスターの声が聞こえるというか、何と言うか」


「「モンスターの声が聞こえる!?」」


ポポルとアイスはそんなトトマの言葉に同時に驚いた。彼女らは今まで挑戦者としてダンジョンに挑んできたが、そのような奇妙な能力は聞いたことも見たこともがなかったからだ。


「それで、ある日スライムと話をして、それがスラキチっていう奴なんですが、凄く良い奴で。あ、それでそのスラキチと『スライムダイエット』と称してスライムたちから『スライムオイル』を採取してたんです」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?あー、なんだか頭が混乱してきた・・・」


次々に語るトトマの珍妙な話を上手く処理できず、頭を押さえて黙り込んだポポルに代わってミラが口を開く。


「トトマ様?その『スライムダイエット』とは何ですか?」


「あ、そこが気になるのねミラちゃん・・・」


「え!?アイスさんは気になりませんか?」


「いや・・・まぁ、いいけど、ごめん話を続けて」


そんなミラの質問に対して、トトマは今までにあったことを含めて、スラキチと始めた『スライムダイエット』の説明と『交渉』について判明したことを淡々と話し始めた。


スラキチと知り合ったあの日、トトマはスラキチにとある提案をした。その提案を受ける代わりにスラキチが提示したのが、スライムたちに起こっていた危機を解決することであった。


現在、第十階層までのスライムたちの間では太り過ぎが深刻化しており、その所為で挑戦者から逃げ遅れて死んでしまう問題が多発していた。スライムは食べれば食べる程大きくなる自分たちの体の調整に困っていたのである。


そこで、その問題を解決するためにトトマは考えに考えた結果、『抽出機』で太り過ぎたスライムたちから『スライムオイル』を採取することを提案した。スライムは核を損傷されない限り死ぬことはないので、核を傷つけないようにして『スライムオイル』のみを採取する。スライムは短期間で痩せることができ、トトマは『スライムオイル』を大量に手に入れることができるという一石二鳥の作戦であった。


その結果、『スライムダイエット』は第一階層から第十階層内のスライムの間で流行し、あのようなスライムだらけの場所ができたというわけであった。


さらに、トトマは色々なスライムたちと接することで、『交渉』の技についても何となくではあるがその実態をつかみ始めていた。


まず、会話ができるスライムとできないスライムがいることが判明した。これはおそらくモンスター全般に言えることであるが、どうやら『交渉』で意思疎通ができるモンスターは限られている様だった。だが、その条件に付いては未だに把握できていないことの方が多かった。


次に、会話をできるモンスターとであれば人間と同じように「契約」を結ぶことができ、パートナーにすることができることが判明した。試しに一番最初に出会ったスラキチと「契約」を結んだところすんなりと契約が成立してしまった。しかも、契約破棄に関しては、人間相手の場合は契約破棄料が”契約の神ナカ・ヨーク”から請求されるのだが、なんとモンスター相手なら無料で破棄できたのである。


「な、なんじゃそりゃ・・・」


トトマが大体の説明を終えた頃には、その事実に対して、ポポルもアイスも驚きを通り越して呆れるしかなかった。


確かに今の説明でこれまでのことに辻褄が合う。大量の『スライムオイル』も、『抽出機』の大量買いとその資金、目的も、ダンジョン内でスライムに囲まれても襲われていなかったことなども説明が付く。


でも、普通の人がそれらを納得するには多少無理があった。


だがそんなポポルたちとは別に、ただ一人ミラだけは少し浮かない顔をして話を聞いていた。


「それで・・・今のトトマ様にはもう私たちが必要ないのですか?」


今にも泣きだしそうな顔をして少し震えているミラを見て、トトマはぎょっと驚き慌てる。


「ミ、ミラ!?ど、どうしたの急に!?別にそんなことは言ってないよ!?」


「だ、だって・・・だって」


それ以上ミラは言葉に出すことができず、ただすすり泣くことしかできない。彼女自身かつてトトマにパートナーとして必要とされたことはとても嬉しいことであった。だからこそ、自分の拙いスキルの所為で何度もパートナー解消された経験のある彼女にとっては、トトマから必要ないと言われることは何よりも辛いことだった。そして、最近の素っ気ないトトマの様子から、そう言われるのではないかと彼女は近頃不安し、落ち込んでいたのである。


「トトマ君・・・あのね、ミラちゃんはね、ずーーっとトトマ君のことを心配してたんだよ!」


「・・・心配?」


「当たり前でしょ!何も教えてくれずに毎日飛び出して何処かに行ってしまう姿をミラちゃんは一人で見送っていたんだよ?もし逆の立場であったらトトマ君はどう思うの?」


「・・・あ」


諭すように語り掛けるポポルの言葉から、トトマはミラの気持ちに初めて気が付いた。ぽろぽろと涙を流すミラの気持ちにトトマは初めて気が付いたのだ。


魔階島に来たばかりの頃、初めはダンジョンに着いて来てくれていた挑戦者たちが次々にトトマの下から離れて行く姿。その姿を思い出し、あの頃に感じた寂しさをミラにも味わわせてしまっていたことをトトマは深く後悔した。


