幕間

まだ幼かったころのワタシは打ち上げ花火におびえていた。耳をつんざくような大きな爆発音が怖かったし、なによりも空に火を放つということが天にいる神様を怒らせてしまわないか心配だったのだ。両親に近くでやっていた花火大会に行こうと誘われても、ワタシは泣きながらいやいやと拒んでいたのは今となってはいい思い出だ。


それが今となっては目を奪われ、こんなにも綺麗なものだったのかと目を見開いて花火を楽しむようになったとは人生何があるか分かったものじゃない。



名前も知らない寺を背に階段を下りる。隣にいる美咲ちゃんと要くんは仲睦まじく喋ることはなく、ただただ暗闇に三人の足音だけがこだました。


長い階段を降りると、美咲ちゃんが立ち止まった。


「どうした?」


要くんが声をかける。その声色は普段の彼とは違って抑揚のない、やけに低い声に聞こえた。


「ふたりとも、今日はついてきてくれてありがとう。これ以上ないくらい良い現場取材ができたわ」


ああ、そういえばそんな名目だったっけ。美咲ちゃんも無理にそんな言い回ししなくていいのに。


「私はこのまま辺りを散歩してから帰ることにするから、ふたりは先に帰ってて」


「もう真っ暗なのにひとりで大丈夫?僕もついていこうか?」


仮の彼氏が仮の彼女の心配をしている光景がどこか芝居じみていて、ワタシはその会話に割っていることができなかった。

美咲ちゃんは少しだけ楽しそうに、要くんは少しつまらなそうにしている姿も芝居の一環なんだろうか。


「いいのよ。ここ一帯の土地勘は十分にあるから。それと……」



要くんをよろしくね、とワタシに向けた目は黒曜石のように黒く、そして妖しく輝いていた。


きっともう、ストーリーの終わりが近づいているんだろう。


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