「ミ、ミラ。ごめんね。その心配かけて、ごめんね」


トトマは自分のことばかりを考えるだけで、パートナーたちのことを考えていなかった自分を後悔し、反省した。パートナーが欲しいと思っておきながら、そんなパートナーのことをないがしろにしていたのは彼自身だったのである。信用できる仲間が欲しいと願いながら、仲間を信用していなかったのは何を隠そう彼自身だったのだ。


その考えにたどり着いたトトマは、アイスに背中を摩られながらすすり泣くミラの下へと駆け寄る。


「私が・・・勇者さ・・・ために・・・でも・・・必要が・・・だから・・・」


「そんなことはないよ、ミラ。僕にはミラが必要だ。代わりなんて考えていないよ、だからこれからも一緒に来てくれるかい?」


「もち・・・わた・・・なん・・・だか・・・よろ・・・」


「ありがとうミラ。こちらこそこれからもよろしくね。ミラは僕の大切なパートナーだよ」


嗚咽しながらも必死に話しかけるミラに対して、トトマは彼女の手を優しく包みながら話を聞いて答えた。


その二人の光景をポポルとアイスは傍から見てふと思う。


((何でこの二人は会話ができているんだろう・・・))


だが、どうやらトトマもミラも一見落着な様子であったので、アイスはポポルを連れて静かに部屋を後にした。


アイスたちが出て行き、二人きりになった部屋にはしばらくミラのすすり泣く声だけが響いていたが、次第にそれも収まっていく。


「もう大丈夫?ミラ?」


「は、はい、トトマ様!ど、どうも御見苦しいところを」


自分の顔を流れる目やら鼻やらから流れ出た液体に気が付くと、ミラは咄嗟にハンカチで自分の顔をごしごしと拭う。そんな彼女が落ち着いたところで、トトマはもう一度彼女の手を取って、彼女の目を見つめてしっかりとお願いする。


「ミラ、これからも僕のパートナーでいてください」


「は、はい!不束者ですが、これからもよろしくお願いします!」


他人が聞いたら勘違いしそうなやり取りであったが、今の二人にはそんなことは関係なかった。お互いに必要とされているという嬉しさで胸がいっぱいだったからである。


すると、


「やっほー☆トトマ君帰ったんだって☆」


「勇者様ぁ・・・大丈夫ですかぁ?」


手と手を取り合って見つめ合う二人の前に、突然他のパートナーであるモイモイとオッサンが扉を開けて現れた。


「「あ・・・」」


固まるトトマとミラ。


その様子を見てモイモイはにんまりと一言。


「おや?☆お邪魔だったかな☆」


そして、オッサンも一言。


「若さだねぇ~」


「違う違う違う!?そんなんじゃないって!?」


バッと手を放してトトマはモイモイとオッサンにこれまでの経緯を身振り手振り必死に説明した。その横でミラは自分の手をそっと握り、その手にまだ残っている温かさに安堵し微笑んでいた。


そしてしばらく経った後、トトマは疲れ切った様子で椅子に腰かける。


「なるほどね☆それはトトマ君大進化だね☆」


モイモイは本当にトトマの話を理解したのかどうなのかは定かではなかったが、ミラの横に座って彼女をぎゅっと、さもぬいぐるみのように抱きしめている。


「男としてぇ、成長して嬉しいですよぉ~勇者様!」


また、オッサンの方はおそらく理解はしていないだろうが、それは問題ないとトトマは判断した。そして、それらを確認し終えると彼はもう一度立ち上がって三人のパートナーの前で声を上げる。


「皆、心配かけてごめん!でもそのおかげで、第十階層にいる番人の倒し方を閃いたんだ!だからこれからも僕に着いて来て力を貸してくれないか!」


「はい!どこまでも!」


「どこまでも行くよ☆」


「おぉ~」


こうして、トトマ、ミラ、モイモイ、オッサンの四人はもう一度決意を固くした。たとえこれからどんな困難が待ち構えていたとしても、皆で力を合わせてダンジョンに挑むことを決心したのである。


「それで具体的な方法は?☆」


「うん・・・それはね」


ニッと笑った後に、ちょいちょいと三人を呼ぶとトトマは作戦をひそひそと語った。


「だ、大丈夫なんですか!?」


「やー、これは驚き☆」


「ハハハ、面白いなぁ!!」


反応は皆それぞれであったが、一同はトトマの提案したその名案なのか妙案なのか分からない作戦に賛成した。


第一の番人との決戦の日は近い。


そして、その戦いの勝敗は神のみぞ知る。

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